第7話 Bon voyage !

 アルゴ計画の発表から40年、スリーパー情報の採取から25年の歳月が流れた。もうすぐ喜寿を迎える体に鞭を打って軌道エレベータの静止点ステーションに隣接するアルゴの建造ドックまで何とかたどりつき、ドックの居住者スペースにて出航する巨大宇宙船を見送るイベントに参加している。


 記者会見に同席した関係者の2割ほどは既に他界し、体力的な要因でここまで来ることができた者は3割ほど、設計と建造段階から新たに参加した若い関係者が大半を占めている。乾杯用のシャンパングラスを片手に小さな窓から、巨大な長楕円形の船がゆっくりとドックから離れていく姿を眺めていた。


 背後から痩身の初老の紳士に声を掛けられる。

「柊博士、ご無沙汰しています。お忘れになっているかと思いますが記者会見であなたに質問したGNNの佐竹です。ここまで大変なご苦労だったと推察いたします。アルゴの出航、おめでとうございます」


「ありがとうございます。いいえ、あなたの質問は昨日のことのように覚えていますよ」そう応えながら、心の中で〝あなたが尋ねたスリーパーの再生試験、肉体に意識を宿らせる試験だけは何としてもやっておきたかったな〟という後悔の言葉を呟いた。

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