第19戦:三男に彼女(仮)ができて、家の中もなんだかごたごたしている件について
1.
「はあっ!? それで、オーケーしちゃったのか……?」
その日の夜分、梅吉の部屋にて――。
梅吉にしては珍しく、目を大きく見開かせたまま、素っ頓狂な音を上げる。
だが、一方のその音を浴びせられた桜文は、特に代わり映えする様子もない。
「断るに断り切れなかったと言うか、相手の言うことも一理あるなって。そう思って。取り敢えず、お試しだけどさ。それに、この前、石浜にも言われたしなあ」
「石浜だって? ふうん……。アイツに何を言われたかは知らねえが、まあ、いいんじゃねえの? 自分で決めたことならさ。それで、話はそれだけか」
梅吉は横目で桜文のことを見つめながら、ぐびりと手に持っていた缶ジュースに口を付ける。
その促しに桜文は彼の視線には気付かぬまま、ただ素直に従う。
「いや、それが……。いいよとは言っちゃったけど、でも、付き合うって、どうしたらいいのかよく分からなくて」
「そんなこと訊かれてもなあ。そういうのは人それぞれだ、一概には言えねえよ。女の子が十人いれば、十通りの付き合い方があるってもんよ。みんな違うんだ、当たり前だろう。
それに、その万乙ちゃんっていう子のこと、俺はよく知らないからな。悪いが的確なことは言ってやれねえよ」
「ふうん、そういうものなのか。付き合うって、難しいんだなあ」
「おい、おい。付き合い出してから、まだ一日も経ってないだろうが。
取り敢えず、これだけは心得ておけ。いいか、一緒に歩く時は、車道側を歩くこと。それから、デートの帰りは、ちゃんと家まで送り届けること。そして、相手のペースを意識しながら、なるべくゆっくり歩くこと」
「どうしてゆっくり歩くんだ?」
「どうしてって、女の子は男より歩幅が小さいだろう。それに、ミュールとかハイヒールとか、履いている靴によっては歩き難いんだ。だから、歩く速さも遅い子の方が多い。それに、ゆっくり歩いた方が、その分一緒にいられる時間だって長くなるだろう」
「へえ、成程。梅吉って頭は悪いけど、そういう所はしっかり考えているよな」
「おい。もしかして、それで褒めているつもりなのか?」
本人としては、全く悪気はないのだろう。だが、それでもやはり癇に障ってしまう。梅吉は手元にあった枕を掴むと、桜文の顔面目がけて投げ付けた。
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