4.

「くそう、親父のやつ。帰ったら覚えてろよ」



「今日こそ絶対にぶん殴ってやる!」と、決意を胸に牡丹は学校を目指し、小走りで進んで行く。


 すると、前方に見知った姿が見えた。牡丹は徐々にスピードを落としていくと、その人物の隣へと並ぶ。


 が。彼女は牡丹の横顔を眺めるや、すっ……と花弁みたいな唇を開かせ、

「……バカ」

 上品なそれとは裏腹な言葉に、牡丹はむっと眉間に皺を寄せる。



「なんだよ、急に」


「別に。そう思ったから言っただけ」


「相変わらず可愛くないな。妹の癖に生意気だぞ」


「誰が“妹”よ。勝手に兄貴面してるんじゃないわよ」


「なんだと!? あの時は、“兄さん”って。素直に呼んだ癖に。そんなんだと、桜文兄さんにも呆れられるぞ」



 刹那、ばんっ――! と鈍い音が鳴り響いた。牡丹は顔から鞄が離れるや否や、赤く染まった鼻を指先で擦る。



「いっつう……。

 おい、何するんだよ!」


「アンタがヘタレで、バカだからよっ!」


「なっ……、誰がヘタレだ!?」


「なによ、本当のことじゃない。ヘタレでバカで、おまけに変態じゃない」


「ちょっと待った。ヘタレとバカはまだ許せるけど、俺は変態じゃないって。何度も言ってるだろう!」



 牡丹は強く否定するが、菊はつんと顔を背け、すたすたと一人先に行ってしまう。


 その華奢な背中に向け、牡丹は一つ乾いた息を吐き出させる。一歩進んだかと思いきや、すぐにも下がってしまう関係に――、この“ごっこ遊び”は、まだまだ続きそうだと。


 終わりの見えそうにないお遊戯に、もう一度、小さな息を吐き出した。

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