第2話 入進式と入信式は紙一重

 ボーイスカウトという言葉を聞いたことがある人は少なくないだろう。じゃあ何をやっている団体なのか。この問いになれば正答率はガクンと落ちる。具体的に言えばクイズ番組で超難問とか言っちゃえるレベル。秘密結社かなにかかな?


 もちろん男の子を芸能プロに紹介する団体ではない。(関係者なら十回は訂正したことのある誤解のはずだ)


 ボーイスカウトというのは教育機関の一つであり、野外活動や奉仕を通じて社会的な大人を育てる団体である。


 だが、社会というのは常に理不尽なものであり、必然的にボーイスカウトも理不尽なことになる。大抵の場合一番頑張っている人間は報われないし、貧乏くじを引かされるのはいつだって弱者だ。


 愚痴はこのぐらいにしておこう。僕の名前は佐和山章介。ボーイスカウト品川七団のボーイ隊に所属している。団というのは地域ごとの集合で、隊というのは団の中でも年齢の近い人間を集めた集合だと思ってくれれば間違いない。何回集合するんだこれ。


 だが、もう一度だけ集合しなければならない。隊の下に置かれる班という縦割りの集合。これが曲者である。ボーイ隊の間はなにをするにも班単位。最初の頃は仲が良くともいつの間にか倦怠期のカップルのような独特の空気に包まれる。そしてこれを統率するのが班長。今や僕の肩書になってしまった一番の貧乏くじの名前である。


 ちなみにこの貧乏くじは一度、隊の責任者である隊長に指名されたら最後、絶対に次の代替わりまでやり遂げなければいけない。もちろん、拒否権など存在しないし返品も不可。クーリングオフ? なにそれおいしいの? さらに手を抜いたら隊長に怒られるというおまけまでついている。


 そこらへんのブラック企業が裸足で逃げ出す恐ろしさだが、ボーイスカウトが教えてくれる社会の闇はこんなものじゃない。ここで問題なのは班員を完全に服従させなければならない点である。


 服従という言葉は誤解を招きそうなので簡単に言うと、命令を聞いてもらわなければならないということだ。べ、別に変な意味で使ったんじゃないんだから! 


 ……例えば学校なら注意して叱責すれば教師の仕事は基本的に終わりである。会社の上司も多分そうなんだろう。部下を注意することはあってもそれ以上は難しい。どうしてもだめならクビにするという選択肢もある。


 しかし、班長は違う。班員を全員服従させなければ活動の遂行は不可能に近い上に、もちろん班長は班員の罷免権は持っていない。つまり、言葉でもって班員を誘導し仕事を行わせ集団としての秩序を維持しなければならない。


 それなんて無理ゲー?


 ――あるいは相手が社会というものを熟知した大人達ならば可能かもしれない。だが、これを中高生にやらせるなどというのは無謀の極み愚の骨頂。普通に考えて無理があるのである。


 しかしながら、やれと言われればどんな無茶な命令でも素直に聞いてしまうのが日本人の性。せいぜい我々にできることといえば帰った後に家の物体という物体に八つ当たりする破壊神と化すくらいで、抵抗などできようはずがないのだ。

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