第5話 班集会
班集会の日程は来週の日曜日ということになり、それは本日である。つまり、先週の上進式から見て来週の日曜が今日であるから今日から見て上進式は先週の出来事である。これもうわかんねえなあ。
早速文系脳を披露しつつ、班集会の準備を進める。班集会というのは班単位で行われる集会のことで、基本的に隊長は来ない。要するに子供だけでやる少人数の集会ということだ。
特別に広いスペースが必要な場合を除いて、うちの団では団ルームと呼んでいる公民館の一室を使って活動をしている。
公民館の一角に専用にスペースが設けられるというのは、他団からすればうらやましい限りだろう。なぜこんなにも厚遇されているのかは諸説あって、公民館を作った時の区長がボーイスカウト関係者だとかまことしやかにささやかれている。え? デマだよね?
班集会の活動内容は次回隊集会に向けた準備で、つまり僕は準備の準備をしていることになる。ちょっとした仕事マトリョーシカ状態である。
「班長、そろそろ集合時間です。すでに全員集まっていますが、始めますか?」
一緒に準備をしていたはずの守山がいつの間にか集合した人数を数えていたようだ。もうこれ守山に班長やらせたほうがいいんじゃないの?
「わかった、はじめようか。それじゃあまずはロープワークから」
専用の書式で書かれたコピー紙には班集会計画書と印刷されている。事前に作成しておいた計画書に沿って班集会は行われるので、当日は体だけ動かせばいい。班集会計画書の書き方として馬鹿でもわかるように書くというのがあるので、書く時以外は意外と頭は使わない。
頭が悪い人にも優しい活動こそがボーイスカウトなのである。(なお業務の量は変わらない模様)
そう複雑な活動をするわけではないので聡明な頭と健康な肉体が必要不可欠というわけでもない。もちろんあるに越したことはないが、それらは必ずしも最重要事項ではない。
話が少しそれたようだが、班集会というのは準備のために開くものだ。であれば隊集会に備えなければ何をしに来たかわからなくなってしまう。ということはここで僕が何もしなければこの活動に意味はないということになり、僕は帰れるということだ。やったぜ。
「班長。前倒しだった時間がすでにオンタイムです。速やかに班集会を進めてください」
残念というよりも当然、守山はそんなことを許さない。
彼女はいつでも優秀なスカウトであり次長だ。
僕が頭の中で考えている馬鹿げた思考は一度も口に出したことはないから、結果的に守山は僕の帰宅を阻止する形になった。だが、それは予期したものではないはずだ。彼女は恐らく僕が規律に厳格で、勤勉な班長であると思っている。
あるいはそうは思っていないのかもしれなかったが、そんなことはどうだっていい。重要なのは対面上、守山は僕を班長として認め服従する。そして、僕も守山が求める班長というものを演じる。
まさしく諸任務を解決するうえで理想的なパートナーシップを――たとえ外見だけという仮説が正しいにしても――僕たちは築き上げたのだ。それは評価されてしかるべきだと思うし、僕が次長であった時からの努力が反映されているのだと思いたい。
しかしながら、ボーイスカウトは社会の縮図。あまりに当たり前すぎて、もはや言うまでもないが努力が評価されることなどありえない。努力は自分以外には見えないのだ。誰も、自分以外が努力しているだなんて信じたくはないのだ。
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