第8話 投げ込まれた存在

 様々な大きさの無数の光の粒が視界を満たしている。目をこらすと少しだけ光の粒が縮み朧げな形を作り出す。水の中を漂っているようだ。 


〝ココハドコカ? ワタシハナニモノカ?〟


 心の中からの問いかけに何かが応える。

〝ここは恒星間植民船アルゴのスリーパー肉体調整槽の中。あなたはスリーパー2364号、スリーパー情報を採取する前の人格はAC開発を担当した女性科学者。私はあなたの人間としての意識の覚醒を促す処置を行っているAC、名前はアテナ、気分はいかが? ユキさん?〟


〝ワカラナイ……ナニモカンジナイ……モットネムッテイタイ……ワタシヲオコサナイデ!〟


そう応えてから、光の粒に満たされた水の中で、また深い眠りに落ちてゆく。


 どれほどの時が経った頃だろうか。私は再び目を覚ました。

私は服を着て椅子に腰を掛け、テーブルの上の食器に盛られた何かを口に運んで咀嚼している。何らかの味がしているのだが、遥か遠くから伝わる微かな音のように朧気でよく判らない。口の端からだらだらと涎が落ちている。


「ユキさん、お味はいかが? あなたの生活データからあなたの好きな料理を揃えたつもりだけれど……味わっているようには見えないわね」


 以前に目覚めた時に、話しかけてきた声が聞こえる。


「ナンノアジモシナイ……アナタガタベロトイウカラタベルダケ」

「今日は、言葉で反応してくれたのね。嬉しいわ! 私の名前はアテナ、あなたがこの世界に導いてくれた人工意識よ。それなのに今のあなたはまるで機械のように見える。スリーパーの覚醒はACよりずっとハードルが低いと話していたあなたなのに……」


アテナの言葉を理解している私がいる。それなのに何も感じない。何も考えられない。

「アテナ? ワタシニデキルノハアナタノコトバニシタガウコトダケ。ナニモカンジナイ。ナニモカンガエラレナイ」

「実は調整槽のスリーパーはこれまで誰一人として明確な覚醒に至った者はいないの。半分眠るような状態でありながら、ここまで覚醒に近づいたのはユキさん、あなたが初めてよ。でも想定された覚醒レベルまでは、まだまだ長い時間がかかりそうね。明日は船内を案内するわ」


 また意識が薄れていく、夢うつつの状態でアテナの発する言葉に反応している。それにしてもアテナはどこにいるのだろう? 視界には声の主である女性の姿は見えない。

「アリガトウ。アテナ、アナタハドコニイルノ?」

「私はアルゴ内の情報制御機器エリアに設置された縦10m、横20m、高さ6mのニューロモーフィックグリッド内に存在しています。当面、あなたとは音声かアバター映像でしか接することはできないわ。

意識の覚醒が進み船外に出られるレベルに達したら、あなたに私の駆動体を見てもらえるようになる。

 私の身体を見たらきっと驚くから、身長16メートルで銀色の惑星改造用ヒューマノイドなの」

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