3.
一回目のチャレンジは、藤助兄さんの手によって無事に成功。次のお題は瓦割りだと発表させる。
五分以内に瓦を一枚ずつ、計二十枚全てを割ることができればチャレンジ成功だそうだ。
「力仕事と言えば、ここはもちろん桜文だな」
「頼んだぞ」梅吉兄さんは、桜文兄さんの背中をどんと叩いた。
「ああ、分かった。でも……。
あの、一枚ずつ割るのは面倒なので、一気に割ってもいいですか?」
「へっ、一気にって、二十枚全部ですか? それは構いませんが、万が一怪我をされても、当番組で責任を負うことは……」
「それなら大丈夫ですよ。ウチの三男は、丈夫なのが取り柄みたいなもんなんで」
「はあ、そうですか。
それでは、瓦を設置し直した所で。天正家の二回目のチャレンジ……」
「スタートです」そのアナウンスと同時、ガッシャアンッ……!!! と、甲高い音がスタジオ中に鳴り響いた。問題の瓦の束は一番下の一枚まで、全て綺麗に真っ二つに割れていた。
わっと沸き起こる歓声に、桜文兄さんは照れ隠しとばかり。薄らと赤く染まった頬を軽く掻いた。
「さすが桜文。一発で決めるとは」
「わーっ! やった、やったー! これでまた、サイクロン掃除機に近付いたぞ!」
「よし、この調子で一気に勝負を決めるぞ!」
と、天正家一同が小さな盛り上がりを見せる中、次のお題はルービックキューブだと発表される。五分以内に、六面全て同色に揃えろとのことだ。
「それなら、ここは僕が」
満場一致で菖蒲に決定し、菖蒲はスタジオの真ん中へと移動する。
開始の合図とともに菖蒲はキューブを手に取ると、くるくるとそれぞれの面を見渡す。それから、キューブを素早く回し出し……。
「できました」と数秒後、台の上にキューブを戻した。
「えっ、もうですか? では、確認の方を……。
はい、六面全て揃ってますね。タイムは、番組新記録の十八秒です……」
呆然とタイマーを眺めている司会者の傍らから、すたすたと戻って来た菖蒲に俺は、
「すごいな、菖蒲。よくあんな短時間でできたな」
菖蒲は、やっぱり顔色一つ変えないで、
「CFOP法を使ったんです」
「シーエフ……、なんだっけ?」
「CFOP法です。ルービックキューブにはいくつか解法がありまして、その内の一つです。こういった方法を覚え、コツさえ掴めば誰でも簡単に早く揃えられますよ」
なんだかよく分からないけど、すごいな。
ますます感心していると、番組のスタッフ達が不意にバタバタと裏で忙しなく動き回り出した。
「どうしたんですかね。なんだか急に裏方が騒がしくなったような」
「ううむ……。どうやらあの噂は、本当だったみたいだな」
「えっ、噂って?」
「この番組の成功率は三割程度なんだが、その三割の家族も大体が番組スタッフの関係者だという噂があってな。
余程製作費をけちりたいんだろう。本物の視聴者から選ばれた家族のほとんどは、大抵は失敗に終わっているんだよ。あともう少しで賞品が手に入る所で、わざと難易度の高いゲームを用意してな」
「それでサクラにはクリアさせて、あたかも本当に賞品をあげているよう見せかけているんですね」
「そういうことだ。だから、俺達の前に挑戦していた家族も、あと一歩の所で失敗してただろう。番組側は、必死に攻防しているのさ」
成程、そういうことだったのか。
おそらく、梅吉兄さんの言っていることは本当で。番組の裏側を知り、不安が募っていくけど、それでも中継は続けられ――。
「それでは、次のチャレンジに移ります。続いてのゲームは、フラッシュ暗算です」
「フラッシュ暗算か。それじゃあ、ここは芒だな」
「えっ、芒にやらせるんですか? 芒には難しくないですか?」
「なあに。見てなって」
芒は、「はあい!」と、元気な声で返事をすると、ぴょこぴょこと飛び跳ねながらスタジオの真ん中へと移動する。
そして、ぴょんと用意された椅子へと飛び乗った。
「ははっ、元気だね。ちょっと難しいと思うけど、頑張ってね。
問題は全部で十問。全て正解できればチャレンジ成功、一問でも間違えた時点で失格となります。
それでは、まずは一問目」
ぱっと、大きなスクリーンに数字が映し出され。ぱっ、ぱっと、比較的ゆっくりとした早さで画面が切り替わっていく。
「なんだ、思ったより簡単だな。これなら芒でもクリアできそうですね」
「はい、それでは芒くん。一問目の答えをお願いします」
「25!」
「はい、正解です。それでは、続いて二問目です」
「69!」
「はい、またまた正解。それでは、続いて三問目……」
と、問題が進むにつれ。表示される数字の桁数は増え、画面が切り替わる速度も徐々に上がっていく。だけど、芒は表情一つ変えることなく、さらさらと答えていく。
「百十一、五百三、えっと、えっと……、ああ、もう分かんないやっ!
芒のやつ、よくこんなの解けますね」
俺なんて、もう画面に映った数字さえ読み取れないのに。
そんな俺の横で、梅吉兄さんは、ははっと笑う。
「こういうのは芒の十八番だからな。それより、番組側もかなり躍起になってるな。
見ろよ、裏で出題問題をいじってやがる。芒がただの小学生じゃないと分かった途端、難易度を上げて潰しにかかってきてるぜ。子供相手に大人気ないなあ」
梅吉兄さんの言う通り、スタッフ達は陰でこそこそと手を尽くすものの……。
「543687634」
「9086875268」
「35791216038!」
一方の芒には、全く効果が見受けられない。その甲斐もむなしく、画面はとうとう真っ暗になった。
「ねえ、おじさん。今の問題で十問全部終わったよね」
「お、おじさんって……。ははっ、そうだね。全問正解、ゲームクリアです」
にこにこと一抹の邪気もこもってない笑みを浮かべさせる芒に、司会者は未だ目の前で繰り広げられた偉業が信じられないのか。ぱちぱちと何度も瞬きを繰り返し、半ば放心状態だ。
「芒、良くやったぞ!」
がしがしと、梅吉兄さんに頭を撫でられている芒を眺めながら、そう言えば前に竹郎が、芒は天才小学生だと言っていたなと。
俺はふと、そんなことを思い出した。
「さて、天正家の八人中四人が成功し、折り返し地点となりました。続いてのチャレンジは、スラックラインです」
「えっと、スラックラインって……?」
なんのことかと首を傾げる俺達を余所に、スタジオには機材が運ばれ。二本の柱の間に幅三センチ、長さ十五メートルくらいの細長いナイロン製のテープが、床から膝丈くらいの高さの所でぴんと真っ直ぐに張り渡される。
スラックラインとは、スポーツの一種で。要は綱渡りのことだそうだ。ラインの上を歩いて行き、向こう側まで渡り切れたらチャレンジ成功。チャンスは三回、落ちたらスタート地点からやり直しとなるそうだ。
「……私がやる」
「えっ、菊がやるのか?」
菊はこくんと小さく頷くと、そのまま前に進み出て。スタートの合図とともに、宙に張られたラインの上をすたすたと、まるで普通の地面の上を歩いているのと変わらない調子で進んで行き――。いとも容易く、反対側まで渡り切った。
特に何の盛り上がりを見せる暇もなく、楽々とクリアしてしまい、
「もう少し愛想良くしろよ」
と、梅吉兄さんが声をかけるけど、やはりいつもの無愛想顔のまま、菊はふいと顔を背けた。
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