4.

「はっ、ははっ……。またしてもあっさりとクリアされてしまいました。

 では、続きまして、ガンシューティングゲームです」



 その声に合わせ、今度は大きな機械がスタジオへと運ばれて来る。それは、ゲームセンターでよく見られるアーケードゲームだ。



「ステージは全部で三つ。全てクリアできればチャレンジ成功です。なお、このゲームはお二人での参加となります」


「まだ参加してないのは、道松と梅吉、それと牡丹だよね。一人は……」


「もちろん俺がいく」

と、藤助兄さんの言葉を遮り、道松兄さんが名乗り出る。



「そんじゃあ、もう一人は俺で決まりだな」


「えっ、梅吉兄さんがですか?」


「なんだよ。俺じゃあ不満なのか?」


「いえ。そういう訳では……」


「まあ、見てなって。なあに、お兄ちゃん達を信用しなさい」



 そう言うと梅吉兄さんは、がしがしと俺の頭を乱暴に撫でた。


 だけど、俺の不安が消えることはない。



「藤助兄さん、本当に大丈夫なんですか?」


「大丈夫って、何が?」


「だってあの二人、仲が悪いじゃないですか。見て下さいよ、ほら」


「観覧席のお姉様方、声援お願いしまーす!」


「おい、梅吉。真面目にやれ!」


「なんだよ。黄色い声があった方が、番組的にも盛り上がるだろう」


「何を馬鹿なことを言ってるんだ。余計なことに構ってる暇があれば、集中しろ!」


「ほら。始まる前から、もう口喧嘩してますよ」


「うん、確かにね。でも、なんだかんだ気が合うんだよなあ」



 くすくすと小さな笑みを溢しながら、藤助兄さんはふわりと頬を綻ばせる。


 こうして俺の心配を他所に、ゲームは開始され……。



「はーははっ! 楽勝、楽勝!」


「おい、梅吉。調子に乗るな。集中力を乱すんじゃない」


「なあに、これくらい。そういうお兄ちゃんこそ、背中がお留守だぜ?」


「ばーか。わざと空けておいたんだよ」


「へえ、本当だ。息ぴったり……」



 藤助兄さんの言った通りだ。二人は啀み合いながらも最低限の弾数で正確に敵を射抜き、どんどんステージをクリアしていく。



「喧嘩しながら、よくあそこまで息を合わせられますね。それに、射撃部の道松兄さんは分かりますが、梅吉兄さんまで上手いなんて」


「そうだなあ。梅吉も弓道をやってるし、ゲーセンでもよく遊んでるから。ああいう的当てゲームは得意だよ」


「そう言えば、そうでしたね……って、もう最終ステージだ」



 気付けばゲームは佳境に入り、ラスボスとの決戦になっていた。


 だけど、二人の勢いは留まることを知らない。ものの数分で、画面いっぱいに、『GAME CLEAR!』の文字が表示された。



「さすが射撃部と弓道部のエースですね」


「ははっ、まあな。これくらい朝飯前よ」



 梅吉兄さんはすっかり得意気に、銃のトリガーに指を絡めてくるくると回す。



「よし、次でいよいよ最後だな! あとは牡丹、全てはお前に懸ってるぞ」


「あの。さり気なくプレッシャーをかけないでくれませんか?」


「なあに、大丈夫だって」



 梅吉兄さんはけらけらと笑いながら、俺の背中を思い切り叩いた。



「さて、いよいよ次が最後のチャレンジです! 泣いても笑っても、これが最後。このゲームをクリアできれば、賞品は見事天正家のみなさんのものとなります。

 果たして、勝利の女神は彼等に微笑んでくれるのでしょうか!? それでは、天正家の最後のゲームはこちら、百人組手斬りです!」


「待て待て待ていっ!!」


「どうしたんだ、牡丹。そんな素っ頓狂な声なんか出して」


「無理ですよ、無理! 百人組手なんて絶対に無理です!

 本当にこの番組の人達、俺達を勝たせる気なんて微塵もありませんよ!?」



 絶対に無理だと俺は声を荒げ、全身を使って非難する。



「そんなこと言われてもなあ。無理でもなんでもやるしかないだろう。あと参加してないのは、牡丹だけなんだから。

 なに、どうせ相手は番組側が急遽掻き集めた素人集団だ。得意の剣道でお前の右に出るやつなんていないだろうし、問題は人数だけだ」


「だから、その人数が問題なんですよ。大体、この番組、生放送なんですよね? 百人組手なんて、相当時間がかかるじゃないですか。

 三時間スペシャルってことは、六時から収録が始まってもう直ぐ九時だから、どちらにしても、もう番組が終了する時間なんじゃ……」


「ああ、その点なら大丈夫ですよ。みなさんのお陰で番組も大変盛り上がり、ツイットーのトレンドワードやインターネットの検索急上昇ワードに当番組のことが上がっていまして……。最高視聴率も出るのではないかと予想され、上からのGOサインで放送延長が決定しましたから」


「これで心置きなく臨めますね」



 けろりと述べる司会者に対し、数字の奴隷めっ……!! 俺は、心の中で思い切り叫んだ。

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