6.

 テレビから流れている単調な音色ばかりが響いている室内で、藤助は震える唇をそれでもどうにか動かして、

「知りたいかって、梅吉は知ってるの? トウカさんのことを……」

 梅吉の瞳を真っ直ぐに見つめ返す藤助のそれは、時間の経過とともに開いていく。生唾を呑み込ませる音が、はっきりと二人の間に響き渡る。


 その音が色褪せない内に、梅吉はすっと唇を離していき、

「いや、俺は知らねえよ」

 顔色一つ変えることなく、さらりと返す。


 その返答に、緊張の糸が切れてしまったのか。藤助は、唖然と口を半開きにさせるばかりだ。


 けれど、一方の梅吉は、相変わらず自身のペースを崩すことなく淡々と、

「知らないが、お前が知りたいなら。もしかしたら、知れる可能性があるというだけだ。どうするかは、お前次第だ」


「俺次第って……」


「知りたいんだろう? トウカって人のことを。じいさんとは、どういう関係なのか。将や一緒になるつもりがあるのか。知りたいんだろう――?」



 にっと白い歯を覗かせて、問いかける梅吉に、藤助はぎゅっとエプロンの端を強く握り締める。


 そして、すっ……と彼から視線を逸らした。



「知るって、どうやって。当てでもあるの?」


「そうだなあ。やっぱり携帯電話って、肌身離さず持ち歩いているだけあって、個人情報がたくさん詰まっているんだよな。特に個人的なやり取りをすることが多いから――、メールとか、電話とか。そういう本人達からしてみればどうってことない些細なことでも、他人からしてみれば……ってことがあると思うんだ」


「つまり、携帯の中を見るってこと? でも、指紋認証が必要だから。だから、開けられる訳が……」



 そう後を詰まらせる藤助に、梅吉は半ば小馬鹿にしたような息を鼻から吐き出す。



「確かに指紋認証は、本人の指紋がないと開けられない。だが、逆に言えば。本人の指紋さえあれば、本人の意思とは関係なく開けられるってことでもある」


「本人の意思とは関係なく……?」


「ああ」



 梅吉は、一度そこで言葉を区切る。けれど、すぐにもまた口角を上げさせて、

「本人自らの手で、開けてもらえばいいだけの話だ――」

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