第46話 質問

 ハンバーガーショップに戻ると、二人は笑顔で出迎えてくれた。


「遅くなってすみません」

「ごめんなさい」


 二人で頭を下げるが、神坂さんも岬先生も、特に気にした様子はない。


「気にしないでいいよ。わたしも卓磨のことで余計に時間取らせちゃったし、そっちはそっちで色々あったんでしょ?」


『どうして遅れたのかは気になるけど、二人の雰囲気からするとたぶん重要な話をしていたんだろうとは思う。……兄妹だし、色々あるよね』


「そうね。この二人だからこそっていうのもあるよね?」


『流石に事後って雰囲気ではないね。紗季ちゃんはかなり気持ちが強そうだし、多少暴走することはあったのかも』


「ま、藤崎君も疲れたでしょ? 少し休憩しなよ。こっちどうぞ?」


 岬先生に促され、俺は迷いつつも岬先生の隣に座ってほっと息を吐く。

 四人掛けのテーブルで、正面に紗季、その隣に神坂さん。紗季は実に不満そうだし、目が怪しく光っている気もするが、岬先生は俺の隣を譲る気はなさそうだ。

 そして、岬先生が言う。


「さーて、これで一巡したね。少しゆっくりしたら、外に出て散歩ね。ちょっと行きたいところがあるの」

「わかりました」


 アピールタイムが終わって、ついに三人から告白されるのか……。

 それぞれになんと答えれば良いのか、今に至っても明確にはならない。俺の気持ちは、どうなんだろうな。皆それぞれ魅力的で、誰か一人を選ぶなんて難しすぎる。


『お兄ちゃんは絶対あたしを選んでくれる。あたしが一番お兄ちゃんを好きだし、お兄ちゃんもあたしのことを愛してくれてる。それに、あたしはお兄ちゃんのこともよくわかってて、お兄ちゃんのいまいちなところとか、たまに優しくないところとかも全部含めて好き。兄妹としてのしがらみはあるとしても、あたしと一緒にいた方が幸せなんだって、わかってくれてるはず』


『さぁて、藤崎君の中ではもう答えは決まってるのかな? 自分で言うのもなんだけど、正攻法を保って私はよく頑張ったと思うよ? 先生っていう立場ではあるし、多少の年の差はあるけど、それ以外では私が一番付き合うにはいい相手だよね?』


『この三人の中では、わたしが一番普通な気がする……。二人の時間も、一番地味だったんじゃないかな……。飛び抜けて何か特徴的なものがあるわけじゃないんだよね……。強いて言えば、わたしの良さって藤崎君とかなり近い目線で付き合えるってことかな……。

 それ、本当に魅力的なのかな? この二人の前では霞みそう……。それに、卓磨とのことも、余計な厄介ごとと思われてるよね。面倒なことはなしで楽しく過ごしたいだろうし、わたしは無理かなぁ……。悔しいなぁ……』


 様々な思惑が錯綜し、自然と視線が俺に集まっている。これもまた気まずい……。気持ちが休まらない。ここは、少し意識を逸らそう。何の話がいいか……。


「……あの、少し訊いてみたいことがあるんですけど。特に、岬先生に」


 俺が切り出すと、岬先生が頷いてくれる。


「いいよー。なんの話?」

「えっと……世の中の夫婦って、上手くいかないことたくさんあるじゃないですか。あれって、何でだと思いますか?」


 この三人の誰かと付き合った先で、いつか夫婦として暮らしていく未来もあるのだろうか。そんなことを考えていたら、ふと気になってしまった。まぁ、紗季とは結婚できないから、想定するのは事実婚状態かな。

 少し俺から意識を逸らしたかったのだが、こんな話題で良かったかな……?


「おー、なかなか難しいことを訊くね。私は結婚したことないから、あくまで個人的な予想だけど、いい?」

「はい。もちろんです」


『急な質問だなー。こんな風に三人から迫られて、色々考えることもあるんだろうね。まだ純情な年頃だし、付き合う相手とはそのまま結婚って考えるんだろうな。私と付き合うならそれでいいけど、他の二人はどうかなー? とにかく、私なりに真剣に答えないといけないところか』


『夫婦の話か……。結婚は、あたしとお兄ちゃんではできないこと……。そんな話をするってことは、あたしと付き合うことは考えてない? ううん、違う。あたしとお兄ちゃんは、事実婚の夫婦だっていいんだから。

 お兄ちゃんが訊きたいのは、夫婦になるくらい想い合っていた二人が上手くいかなくなるのはなぜか、ってことだよね。恋人と夫婦のギャップみたいな? そういうことなら、ずっと一緒にいるあたしたちはもう何も心配いらない。今更変なすれ違いは起きないもん』


『藤崎君、結婚まで考えて選ぼうとしてる……? ちょっと気が早い気がするけど、そこまで真剣になってくれるのは嬉しいな。岬先生、なんて答えるんだろ?』

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