スカウティング!

坂崎 座美

第1話 プロローグ

 負けることがこんなにも悔しいなんて、知らなかった。


 けれども、本当は僕が何かに勝ったことなんて一度もなかった。テスト順位で一位をとったこともないし、何かの大会で優勝したことだってない。


 でも、それが悔しかったことなんて一度もなかった。


 心の底から自分の無力さを憎んで、負けた自分なんて本当に死んでしまえばいいと思ったことなんてただの一度もなかった。


 ただすべてを賭けて絶対に勝たなきゃいけない戦いで勝てなかった。そのことが僕の胸を激しく責め立てて、生まれて初めて悔しいと思った。


 その悔しさは本当に自然で、まるで初めから僕は悔しかったのだと言わんばかりに僕の胸の中にすとんと落ちて巣を作った。あまりに自然に悔しいものだから僕は泣くことすらもできないのだ。


 きっと僕が悔しかったのは現実に起こった事のせいじゃないんだろう。だから現実に泣けない。きっと僕が悔しいのはもっと抽象的なことですっと個人的な事。だからこそ僕は自分が許せない。何もしなかった自分に、何もできなかった自分に。


 本当に、本当に自分を殺してしまいたい。勝てない自分に存在意義なんてないのだから。実力のない自分なんて塵芥も同然なのだから。いっぺんに終わりにしてしまいたい。


 あの人だけは、笑わせなきゃいけなかった。あの人が誰かに負けるなんてありえなかった、ありえちゃいけなかった。


 隣で、さめざめと泣いている憧れなんてあまりにも残酷で救いがない。わかってしまうのだ。この人はこの十字架を一生抱えていくんだと。嬉しいことがあるたびに、あの時を思い出して緩やかに壊れていくんだと。


 だから、一つだけ願いが叶うのだとしたら。この負け犬にも願うことが許されるのなら。すべてを終わりにする前に、もう一度だけ、あの人が心から笑うところを見たい。


 もう一度、それができないのならもう自分に生きる意味なんてない。

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