11.

 いつの間にか夜も明け――……。


 一日中困らせていた暴風雨は、その影を残すことなく、天いっぱいに青空が広がる。けれど、アスファルトにはいくつもの水溜りができている。


 それを避けるよう、歩く靴音は一定のリズムを刻み。しかし、とある家の前に差しかかると、ぴたりと止まった。そして、ガチャンッと甲高い音の後に続いて、重たい扉が開いていく。


 その音の奏者である天羽はそのまま歩を進めさせていくが、玄関に並ぶ靴を眺め、

「なんだ。学校に泊まると言っていたが、藤助達はまだ帰って来てないのか」



 腕に付けられた時計の盤が示す数字に、まだ早いからなと。ぽつりと呟きながらもリビングへと入る。



「見かけない靴がいくつかあったが、あれは一体……。

 ん? なんだ、牡丹の友達が来てたのか。こっちの子は、足利さんの……」



 部屋に入るなり聞こえてくる、いくつもの寝息に耳を傾けさせ。寝転がっているその一つに、天羽は自然と近寄って行く。


 その肢体――牡丹の頬に、そっと片手を添えさせ、

「この柔らかい黒い髪も、幼さの残るあどけない寝顔も。全部、全部、本当に、君にそっくりだ。けど……。この子を無理矢理引き取ったのは、」



 ゆっくりと、天羽はその輪郭から手を離していき。瞳は、どこか遠くを見つめたままだ。小さく息を吸い込ませ、そして。



「トウカ――……」



 そう口先で囁くが、その音は朝の静けさに溶けていき、虚しくも一瞬の内に消えてしまう。


 後には時計の針の動く音ばかりが、嫌らしくも天羽の鼓膜を振るわせ続けた。

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