6.
真っ暗だった室内に、ぱっと眩い照明が灯る。部屋に戻って来るなり、梅吉はどさりとソファに座り込んだ。
満足気な表情で、そのままごろんと横になる。
「ふーっ、食った、食った。いやあ、さすが一流レストランだ。おいしかったなー」
「えー、そう? お店の雰囲気に圧倒されちゃって、味なんか全然分からなかったよ。おまけに命を狙われている訳でもないのに、ボディーガードがぴったり張り付いてて落ち着かないし」
「周りからの視線も痛かったです」
「なんだよ、お前等。もったいねえなあ。せっかくの高級ディナーだったのに」
むすりと口を尖らせる梅吉に、藤助は負けじと、
「梅吉みたいに簡単には図々しくなれないよ」
と、代表して返す。
けれど、確かに次男の言う通り、美味であったのには変わりない。すっかり膨れてしまった腹に誘発されるよう寛いでいると、不意にガチャンと甲高い音が響き渡り、それに続いて足音が聞こえて来る。
その音に合わせ牡丹は振り返るが、げっそりとした面を浮かばせている道松と目が合うと、ぎょっとそれを丸くさせる。
「道松兄さん、どうしたんですか!?」
「疲れた……」
道松はそれだけ言うと、牡丹の脇を通り過ぎ、ソファへと倒れ込む。
そんな道松に、藤助は苦笑いを浮かべる。
「おかえり、道松。
それより道松も揃ったことだし、これからのことを話し合おうよ」
牡丹達はその意見に同意すると、円になるようソファに座り直す。
一呼吸置かせてから、やはり梅吉が先陣を切る。
「それで、この先どうするかだが……。親父と芒のことも気になるが、今はまず菊のことだな。
やっぱりこのまま素直に定光の思い通りにさせるのは癪だよな。第一、可愛い妹を人質に取られて、黙っていられるかっての!」
梅吉は、どん――! と一つ、拳をテーブルへと叩き付ける。その音は牡丹の脳内を強く揺さ振ると同時、いつまでも余韻を残し続ける。
静かな時間が流れる中、ようやく牡丹は口を開かせ、
「妹って……。でも、菊は俺達とは半分所か、全く血が繋がってなくて……」
「妹だよ」
「え……、」
「妹だよ。俺にとっては、菊は妹だ。何年同じ屋根の下で、一緒に暮らして来たと思うんだ。今更違うなんて言われたって、そんなの知るか。
アイツが素直じゃなくて意地っ張りなこと、俺達が一番よく知ってる。それだけで十分じゃないか」
牡丹の言葉を遮るよう、きっぱりとした口調に精悍とした瞳を揺らし。梅吉は、もう一度繰り返させる。
梅吉の言葉に、牡丹は強張らせていた顔の筋肉を徐々に緩めさせる。
(確かに梅吉兄さんの言う通り、菊は意地っ張りで、すぐ人のことを『変態』って言って。全然素直じゃなくて、可愛気なんかちっともなくて。
平然とストーカーに向かって行くくらい、肝っ玉が大きくて暴力的で。それから見かけの割によく食べて、普段はクールぶってる癖に、アイス一つで子どもみたいに駄々を捏ねて。
だけど、本当はただ不器用なだけの、その辺にいる普通の女の子と変わりなくて。
……ああ、そうだ。菊は、やっぱり俺の――……。)
透き通るような、凛とした眼差しを思い浮かべながら。
「そう……ですね……。菊は、俺達の妹ですよね」
自身に言い聞かすよう告げる牡丹に、隣に座る藤助も微笑を浮かばせる。
「そうだよ。菊も俺達と一緒で、お父さんに振り回された仲間みたいなものだしね」
「乗りかかった船とでも言うんですかね」
「ああ。なんのために、わざわざ人があんなクソジジイに血を売ったと思ってるんだ。
あの俳優野郎、この俺を敵に回したこと、骨の髄まで後悔させてやる……!」
余程恨みに思っているのか。一人抜きん出てやる気に満ちている道松に即発されるよう、牡丹達も気を入れ直す。
夜分遅いにも関わらず、その熱が冷めることはなく。早速彼等は、作戦会議をし始めた。
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