11.
いつの間にか夜も明け――……。
一日中困らせていた暴風雨は、その影を残すことなく、天いっぱいに青空が広がる。けれど、アスファルトにはいくつもの水溜りができている。
それを避けるよう、歩く靴音は一定のリズムを刻み。しかし、とある家の前に差しかかると、ぴたりと止まった。そして、ガチャンッと甲高い音の後に続いて、重たい扉が開いていく。
その音の奏者である天羽はそのまま歩を進めさせていくが、玄関に並ぶ靴を眺め、
「なんだ。学校に泊まると言っていたが、藤助達はまだ帰って来てないのか」
腕に付けられた時計の盤が示す数字に、まだ早いからなと。ぽつりと呟きながらもリビングへと入る。
「見かけない靴がいくつかあったが、あれは一体……。
ん? なんだ、牡丹の友達が来てたのか。こっちの子は、足利さんの……」
部屋に入るなり聞こえてくる、いくつもの寝息に耳を傾けさせ。寝転がっているその一つに、天羽は自然と近寄って行く。
その肢体――牡丹の頬に、そっと片手を添えさせ、
「この柔らかい黒い髪も、幼さの残るあどけない寝顔も。全部、全部、本当に、君にそっくりだ。けど……。この子を無理矢理引き取ったのは、」
ゆっくりと、天羽はその輪郭から手を離していき。瞳は、どこか遠くを見つめたままだ。小さく息を吸い込ませ、そして。
「トウカ――……」
そう口先で囁くが、その音は朝の静けさに溶けていき、虚しくも一瞬の内に消えてしまう。
後には時計の針の動く音ばかりが、嫌らしくも天羽の鼓膜を振るわせ続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます