第113話二人組
二日目の朝。
日が昇るのに合わせて、幌馬車は王都へ向かう道のりを再び進みはじめた。昨日とはそれぞれの座る位置が少しだけ変わっていた。
進行方向に向かって、右側に、サリュウ、アーシャ、サンニア、セロ。
左側に、太めの商人、二人組、遅れてきた酒場にいた女性の順に。
昨夜、セロは遅くまでお酒を飲んでいたのか、頭を押さえて、息を吐くように不調を訴えていた。
「あー、だめだ頭が……」
「ふふふ、意外とお酒に弱いみたいね」
二人で飲み明かしたのか、2人は少しだけ気安い関係になったようにみえる。
「いや……、おかしいだろう。俺と同じくらいは飲んだはずなのに、なんで平気そうなんだ」
「あら、そんなに飲んだかしら?」
セロはどうにも納得のいかない表情をしながら、正面に座る女性を訝しむが、そのあとのサンニアの指摘にそれもどこかに飛んでいってしまう。
「まったく、お酒に飲まれて、言い訳なんて情けない」
「ぐっ…」
昨日の酔った男を諭すように言った自身の言葉を、図らずも聞かされたことで、なにひとつ言葉も出なくなったセロ。そのやりとりを聞いていたアーシャは呟いた。
「お酒かぁ、おいしいのかなぁ」
「どうなんだろうね」
お酒を飲める年頃ではあるけれど、いまだに飲んだ経験がないアーシャとサリュウからすると、あまり、お酒を飲み過ぎることは、良くないことに繋がるようだと学ぶのだった。
その後も大きな問題も起こることなく、二日目の行程が過ぎ、二つ目の宿場の町に到着する。
二日目は予定通りに宿ではなく、野宿をすることにしたサリュウたちは、宿場の町の外にある野宿ができる休憩所まで移動していく。
幌馬車からは、太めの商人と遅れてきた女性は宿に泊まるようで、大人と子供であろう2人組は野宿をするようで、同じように休息所にきていた。
幌馬車に積んであった二人用テントを手際よく建てていくセロ。
「すごいね。僕じゃここまで手際よくは、とても建てられないよ」
「うん?あぁ年季が違うんだ。こういうのはな、慣れなんだよ」
年中遺跡などを探しては野宿を繰り返し、発見すればテントを張って滞在する生活をしていたセロからすると、その行為自体がどうということもない、もはや生活の一部なっているようだ。
「よしっ、と。それじゃあ、焚火に使えそうなものを取りにこうぜ」
あっという間に完成したテントをサンニアたちに任せたセロとサリュウは、近くになる森へと歩を進めた。
「サリュウも経験があるだろうが、まずは燃えやすいもの、次に細い枝類、最後に太い目の木だ。俺は太いやつを中心に集めるから、サリュウは細い枝類を頼む」
「わかった、燃えやすいものは任せて」
夕方ということもあり、徐々に夕闇に支配されていく。
充分な量の木を集めたセロは、それらを縄で縛って担ぎ上げる。
「こんなもんだろ。おーいっ、そろそろ帰ろうぜ」
少し遠くから返事の声がきこえる。
「すぐいくよ」
元の場所に戻った二人は集めた焚火の燃料を持ち、テントまで戻った。
「魔法でもいいんだが、せっかくだからな、っと」
セロは森に生えていた綿上の植物を取り出して分解、そうして、今度は燃えやすいようにふんわりと固めた。それに
「あとは、これに、っと」
サリュウが集めてきた木くず、枯れた小枝と火を移して大きくしていく。
「うまくいったな」
太い木に火が燃え移り、焚火となった。
ひと段落ついたところで、サリュウは火種を作った石のことが気になり、聞いてみることにした。
「セロ、その石は普通の火打石とは違うのかい。僕も火打石を使ったことがあるけど、そんなに簡単にはいかなかったよ」
「ん?あぁそうか。これは火石と言ってな、遺跡の近くの岩肌の所で見つけたものなんだ。さっきみたいに勢いよく擦るのと同時に、ほんの少し魔力を加えると、火種になるほどの火力になる。火打石とは似ているけど、火種の質が違うもので、まぁちょっとお高いな」
火石は一般的には出回っておらず、こうして、個人で所有しているものがほとんどだ。
たまに、オークション等にも出品されるが、その希少性に値が付くため、火打石よりも高価になっていた。
「なるほど。火石が一つあるだけでも、大分楽になりそうだね」
「そうなんだが、火属性を扱えるなら、そのほうが早いけどな。っとそれよりも、飯の支度をすませようぜ」
「そうそう。はい、はい。サリュとセロは、どいて、どいて」
火を起こす前に拾ってきていた丈夫な枝を地面に斜めにさして、バツ印を作り縄で結ぶ、それを両側に設置して、持ち手に棒を通した鍋に水を注ぎ、焚火の上に設置して、沸騰させる。
そこに、用意していた具材をいれて、スープが出来上がる。それに、干し肉などの保存食をとりだして、夕食とした。
「はあ、やっぱり温かいスープはいい。落ち着くな」
セロは朝の具合の悪さはすっかり抜けたようで、スープをゆっくりとすすっている。
ほかの三人も干し肉をかみしめながら、スープをすする。
干し肉をスープにひたして柔らかくしてから、噛んで飲み込む。
「暖かいスープがあると、おいしく食べられるね」
サリュウの言葉に、アーシャとサンニアは頷き、それぞれに夕食をいただいていった。
食べはじめてからしばらくして、一息をついたアーシャは、ふと、視線を感じたような気がしてあたりをみる。すると幌馬車で一緒になっている二人組のうち、こどもと思われるほうが、こちらを見ていることに気付いた。
ジー、という擬音がきこえそうなほどに、視線がこちらを向いている。
「ねぇ、あの二人って食事をしてないんじゃないかな」
アーシャの声に、二人組のほうに視線を向けたサリュウ。
「そういえば、そうだね。テントも用意していないようだし」
テントなどは荷がかさばるために、マントに包まる様にして寝るのは、めずらしいことでもないので、気にすることではないけれど、こちらに向ける視線がまったく動かない姿に、どうやら、事情があるようだと、なんとなくだが、察したサリュウ。
「いいかな」
サリュウが他の三人にそう言葉を発すると、無言でうなずく。それを確認すると立ち上がり、サリュウは二人組の方へと歩きだした。
こちらに向かってくるサリュウに驚き、あわてて視線をはずしたこどもと、スッと立ち上がり、剣の柄に手を掛け、こちらを見据える護衛と思われる女性。
「落ち着いて下さい。他意はありません」
両手の平をみせながら、近づくサリュウに、女性は警戒を解かずに声をだした。
「止まってください。何用ですか」
「ええと、ですね。……一緒に食事をしませんか」
護衛の女性はその言葉に、一瞬考えるも、断ろうと
「あり……」
「いいんですかっ あっ……」
と声を挙げられて、断る空気を見失った護衛の女性。
「どうぞ、まだありますし、火の傍のほうが暖かいですよ」
唸るような暑さの砂漠とは違い、王都へと戻るにつれて、気温は変化していく。今は昼間でも、すこし肌寒いくらいの気温になっていた。
「ねぇ、いいでしょう…」
「……わかりました。頂かせてもらえますか」
護衛対象にそう懇願されては、断ることも憚られて、了承をした女性。
二人組を連れて火の傍まで、戻ってきたサリュウを三人は暖かく迎えた。
「ちょっとまて、いま具材を足しておいたから、もう少ししたら食えるぞ」
「こっち、こっち、ここに座っていいから」
「私はこっちに座るから、二人はここね」
焚火を囲むように、座っていた四人は六人になり、焚火を中心にサリュウとアーシャの対面に二人組が座り、その左右にセロとサンニアがそれぞれ座った。
「ご厚意に感謝します」
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