第3戦:異母妹の友達はなんだか面白い件について

1.

 ちゅんちゅんと、心地良い小鳥の囀りが鳴り響く中――。


 突如、ばんっ! と、鈍い音が室内中へと轟いた。それから。



「牡丹お兄ちゃん、起きろー!」



 瞬間――、鈍い衝撃が俺の腹の辺りに、どすんっ! と降り落ちた。不意打ちなその痛みに、俺の喉奥からは、「ぐえっ!」と、蛙が潰れたような声が出る。


 強制的に夢の世界から退場させられた俺はの腹の上では、芒がゆさゆさと激しく揺れ続けている。



「あのさあ、芒」


「なあに? 牡丹お兄ちゃん」


「その、起こしてくれるのはありがたいんだけどさ。腹の上に乗るのは止めてくれない?」


「えー。どうしてー?」


「どうしてって、痛いからに決まってるだろう。ほら、早く降りろよ」



 しっしっと手で払うと、芒は不満そうではあったが、それでも「はあい」と返事をし、素直に部屋から出て行った。


 その小さな後ろ姿を見送ると、俺は制服に着替え。自室を出るが寝惚け眼を擦りながら階段を下りていた所為で、つるりと足が滑った。


 すると、ズダダダダダンッ……!! と、家内中に地響きが鳴った。



「いっつー……」



 高校生にもなって、階段から落ちるとか……。


 情けなさから、つい口先から苦笑が漏れる。


 痛みに耐えながらも起き上がろうとしたが、ふと頭上に黒い影がかかった。ゆっくりと頭を上げていけば――。



「水玉……。はっ!?」



 しまった――! 


 咄嗟に口を押さえるが、後の祭りで。そのまま更に上を見据えれば、案の定、鬼の形相をした菊がまるでゴミでも見るような瞳で俺のことを見下ろしていた。



「いや、あの。これは、その……」



 弁解を述べる時間など、もちろん与えられるはずがない。


 震える口先から二の句が継がれる前に、バッチーンと乾いた音が、またも家内中へと響き渡った。




✳︎




「おーすっ、牡丹! ……って、その顔、どうしたんだ?」


「別に……」



 登校して来て早々。首を傾げさせる竹郎に、俺はおそらく真っ赤に腫れているだろう頬をむすっとさせたまま答える。



「ふうん。まっ、いいや。それより。じゃっじゃーん! 見ろよ、これ」


「なんだ、映画のチケットか?」


「違う、演劇のチケットだ」


「演劇ねえ。竹郎って、そういうのに興味があったんだ」



 俺のリアクションが不服だったのだろう。竹郎は、つまらなそうに口先を尖らせる。



「なんだよ、少しは驚けよー。

 いいか、これは、ただの演劇のチケットじゃない。天正菊が出演する演劇のチケットだ。天正菊が出るだけで、倍率が上がって入手するのが大変なんだぞ」


「へえ、アイツが出るのか。お前も物好きだな」


「何を言ってるんだ。あーんな美人を物好き扱いする、お前の方が余程変わってるぞ」


「そうかあ? あんな暴力女のどこがいいんだよ」


「たとえ暴力的でも、あの可愛さならプライスレス。ていうか、一緒に暮らしてて、こう、可愛いなあとか思う瞬間はないのか?」



 俺はしばし考えたが、

「ないな」そう即答する。



「はあ? 本当かよ。お前って、余程趣味が変わってるんだな」



 それとも理想が高いのかと、勝手にあれこれ推測し出す竹郎を他所に。俺は机の中から一限の授業で使う教科書とノートを取り出して並べる。


 ぱらぱらと、適当にページを捲って。未だに一人好き勝手に話している竹郎の声を適当に聞き流しながら、俺は早く始業の鐘が鳴るよう一人願った。

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