第34話 束の間の平穏?
紗季がメンバーに加わったところで、男女比が一対三となった。はっきり言って、俺としては非常に居心地が悪い。客観的に見ると俺の存在って不要では……?
ともあれ、まずは紗季と神坂さんが女の子らしい会話で盛り上がる。
「紗季ちゃん、その格好可愛いね。その髪、ウィッグ?」
「……そうです」
「メイクもなんかすごいねぇ。目も特に雰囲気全然違う。それだけ印象変えると誰だかわからないや。普段も今もどっちも可愛い」
「あ、ありがとうございます」
「わたし、あんまりちゃんとしたメイクってしたことないんだよね。今度教えてよ」
「……いいですよ」
また、岬先生も紗季に気さくに話しかけてくれる。
「もし興味があればコスプレしてみない? 紗季さんなら色んなのが似合うと思うし、すごく可愛くなる。っていうかやってみよ? ね? ね? いいでしょ?」
「あ、その……興味がないわけではないですけど……」
「ならやってよ! 大丈夫! やってみたら絶対ハマるから! 基本的な道具は揃ってるし、必要なら私が衣装作るから!」
「ええ? 作るんですか? 先生、本格的すぎませんか?」
紗季と岬先生はまた変な盛り上がり方をしている。俺が入り込む余地なしだな。
にしても、岬先生がコスプレも趣味なのは知っているけれど、妹を巻き込まれるのは……いいな。うん。いいぞもっとやれ。
『紗季ちゃん、コスプレデビューするのかな? 藤崎君、マンガもイラストも好きだし、きっとそういうの好きだろうなぁ……。こうなったら、わたしもデビューするしかない? コスプレって結構セクシーなのもあるよね……。そういうので悩殺……?』
神坂さんのセクシーコスプレ……。想像するだけで体温上がる。
『お兄ちゃんはコスプレとかも好きだもんね……。スマホにもパソコンにもそういう画像が結構入ってるし……。で、でも、お兄ちゃんが好きなのは、コスプレのなかでも特にセクシー路線のだもんね。露出度高いのとか。乳首にシール貼ってるのとか……。は、恥ずかしいけど、お兄ちゃんがそういうのを好きなら、あたしはどんな格好でもできるっ』
紗季、どうして君は俺のスマホとパソコンの中身を知っているんだい? パスワードはかけているはずなのだがね?
それも気になるが、紗季のコスプレもいいよな……。ロリ巨乳みたいな妄想体型ではないけれど、一般的な女子高生のセクシーコスプレなんて魅力的でないわけがない。
『お? なんだか神坂さんもコスプレしたそうな雰囲気を出してる? 紗季ちゃんに対抗しようとしているのかな? ライバルに後れをとらないように、意識してるんだね。
うーん、こういうのは、敵に塩を送るという感じになっちゃうのかな? 藤崎君のことがなければ、この子たちをめちゃくちゃに着飾らせるのは大興奮なんだけど……。
まぁ、今は相手を追い落として勝つんじゃなくて、真正面から勝つつもりだし、これでいっか。そのときが来たらめっちゃ可愛くしちゃおっ』
岬先生、俺みたいに心の声が聞こえてるわけじゃないんですよね? 神坂さんの心情を正確に読みとるの、もはや妖怪っぽいです。
書店内を見つつ、音量控えめに盛り上がる三人。やはり俺はもはや蚊帳の外。
ちょっと寂しい感じもあるけれど、三人が楽しそうにしてくれているのは、それはそれで癒される。
『うう……お兄ちゃんと話したいのに、なんだかそういう雰囲気でもないな……。楽しくないわけじゃないんだけど……。っていうか、敵とおしゃべりで盛り上がるってどうなの? なんか嫌だけど、ここであからさまに不機嫌そうにしてたらまたお兄ちゃんに悪い印象与えちゃうし……。今は仕方ないのかな……』
『女同士で盛り上がるのもいいんだけど、せっかく藤崎君がいるんだから藤崎君とおしゃべりしたいなぁ……。ただ、この場で藤崎君を取り合うっていうのもなんだか雰囲気台無し……? ううん、そんな悠長なこと言ってないで、先手を……』
『はぁ……女子高生って尊い……。男の人が女子高生好きなのわかる……。若くて初々しくて溌剌としてて、未成熟だけどエネルギーに満ちてる……。まぁ、女子高生の全員が活力に満ちてるわけじゃないのも知ってるけど、この二人は良い……。でも、これは藤崎君とのデートなんだから、藤崎君に話しかけちゃおっと』
「藤崎君も、紗季ちゃんにコスプレしてほしいって思うよね?」
『先を越された!?』
『あ、やられた!』
岬先生にちょっと話を振られただけで、そんなに睨まないでくれ……。
「……そうですね。紗季がは元が可愛いから、似合うと思います」
「そ、そうかな? あたし、似合うと思う?」
『お兄ちゃんが望むなら、あたしはもちろんコスプレするよ! どんな格好でもオッケーだからね! 裸エプロンだって大歓迎! あ、あれはコスプレじゃないか……』
「紗季なら何を着ても似合うよ。間違いない」
『うへへへ……。お兄ちゃんに期待されてる……。やっぱりお兄ちゃんはあたしだけのお兄ちゃんだよね? そして、あたしはお兄ちゃんだけの紗季。待っててね、今夜、お兄ちゃんのものになりに行くからね?』
「……お兄ちゃんがそこまで言うならやってみようかな。コスプレは全然わからないけど……」
「私が教えるから大丈夫だよー。既にお化粧もできるなら、二次元化メイクを覚えるのも早いはず」
「普通のとは違うんですか?」
「だいぶ違うねぇ。目のラインとか、ぐわっと大げさにやったりもするし」
「へぇ……面白そうですね」
「やったらハマるよー。好きなキャラと同化していく感覚とか、自分じゃない何かに変身する感覚とかも面白いし」
「なるほど……」
「神坂さんもやってみる?」
「わ、わたしもですか……? わたし、似合います……?」
「似合う似合う。神坂さんはスポーツ女子体型だから、露出高いの着てても魅力的になる。コスプレしかしない人より、ずっと素敵になれるよ」
「そうですか……。まぁ、興味はなくはないですけど……」
「あと、ついでに藤崎君もやってみたら? イラストに背景が大事なように、引き立て役を添えるのもコスプレでは大事な要素だよ?」
「……俺は脇役前提ですか。別にいいですけどね。似合うからやってみてー、とか言われるより、引き立て役として手伝いを依頼される方がその気になれます」
「ふふ。藤崎君の性格はわかってるからね?」
『本当は藤崎君も元は悪くない部類だから、コスプレさせたら案外似合うんだろうけどなぁ……。そういう誘い方すると照れて逃げじゃうだろうし、ここはあくまで引き立て役ってことで。
ふふふ、でも、なんだか夢が膨らむわね。女子高生と男子高校生をいい感じに変身させる……。合法的に写真も撮れる……。高校教師になって良かった……』
俺、完璧に岬先生の手のひらの上で踊らされてるな……。抵抗する気もないけど……。にしても、やはり高校教師として少し不穏な人だな……。大丈夫か……?
『うーん、岬先生の思い通りに進んでるのが気になるけど、お兄ちゃんのコスプレもいいなぁ。褒めると照れちゃうから、あんまり言わない方がいいんだろうけど』
『藤崎君、妙に自己肯定感低いんだよね。もっと見栄え良くすれば普通にカッコいいのに。ま、褒めたら照れちゃうところもいいんだけど』
……なんだろう。俺の性格って、結構わかりやすいんだろうな。温かく見守られてる感じが恥ずかしいぞ。
「藤崎君は、してみたいコスプレないの? 可能な限り、私が作るけど?」
岬先生の問いに、俺は少し迷う。コスプレを見るのは好きだが、自分でしたいとは思っていない。強いて言えば……。
「……コナンの犯人がいいですね」
この三人からすると、俺にうってつけの役ではないかな? なんて。
「あはは。誰だかわからないじゃん。せめて顔出そうよ」
「いやー、できれば顔は隠したいですよ」
「とりあえずそれは却下で。今すぐでもないし、後で考えよ」
「却下ですか……」
ぼちぼち俺も会話に巻き込まれつつ、話がひっそりと盛り上がる。束の間の平穏……なんて状況じゃなければいいのだけど……。
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