7.

 すやすやと、整った寝息が響き渡る室内で。突如快眠を遮るよう、牡丹は頬にくすぐったさを感じ、

「うん……、満月か。お前は芒に似て早起きだな」



 こんな所まで似なくてもと思う傍ら、牡丹は満月を抱えると、薄らと残る眠気をそのままに、おとなしく部屋を後にする。



「ふわあ、おはようございます」


「おはよう、牡丹」


「あれ、梅吉兄さんは?」


「さあ。まだ寝てるんじゃない? 昨日は寝るの、すっかり遅くなっちゃったから」



 そう続ける藤助の横から、ひょいと陽斗が顔を出し、

「梅吉様ならしばらくの間、旅に出られると。朝方早くに外出されましたよ」

と、淡々と告げた。



「えっ、旅? こんな時に、どこに行ったの?」


「さあ、そこまでは。ウチの者を付けていますので、問題ないとは思いますが」


「アイツが動くこと自体、問題大アリだろうが。大方遊びにでも出かけたんだろう。能天気なやつだ。人の金だと思って、好き勝手しやがって」


「そう言えば、梅吉兄さん。どうせ道松兄さんのお金だから、贅沢三昧してやろうと言ってましたよ」



 それを聞くと、道松の眉間にはますます皺が寄る。


 けれど、本人不在のため、どうすることもできない。また、不安は残るが、次男のことだから大丈夫だろうと。牡丹達は勝手に結論付けると、既にテーブルの上に用意されている朝食へと手を付け出す。


 それが片付くと、陽斗はすぐにも口を開かせ、

「道松様、そろそろお出かけの時間ですよ」


「ったく、あのジジイ。どれだけ人を扱き使う気なんだよ」



 陽斗に促され、道松は慌しく部屋から出て行く。それを牡丹は、一つ息を吐き出して見送った。


 それから仕方がないとばかり、肩を竦めさせる。



「道松兄さん、忙しそうですね。それにしても。定光のこと、どうしましょうか」


「うん。昨日は結局、話し合いもあまり進まなかったからね。本当、どうにかしないと。入籍されちゃえば、それまでだし……」


「はい。問題は、定光がいつ動き出すかですね。

 公式サイトに掲載されているプロフィールによると、定光の年齢は十七歳で。誕生日は、十二月二十九日となっています。この情報が正しければ、遅くともこの日までは法律的に入籍はできないはずですが、彼の行動力の高さを見れば、歳の条件さえクリアできれば、すぐにも実行に移すかと……」



 牡丹等は難しい顔でパソコンと睨めっこするが、何一つ状況が変わる訳ではない。



「せめていつ入籍するか知れたらいいけど。菊の携帯は解約されちゃったのか、こっちから連絡することはできないし。

 とにかくこまめにニュースをチェックして、定光の動きを知るしかないか」


「はい。僕は引き続き、定光と鳳凰家のことについて調査を続けます。藤助兄さんと牡丹くんは、出かけるんですよね?」


「うん、俺はバイトに。牡丹は部活だよね?」


「はい。こんな時に行くのも、どうかとは思うんですけど」



 跋の悪い顔をさせる牡丹に、藤助もつられて苦笑いを浮かばせる。



「ははっ。でも、ここにいても、今は何もできないし……」



 やる気とは裏腹、動けずにいる状況に。歯痒さばかりが募っていく。


 けれど、それを処理する術もないまま。牡丹と藤助は肩を並べて、静かに部屋を後にした。

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