第117話起きろ
「起きろ この馬鹿弟子がっ」
「いッ……たい」
木製の靴へらのようなもので叩かれた頭を擦るシーリ。
「痛いじゃないかっ なんだい、普通に起こしてくれてもいいじゃないか」
顔には、わたしは不満です。とありありと表すようにふくれっ面をみせている。
「はぁ ……お前には状態の変化から身を護るための首飾りを渡していたはずだが?」
「首飾り? ……あんな気味の悪いものを普段使いできるわけないでしょう」
シーリがいうように、なにかの骨やら牙やらをちりばめた首飾りで、王都民なら、身に着けることを躊躇わせるような意匠をしていた。
「ちゃんと可愛くみえるように、小さくつくってやっただろう。なにが不満なんだ?」
「あのねぇ……、その小さくしたから可愛いって考えてるところからそもそも間違えてるんだよ。なにかの骨やら牙がついてる時点でもうだめなんだよ」
「それじゃあ効果がないだろう?」
全身を布で覆い、目元だけを出しているノヴァールは心底意味が解らないという表情をしている。
「……うん。わかってた。ノヴァそういう人だったよ。それで、その代わりに、このゴツゴツしたやつを付けさせられている理由をきいてもいい?」
「気づいていないのか……外を見てみろ」
ルヴァールに言われて立ち上がり外を眺めるシーリ。
「なんだい? ただの霧……じゃ、ないみたいだね」
少し呆れたようにノヴァールに振り帰ると同時に、頭のなかで点と点が繋がったようで、すこし険しい表情になっていた。
「気づいたようだな。どうやら、この霧?というべきかも疑問はあるが、睡眠を促す効果があるようだ」
「……見えないけど、王都全域に、なんてことはないよね?」
思案するような素振りのあと、ノヴァールは答えた。
「どうだろうな。だが、この辺り一帯が包まれているのは屋上から確認している」
シーリたちがいる建物は三階だての石造りになっており、その最上階の一室になる。ノヴァールは外の異常に気付いてから、すぐに窓から乗り出して屋上へと登っていた。
霧は三階にまで到達してはいたが、大分薄くなり、ある程度先を見通すことができたそうだ。
「その感じだと、三階より上は平気なのかな」
「おそらくは、な。だが三階以上の建物など、精々は王城くらいのものだろう」
王都の街は三階までで構築されており、こうして密集するように建てられた集合住宅が王都民の住まいとして、定着している。
「王城かぁ。高さもあるし、なにか防ぐ機構はありそう」
「普通は配置したあるだろうな。……こんな大規模な異変は、さすがに想定はしていないだろうがな」
そうだよねぇ。とのんきに相槌を打つシーリ。
「あれ? でもさ、いま私がつけているやつってノヴァのだよね?なんで平気なの?」
そう言いながら、ごつごつした首飾りを触る。
「お前には以前説明した気がするのだが?」
「……ああ、そういえば、そうだね」
どうにもどこか抜けている弟子の姿に思わずため息が漏れる。
「はぁ ……お前は本当に……まあいい。俺はこの異変を調べに出るが、シイはどうする?」
その言葉に頭の後ろに両手を回して組んだシーリは、唸った。
「うー~ん どうしようかなぁ……」
「早く決めろ。俺はもう行くぞ」
こういった異変には目がないはずの馬鹿弟子が悩む姿は珍しいなと、ノヴァールは内心では考えていた。
「ああー、……うん。ちょっと用事を思い出したから、別行動をするよ」
「そうか。なにがあるのかもわからない。十分に気を付けろ」
返事をきいたノヴァールは、一言。そして、部屋の外へと歩き出した。
「様子くらいは見に行ってあげないと、ね」
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