第8話  幻想のグレートゲーム

 俺たちを囲んでいる無頼漢どもの内、半分位が得物を、更に柄物も構えている奴もいる。

 こっちは無手二人だが、俺の方はどうにでも出来る。

 という訳で先手必勝。


『いくぞ』


 背中合わせの玄女に合図を送り、俺は両手にピースメーカーを召喚していきなりぶっ放した。

 いくら武器を持った犯罪者相手とはいえ、こんな風に強力な飛び道具使うのはアレかもしれないが、何事にも全力で。ちゃんと急所は外してあるしね。

 俺、格下だろうがなんだろうが、常に全身全霊をもって相手する性格なのよ。

 それが礼儀ってもんだ。


 同時に玄女は前方へ突進し、銃声に驚いている隙に、二人の男を落とした。

 相変わらず距離の詰め方がおかしい。なんか術でも使ってんのか?

 と、他所を気にしてられない。俺は自分の担当をきっちり仕留めておかなきゃな。

 両手の拳銃の撃鉄を起こし、引き金を引く。

 銃口が火を噴き、リボルバーが回転する。

 男たちが次々と倒れていく。

 片手で持って早撃ちした方が直ぐなんだが、ま、見た目大事だよね。両手撃ちの方が映えるでしょ。


 なんて余計な事考えながらやっていたら、玄女の方は奥の出来そうな二人までも既に倒していた。


 ・・・やるな。

 ていうか、やるよね。

 あれ、なんか俺の存在、霞んでない?

 俺、もしかして、いらなくない?


『どうした、トキジク。変な顔して』

『あ? 喧嘩売ってんのか?』

『腹でも減ったか?』

『そりゃおまえだろ』

『確かに』

 そういって玄女は大きく息を吐いた。

『さて、どうする?』


 この程度の戦闘は、軽い運動でしかないのだよ、俺にしてみれば。

 なので、俺くらいになると、本気出せない訳よ、このレベルじゃ。

 だからどうしても、手加減ていうか? 手抜きまでとはいかないが、全力ではいけない? みたいな?

 もっとこうさぁ、血湧き肉踊るよな、激情燃え上がるような状況が・・・。


『もしかして、空腹通り越して腹でも痛いのか?』

『なぁ、俺いったいどんな顔してたの?』


 まぁいいだろう。なんてったって探偵はこの俺様なんだから。

 三下相手の戦闘は、玄女で十分だ。


『それじゃ、金持ち息子の居場所を訊いて、とっとと帰るぜ』


 結果からいえば、華族のぼんぼんは、隣の倉庫の地下室で、その他大勢の阿片中毒者と一緒に廃人になっていた。

 とりあえず担いで華族の邸まで連れて行って、引き渡した。

 もちろん報酬はきっちりもらったぜ。

 その帰り道。


『しかし未だ阿片が流通しているとはね。闇市場とはいえ』


 俺はぼやいた。


『欲望に果てはない。国さえも切り売りしてしまうのだからな』


 玄女は、夕焼けに赤く染まる空を見つめながらいった。


『あんたのお国は大変だな』

『他人事では済まないかもしれんぞ。この国だって』

『そうだな』

『食うか食われるか。食われる前に食う側になる。そんな言葉遊びの如くいうが、その地に根ざして生きている人々にとっては、たまったものではない』


 ま、俺は極東の島国の街で、その日暮らしでしのぎを削って生きているが、国を動かし、軍を動かし、経済を動かし、世界を巻き込んだグレートゲームにせっせと勤しんでいる奴等がいるんだよな。地面に這いつくばって生きている人間を、虫けらのようにしか思っていない奴等が。しかしそんな奴らでも、どっかの誰かから気付かない内に虫けら扱いされてるんだ。

 まるで入れ子構造、ロシアのマトリョーシカみたいな、果て無き現実。

 いや、果て無き幻影。

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