第3話 その女、無口につき
「班長。連絡先の確認は終わりましたが?」
これは二つ目の貧乏くじである次長が肩書の守山沙奈。年が一つ離れているが最年少部門であるビーバー隊から活動を共にしてきた盟友とも呼べるやつだ。
もっともそんなこと言ったら年が近いやつはみんな盟友になってしまう。盟友多すぎて三国一の人望とか言われちゃう。
「ありがとう。それじゃあ解散にするから守山も帰っていいよ」
今日は入隊上進式だった。ボーイスカウトの入学式というか進級式というかそんな感じの式だ。別にかしこまった雰囲気があったわけじゃないが、式というだけあって僕にこれから訪れるもろもろの激務を示唆するには十分な深刻さを纏っていた。はあもうやだ辞めたい。
守山は小さくうなずくと返事はせずに鞄をとった。班長は最初にきて最後に帰るという謎の不文律によって僕はここを動けない。
隊長がいない以上別に帰っても怒られることはないが、最初にそう言う不文律を守る人間であるということを示すのは大事だったりする。もちろんそれがわからない相手だったらやるだけ無駄だしすぐ帰るしなんなら上進式自体来ないまであるが、良くも悪くも守山は頭が切れるのである。
多くの場合でそれは良い方向に作用するが、多少融通が利かないところもあってか悪い方向に向かってしまうことも稀によくある。
今回については別に悪いことばかりでもない。相手がどういう人間でどういう支え方をすればいいかをすぐに理解してくれるから、こうして自分がどういう班長を目指しているのかを示しておけば後々の業務が楽になったりもする。
今回も彼女は正しく意味をくみ取って、正しく求められている行動をとった。素早く帰ることを求められていると考えたからこそ、守山は返事をせずすぐに鞄をとったのだろう。まったく、恐ろしく優秀なスカウトだ。
「これからよろしく」
去り際の背中に声をかける。小さな肩が少し反応したようでピクリと震えるのがわかった。
そんなかわいらしい反応をしたにも関わらず、守山はいつも通りの声音でいつも通りの小さな抑揚で「はい」というだけだった。
もともと彼女はリアクションがオーバーなタイプではない。むしろクールに属する人間で慌てたり驚いたりしている姿はかなりレアといえる。
それでもやっぱり僕にだけは反応が淡白な気がして、つい気にしてしまう。隣の芝が青いのは百も承知だがあるいは嫌われているのではと感じることもないとは言えない。
あの反応はなんだか物足りないような気もしたが、いったい自分は何を期待しているんだと思ってそのまま見送った。
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