第7話 その一言

 今のはまずかったかもしれない。


 彼の目に見られると体が硬直することがある。多分見られてると思うと緊張してしまう自分がいるのだろうなと思いつつ、彼がゴルゴン三姉妹の隠された末っ子説を提唱している。


 自分の気持ちにもう見切りはつけたはずだった。あの時に、あるいはずっと前からあの人が見ているのは本当はずっと一人だったことを私は知っている。


 だから知られる前にこの思いは、いや想いは消してしまわなければいけない。役に立つことは少なく、邪魔になることは本当に多い感情だから。


 厄介で複雑で、時として私の責任すらも奪っていってしまうから。私は彼がそうであるように常に責任に忠実で役割を全うし続ける、優秀なスカウトでなくてはいけない。


 もう私には彼を支えることなんてできないのだから。傷ついた彼を見捨ててしまったのは私なのだ。彼を想う権利を私は自分で捨てたのだ。


 だからもう、消えてくれ。


 もう見たくない。


 もう苦しみたくない。


 胸にともる火のように熱い感情が、本当につらいのだ。






 班集会が終わりに近づく。ロープワークが終わり、テントの立て方や立ちかまどという特殊なかまどの作り方もおさらいした。計画書通りに万事進み、守山のサポートもあってアクシデントはすべて未然に封殺された。


 別にそれは良いことなのだ。できれば予想外のアクシデントなんて起きてほしくはない。そんなものが起きてしまえば責任は僕に降りかかってくるし、あまりに大変なものでなければ解決しなければならないのは僕になる。曰く班内の自治というものらしいが、社会のことを何も知らない中高生にそんなことを期待されても困るだけなのである。


 つまり、事件がないことは大変すばらしいのだが……。問題なのはこれから切り出さなければならない話の方である。人間嫌なことは特に意味もなく先送りにする習性があるが、まさにそれを体現してしまっている。


 いずれにせよ、隠し通せるわけもないのだからここで言うしかない。いくら先送りにしても大して運命は変わらない。そう知っているはずなのに口は言うことを聞かない。


 それでも、目の端に帰り支度を始めてしまった班員を捉え、持ち前の諦めの良さを使って口を開いた。諦めの良さが何も話さない方向に諦めそうになったのは仕方のないことだろう。最終的には諦める方向をコントロールした自分はやっぱり班長の適性がある気がする。


「少し話があるんだが、聞いてもらえるか」

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