11.
いつか必ず復讐してやるんだと、心に強く誓った相手が、想像していた以上にふざけた男で。
(どうして母さんは……)
こんな男を好きになったのか。牡丹は朧な意識の中、いくら考えても答えなんか何一つ出てこない。
それでも考え続けていると、くすくすと小さな笑い声が頭上から降り落ちる。
「牡丹ってば、気絶するほど嬉しかったなんて」
けらけらと気の触る笑声に、牡丹の神経は逆撫でられる。だが、立ち上がる気力など、今の彼には微塵もない。傍らから声をかけられるが、反応することすらできない。
一方、原因を作った張本人はと言えば。けろりとした顔で室内を見回し、
「ええと、みっちゃんに梅ちゃん、それから藤ちゃんでしょう。はるちゃんはいなくて、あーちゃんと芒はいるのか。みんな揃っていないのは残念だけど……」
桐実は、今度は芒へと視線を向ける。にこりとその年頃には不釣り合いな笑みを浮かべさせると、手を大きく広げて見せる。
「おいで、芒。寂しかっただろう? パパが抱っこしてあげよう」
手を広げさせたまま、じりじりと。桐実は芒へとにじり寄って行く。
一歩、また一歩と桐実が近付く度に、芒は彼にしては珍しくも困惑顔を浮かばせる。
「うっ……!」
「芒、早くこっちに!」
芒は藤助の方へ逃げようとするが、桐実に腕を掴まれる。瞬間、芒の顔がぐにゃりと思い切り歪む。
そして。芒の小さな左足が、見事桐実の顎に命中した。諸に蹴りを喰らってしまった桐実は、そのまま後ろへと引っ繰り返る。
「よし、親父が気絶している内に、多数決を取ろう。この変態男を俺達の親父と認めるか、不審者ということにして警察に突き出すか、どちらかに手を挙げること。
えー、では、アイツが親父だと思う人……は、ゼロと。それじゃあ、不審者だと思う人は……って、全員か。
それじゃあ多数決の結果、警察に通報するということで」
「口裏を合わせるぞ」と、梅吉を中心に相談を始めようとする兄弟達。だが、その刹那、桐実はむくりと起き上がる。
「えー、ちょっと待ってよ。それはないんじゃないの? せっかく念願のパパに会えたっていうのにさー」
「親父がこんなやつだと分かっていたら、一生会えないままの方が良かったよな」
「うん。牡丹なんてショックのあまり、まだ目を覚まさないしね」
「ショックだなんて」
「酷いなあ」と、桐実は口を尖らせ、ぶーぶーと文句を溢す。
だが、突如瞳の色を変えさせ、
「ショックと言えば、一つ、残念なお知らせがあります」
「なんだよ。親父がこんなやつだったってこと以上に、ショックなことなんて。そうそうないと思うがなあ」
「梅ちゃんってば、またそんなこと言って。
……実は一人だけ、パパの子ではない子がいます――」
「え……。一人だけ、違うって……」
その一言により、その場はぴしりと凍り付く。が、すぐに彼等は己の体で小さな円を作る。
「牡丹は絶対に違うとして。きっと俺だと思うんだが」
「えー、梅吉だって違うよ。顔は牡丹にそっくりだけど、性格は梅吉まんまじゃないか」
「ああ。きっと俺に違いない」
「ここは公平にジャンケンで決めませんか?」
兄弟達はひそひそと声を潜め、相談し出すが、不意に梅吉は、一つ乾いた息を吐き出す。
「なんて。
……菊だろう――?」
じろりと半ば睨み付けながら、答える梅吉に、桐実は一拍の間を空けさせる。
が。
「ご名答――、その通り。正解は、菊ちゃんでした」
にっと唇に嘲笑を乗せ。桐実は、けろっとした顔をする。
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