2.
「携帯の中を見るって、そんなこと。天羽さんの携帯は、指紋認証が必要だから。だから、開けられる訳が……」
「そうだな。確かに指紋認証は、本人の指紋がないと開けられない。だが、逆に言えば。指紋さえあれば、本人の意思とは関係なく開けられるってことでもある」
「本人の意思とは関係なく……?」
「ああ。本人自らの手で開けてもらえばいいだけの話だ。――これを使ってな」
にっと白い歯を覗かせながら、梅吉はポケットの中に手を突っ込むと何かを掴み。それを藤助目がけ投げ渡す。
手の中に納まった長方形の箱に、藤助の瞳は徐々に開かされていき、
「これって、もしかして……」
顔を上げ、何かを訴えるよう。見つめる藤助に、梅吉は顔色を変えさせることなく、
「どうする? 実行に移すか否かは、お前が選べ」
「お前が――」と、その声音を空っぽの頭の中で反芻させながら。藤助は目の前でテーブルに伏している男を、空虚な瞳で見つめ続ける。
すうすうと、整った寝息ばかりが小さいながらも部屋一面へと響き渡る中。その緊迫とした空気を打ち壊すよう、不意にがちゃりと甲高い音が鳴り響いた。
「へえ。案外効くもんだな、睡眠薬って。とは言っても、正確には睡眠改善薬だが。
まあ、俺も自分で試したけど、こういうのは体質で左右されるからな」
「上手く効いて良かったよ」と、軽い笑声を上げながら。梅吉は奥へと進んで行く。天羽の元まで来ると彼の懐を漁って、携帯電話を取り出し――。
「それじゃあ、開けてもらいますか」
梅吉は天羽の人差し指を手に取ると、それをボタンの上へと宛がえ――。
「……っと、開いた、開いた。成功だ。ほら、藤助」
梅吉は手にしている携帯を藤助に向けるも、彼は首を小さく振るばかりだ。
「なんだ、見ないのか? あんなに見たがってた癖に」
梅吉はつまらなそうに、ふうと小さな息を吐き出させると携帯の画面に視線を戻す。が、その矢先。またしても、がちゃんと鋭い音が鳴り響いた。
「お前達、何をやってるんだ……?」
部屋に入るなり道松は目を見開かせたまま、ゆっくりと首を左右に振る。とある一点に視線を留めさせると、そこへ真っ直ぐに向かって行く。
「おい、藤助。……部屋に行くぞ」
道松は藤助の腕を半ば無理矢理掴み上げると、彼を連れて室内から出る。
「お前等、一体何を……、藤助……?」
急に重くなった右腕に違和感を覚え、振り向くと、手の先の藤助はぺたりと床に座り込んでいた。
「どう、したいんだろう……」
「藤助……?」
「どうしたいのかな、俺、どうしたら、良かったのかな。もう、よく分かんないや……」
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