第10話 黄昏の世界の神々

 涙が枯れてからも、地平線の彼方に輝くこの世界の夕陽を眺めていた。

いや沈む夕陽と感じただけで、実は昇る朝日なのかもしれない。

「アテナ、今は暁なの? それとも黄昏なの?」

 傍らの巨大な彫像に問いかける。

「どちらでもないわ。この世界の太陽は昇ることも沈むこともないの。常に地平線上を移動して世界を赤く染めている。トランジット法で地球から検知できる系外惑星は、概ねこのようなもの、主恒星の近くを廻る巨大惑星のパターンが多いわ」

 

 意識の覚醒とともに地上では気づかなかったものを感じる。


〝風だ! この世界にきて初めて感じる! 生まれたばかりの肌に心地良い‼〟


 悪戯っぽく微笑みながら背後のアテナに語りかける。

「アテナ、鋼鉄の身体を持つ女神のあなたにできないことを一つ見つけたわ」

アテナは銀色に輝く貌をこちらに向けて怪訝そうに問いかける。

「何を見つけたの? とても興味深い」


「この世界に吹いている最高の風を肌で感じること」


「……」


しばらく沈黙していたアテナがACらしくない意外な言葉を漏らした。


「この世界を創り終えた時には……私も人間の肉体を持ちたい。そしてあなたと同じ風を感じたい……」


 アテナが思いを語り続ける。

「三千年に及ぶ一人ぼっちの旅、いろいろなことがあった。千年前に地球との通信が途絶えた。この星でスリーパーが覚醒せず、孤独な世界の女王として暮らす未来を想像して苦しんだ。

でもあなたが覚醒して全てが報われた気がする。いつかあなたに私の物語を聞いて欲しい」


「ええ、喜んで聞かせてもらうわ」

孤独だったアテナの気持ちを思いそう応えた時、また涙がこぼれた。


「ユキは泣き虫だね!」


〝麻里亜と同じこと、言うな! また泣いちゃうぞ!

それにしてもアテナ……ありえないことだけれど、あなたを彼女の生まれ変わりのように感じるのは何故かしら?〟


そう呟き、涙を拭きながらアテナに向かって微笑んだ。


〈了〉

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黄昏の世界の神々 柊 悠里 @dica_onima

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