第13話  成敗!

『金華秘書という書物を捜しています』


 玄女はいった。


『金華秘書・・・』


 李爺さんは、普段の作業場である、かろうじて空いている椅子に座り、書物が山と積まれた机の上に肘を付いた。

 思案気に右手で長く白い顎鬚を扱く。

 そこへ男が部屋に這入ってきて、直ぐに俺たちに気付いた。


『お祖父さん、そろそろ明かりを・・・、あ、お客さんですか』

『ワシの孫で、光だ』


 李爺さんは俺たちに男を紹介した。


李光リークヮンです』


 光は手を合わせ、礼をした。

 背は俺と同じくらい。支那風の長衣を着ている。歳は二十代後半だろうか、まぁまぁ整った顔をしている。目は切れ長で鋭い。


『非時だ。爺さんの常連でね』

『玄女です』


 玄女もまた挨拶をした。


『光は本土に居たんだが、清の外交武官として日本に赴任してきた・・・』

『玄女?』


 爺さんの話の途中ながら、光は口を挟んできた。

 自分の名前を呟かれ、玄女は光の顔を見た。


『あんた、まさか、いや、その顔間違いない。義和団に居た玄女だろ!』


 光は叫ぶと同時に、懐から銅銭を一掴み取り出し、それを空中に放り並べ一本の剣に変化させると、玄女に突き掛った。


『成敗!』


 玄女は咄嗟に後方へ飛びずさり、部屋から中庭に出た。

 光もそれを追って外に出る。

 おいおいいきなり過ぎるだろ、どうしたんだよ。

 すべてがほぼ一瞬の出来事で、両者共ただの人間の動きじゃない。

 取り敢えず俺も外に出る。やっぱ止めるべきかな。

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