第7話 探偵の矜持
そんなこんなで、俺と春日と玄女の奇妙な共同生活が始まった。
神保町の通りに面した二階建てで、一階は骨董屋の店舗と厨房と厠。二階は住居になっている。そして地下には俺の武器庫がある。
え? そんなのもう知ってるって?
まぁいいから聞きなって。その地下の武器庫から、いろんな武器や便利道具を、両掌に彫り込んだ魔法陣で召喚して使う訳さ。
何のためにって? そりゃ、俺が探偵だからさ。金になる仕事ならなんでも受けるぜ。だいたいここの家賃、馬鹿にならねーんだぜ?
今では妖怪、人外、異能者に魔術師、外国のスパイから悪党まで、海千山千魑魅魍魎が跋扈し、ありとあらゆる危険が待ち構えてるこの東京じゃ、こういう何でも屋まがいの職業は、案外重宝されるんだ。
そこにきて、この玄女の働きぶり、なかなかどうしていい仕事してくれている。だいたい俺と闘った時から、そうとうの武術の達人だとは思ってはいたけどな。
恐ろしく物騒な魔都・東京で、腕っぷしの強さは役に立つ。
この国に来てから用心棒やってたけど実入りが無かったっていうのは、偏に言葉の壁と、コネと情報が無かったからだろう。
これだけの実力がありゃあ、そうそう負けはしねぇ。
まぁしかし、強けりゃいいってんでもない。探偵ってのは、頭も無きゃ。
なんでもかんでも力押しで解決出来るとは限らねぇんだな。
勘と機転、予測に推理!
これじゃないと探偵とはいえねぇな。
『おい、トキジク。にやにやして自分語りに浸ってるのはいいが、今は目の前のことに集中しろ、端的にいって、薄気味悪い』
背後から、玄女の諭す声が聞こえた。
『あ、ああ? なんだっけ、目の前の現実って』
『いい加減、直視しろ。今私たちは、無頼漢どもに囲まれているんだぞ』
そうでした。今俺たちは、阿片窟通いの息子を連れ戻してくれ、という華族の旦那からの依頼を進めている過程で、なんやかんやで阿片売人たちに囲まれるという危機に瀕していたのだ。
うっかりしてたぜ。
『ま、俺たちにかかれば、素人集団なんて問題ないだろ』
『いや、奥の二人はかなり出来そうだ』
ここは東京の東の外れ、本所の隅田川沿いのとあるレンガ造りの倉庫。
ぐるりと周囲を取り囲む不穏な男たちの後ろに、いかにも油断ならないような二人が控えていた。
『ナニを二人でゴチャゴチャやってんだ? 今更命乞いか?』
おっとロシア語でヤジが飛んできた。
『それもいいだろう。だが助けてはやらねーぜ』
赤ら顔のいかつい白人男がニヤついている。
『どういう集団なんだろうな、こいつ等は』
俺は呟いた。
皇国人に支那人にロシア人が入り混じっている。
しかも犯罪者ばっかりだ。
『直接訊いてみればいい』
玄女が返した。
『ああ、やっぱそれが一番かな』
いろいろ考えても仕方ない。
最終的には、ゴリゴリの力押しの出番って訳だ。
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