第8話 目標と目的

 全員に聞こえるように言ったつもりだったが、声は思ったよりも小さくなってしまった。かすれてるし、しゃくれてるような気もする。しかし、自分の声というのは思い通りにならないものなのだ。簡単にイケボが出せる動画を見て、練習して三日で挫折した僕が言うのだから間違いない。男の子はだれしも一時はイケボを夢見るものだろう。


「話っていうのは、班の目標についてだ」


 一応声は通っていたようで、無言の首肯を受けて続ける。


 守山は計画書に書かれていない何かが始まったことを察知して黙って座っている。気絶でもしているんじゃないかと思うほどさっきから動いていない。瞬きがなければ本当に救急車を呼んでしまいそうだ。


「僕が思うに、この班には目標が必要だと思う」


「隊集会でライオン班に勝つじゃダメなの?」


 今発言したのは守山ではない。この年下でありながらタメ口というコミュ力が高いんだか低いんだかわからない班員は高島唯である。


 彼女が言ったライオン班というのは同じ隊の枠組みで編成されているもう一つの班の名前だ。ちなみに僕の班の名前はイーグル班という。だいたいの班は動物が由来の名前を付けているのだが、小学生の頃にドラゴン班という班を見てかっこよすぎてちびるかと思った。今にして思えば少々恥ずかしい班名な気がする。


「それは与えられた目標だ。必要としているのはみんなのモチベーションになりうる目標のこと」


 多少生意気であっても高島は主戦力の一人だ、丁寧に対応するべきだろう。高島は前班長と馬が合ったのか、個人レッスンという名の苦行をやらされていのだ。見たことないけど昭和の自称強豪野球部ってこんな感じなんだろうなと思った。


 やり方はともかく腕は確かなようで、技術的には一級品のスカウト出来上がった。おかげで彼女の権力は我が班の中では僕と守山に次ぐ三番目にあたる。


「ふーん。まあ言ってみれば?」


 高島はなんだかギャルっぽい。別にネイルとかピアスをしているというわけじゃないけれど、しゃべり方とか雰囲気とか全体的に一昔前のギャルみたいだ。そのうち班集会にミニスカートで来るんじゃないかとワクワクしている。今日は残念ながら普通のジーンズ。今後に期待したい。


 それはともかくとして、僕は今から目標を言わなければならない。たとえ誰一人として受け入れるものがいないとしても、それは必要な儀式なのだ。


「……ウルフ班に勝ちたい」


 それは本来であればもう少し慎重に言うべき言葉だった。根回しを行って了解を事前にとって反発を抑えてから紡ぐべきだった。


 でも、僕は今ここで、何の準備もなしにこれを言った。なぜなのかはわからないが、不思議と後悔はない。いかなる困難にも打ち勝つつもりだった。

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