2.


「もう。二人とも、仲良くしなよ。兄妹なんだからさ」


「嫌よ。誰がこんな変態なんかと」


「誰が変態だ!? だから、あれは事故だって何遍も言ってるだろう!」



 俺は再び弁解を述べるが、たけど、変わらずに顔を曲げさせている菊には一切届かない。彼女はぱくぱくと、無言のまま食事を続ける。



「藤助お兄ちゃん。僕、もう行くね」


「うん、いってらっしゃい。忘れ物はない?」


「大丈夫。それじゃあ、いってきまーす!」



 芒は元気良く声を上げながら、ぴょこぴょこと軽い足取りでリビングから出て行く。


 天正家・七男、芒――。


 天正家唯一の小学生で、年相応の活気さに愛くるしい笑みを携えている。朝、兄弟達の部屋を訪れ起こしに回っているが、それが彼の役目だそうだ。


 そして、俺がそんな天正家の六男だそうで――……。


 この家に来てから数日が経過するものの、未だに慣れない。おまけに、異母妹の菊からは、変態扱いさせる始末だ。



「そう言えば、牡丹は今日から学校なんだよね」


「そうなのか? お前、いつの間に編入試験なんて受けたんだよ」



 じとりと道松さんに見つめられ。本人にその気はないのだろうが、なんだか責められている気分だ。



「そ、それは……。俺にも色々と事情があるんです」


「ふうん、事情ねえ」


「まあ、別にいいじゃないか。牡丹、学校で何かあったら、俺達に言いなよ。俺と道松は三年二組で、梅吉と桜文は三組だからさ。

 菖蒲は隣のクラスなんだっけ? ちなみに、菊は一年五組だよ」


「みなさん、同じ学校なんですよね」


「うん。南総高校は家から近いし、伝統も多い学校だからね。校風も自由をモットーにしていて、生徒の自主性を尊重しているんだよ」


「へえ、そうなんですか」


「『そうなんですか』って、学校案内を読んでないのか? ちゃんと書いてあるだろう。お前、電化製品の説明書なんかも、最後まで読まないタイプだろう?」


「うっ……。別にいいじゃないですか。大体の使い方さえ分かれば」


「道松ってば、相変わらず細かいんだから。……っと、いけない。もうこんな時間か。ほら、みんな。そろそろ家を出ないと」



 カンカンと、藤助さんがフライ返しでフライパンを叩く。その音に急かされながら、俺は残りのものを一気に掻き込んだ。


 そして椅子から立ち上がると、ぞろぞろと部屋から出て行く兄達に続いて、俺も鞄を片手に家を後にした。

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