第14話黒幕って黒いよね。

見過ごせずに、助けに入れば、世界の破滅に王手をかける。


現実に打ちのめされそう。

目の前に浮かぶ闇の精霊こと、ヤミュー。

見た目はかわいいマスコットみたいなんだけど、やろうとしたことはえげつない。

1人の女性の運命を奈落に落とすことで、自身の相手を務めさせようとしていた。


精霊に人の善悪はない。ないから、できれば関わりたくなかった。

助けに、いや、状況だけは改善してやろうとはした。

後悔はないが、今目の前にある難題にオレが絶望しそう。


すごい笑顔になっているヤミューがにくい。

「きみのそばもねーいまねーここちいいよー」


できれば、きれいなお姉さんにいわれたい。

なぐりたいその笑顔とまではいかないが、頬を引っ張りたい。


どうする。

オレの適正程度では闇の精霊の力は出し切れない。

そして彼女ほどに素質を持っている者はいない。


どうかはわからないが、すぐにこの街から離れる可能性も否定できない。

時間は待ってくれない。やるしかないのか。


・・・覚悟を決めるしかないんだ。




領主代理の部屋にノックがある。

「クーセル様。ボーセイヌ様が面会に来られました」

「はいれ」

「叔父御どの、ご機嫌いかがですか」

ふむ書類から視線は上げないか。


「なんだ?気持ちの悪い言葉をつかうな」

「そうか、ならば簡潔にいこう。代理殿は把握しているとは思うが、今日取り逃がした娘は取引でも?」


おっ、顔上げたぞ。だが怪訝な顔だな。

「それがどうした?」

隠しもしない、か。


「特に重要でもない様子、ならあの娘はオレがもらっても?」

「何を言っているのかわからんな」

「なに、どういう取引かはしりませんが、娘の処遇をこちらにほしい。それだけですよ」

うん?なぜか目付きが少し鋭くなったような。

「なににつかう」

「顔はみておりませんが、魅力的でしょう?それにちょっと因縁のある人間も一緒にいたので、オレに歯向かうことを教えるためにも、少々余興でもとおもっています」

「そうか、取引は身柄をこちらに渡してからの話だ。渡されなった以上はどうでもいい。好きにしろ。出ていけ、私は忙しい。」

まずまず、か。

「くっくっく、それではごきげんよう」


クーセルは書類に落としていた視線を退出していく甥に移す。

「バカではないとおもっていたが、なかなか頭も切れるようだ」


先ほどの会話のなかで表情を盗み見ていたが、

因縁の、あたりでは感情がかくしきれていなかったな。

なにかは知らんが、どうやらそちらが本命のようだ。

女にも興味がでる歳か。劣情でもさらすクズに育ってくれればなおやりやすい。


それでも警戒しておくにこしたことにもないか。


「おい」


「クーセル様。どうされました?」

「ボーセイヌに気付かれぬように影をつけよ」

「なにか懸念事項が?」

「いや、今のところ順調だ。一応だ」

「かしこまりました」



ふー、とりあえず、現状はこれでいい。

やはり、叔父は関係していた。だが、そこまで重要でもなさそうだ。

取引の内容は気になるが、いまはいい。

次だ。


「アミーア。使用人に兵長を呼ばせろ」

「はい」


しばらく、待つと一人の腹黒そうな男が現れる。

「ボーセイヌ様。お呼びとききはせ参じました」

「よくきた。実はな、昼間のことなんだが、おれに立てつくよそものがいてな」

「それは、捕えねばなりませんなぁ」

露骨に歪む笑顔をするこの男は、巡回兵をまとめる兵長だ。こっち側とはずぶずぶのクズだ。さりげなく、手をさすっているしぐさは賄賂をよこせという合図。

「まぁ、落ち着け、兵長。ただ捕えるだけじゃ面白くもない。そこで、だ。やつらには連れがいてな、女が3人いる」

「女、ですか?」

にやぁ、と気持ち悪い笑顔を浮かべる兵長。

「おびき出すために、使おうかとおもってな。罪状はなんでもいい。そうだな、侍女がいい。生意気にもオレを睨みあげていたからな」

「それはそれは恐れしらずな。わかりました、お任せください」

恭しく頭を下げる男に、金貨を数枚握らせる。

「ご協力に感謝いたします」


いっそ清々しいほどのクズスマイルを浮かべて退出していった。


あそこまで浸かるとあぁなるのか。

どうにも知りたくない知識が増えた気して、ちょっと落ち込む。


「ボーセイヌ様。なにをなさるおつもりですか?」

最近なついてきたアミーアの視線に冷たさがのっているように感じる。


どうする。事情を話して協力者になってもらうか?


「貴様は言われてことだけをしていろ」

だめだ。共犯者だ。こちら側に立たせるわけにはいかない。


クズはクズらしく、だ。


「そうだ、貴様はつけた男に接触して、ここにすぐ来るように伝えろ。ぐだぐだいうなら、貴様たちの素性は知っている。商会まで追求されたくなかったらすぐにこい、とな」


「わかりました」

表情は伺い知れないが、また、昔に逆戻りか。



これで、いい。順調だ。


しばらくは待ちだな。





彼女たちの宿に、気絶したままの女性を下ろし寝かせる。

部屋には主人公一行。メンバーは主人公ことサリュウ、アーシャ、サンニア、侍女の四人。


「このたびは誠にありがとうございます。あなた様のおかげで、無事にお嬢様を取り戻すことが叶いました」

深々と頭を下げる侍女風の女性。


「いえ、たまたまです。僕たちがあそこにいて、必死なあなたに協力したいとおもっただけです」

「そうよ。あなたの行動にちょっとだけ、力をかしただけよ」


「それでも、お嬢様にもしものことがあったらとおもうと、お礼をせずにはいられません。ありがとうございます」


このままでは、話が進まない気配を感じたので、彼女のことを聴くことにした。


「そういえば名乗っていませんでした。僕はサリュウ、彼女はアーシャ。ワケあって2人で世界を旅しています」

「それはおすごいですね。わたしはお嬢様の侍女を務めさせてもらっているジョゼと申します」


ずっと気になっていたことがある。


「ジョゼさんは、なにかをおやりになっていませんか?」


「はい。お嬢様の、サンニアお嬢様の護衛も務めさせて頂いております」

彼女はサンニアというのか。

「なるほど、道理で身のこなしがいいとおもっていました」

「そのように見えるならうれしい限りです」


「そういえば、彼女、サンニアはどうして浚われそうになっていたの?」

「それは・・・」

アーシャの問いに、曇るジョゼの表情。

「いえ、言えないことならばかmい」


「後継者を、争っているのよ」

声のほうみると、起き上がったサンニアがいた。

「お嬢様っ、お気づきになられましたか」

「ジョゼ。ありがとう。すこし、打ったところが痛いけれど、大丈夫よ」

「よかった。サニーが目を開けないかもしれないとおもうと・・・」

「大丈夫よ、泣かないで。」


「ただの侍女さんではないとはおもってたけど、2人の関係はそれ以上よね」

アーシャの言葉に僕も同意する。


「わたしの侍女として、もう10年になるかな。ずっと一緒にいてくれたから、お姉ちゃんみたいかな?」

すこし照れた表情をしながらいうサンニア。

「サニーは甘えん坊さんだから」

「ちょ、ちょっとジョゼ、やめて。」

「ふふふ」

2人はお互いに想い合っているようだ。


「ありがとう。本当にたすかったわ」とサンニア。

「それはさっきジョゼさんに言われたわ」とアーシャ。

「それで、さっきの話の続きなんだけどね、私の実家はね大きな商家なの。それこそ国一番の。それをお父様が一代で築いたの。大きいからこそ、後継者は誰になるのかっていう問題をお父様がね、「もっとも栄させたものに譲る」と宣言しちゃったの。だから上に二人の兄がいるのだけど、闘うことになったわ」


後継者争い。火種としては十分か。


「それでね、最初はお互いが利益を伸ばすために努力をしていたのだけど、・・・」


考えたくはないけれど、いなくなれば、後継者の椅子は近くなる。

ということか。


「おかしいでしょ?」

かなしそうな表情をしているサンニアの気持ちが伝わってきた。


「それまでは仲もわるくはなかったのに。きっとお父様が築いたものが大きすぎたのね。やさしかった2人を、もう兄なんて呼べない関係になっていただなんて・・・」

「お嬢様」

「いいの、ジョゼ。だれかにはなしたかっただけかもしれないわ。すこしすっきりしたも、の、」「サニー」

涙を浮かべ、それでも堪えようとしていたけれど、決壊して流れ始めれば留まることはなかった。


体を寄せ合い、受け止めようする彼女たちをみて僕は思った。


誰もがうらやむような商家に生まれた彼女にも僕たちにはわからない苦しみがある。

大きな財産がもたらす不幸が、自分に宿るあの力を思い起こした。


大きな力は禍を呼ぶ。けれど、大きな力がなくては守れないものがある。


僕たちは常に選択を迫られている。

大きな力に負けない自分を持たなくてはならない。

大きな力をつかう恐ろしさを忘れてはいけない。



そう感じた。


サンニアたちが落ち着くのを待って、宿をあとにした。




「ボーセイヌ様。お呼びになったものを連れてまいりました」


いつもより感情が感じられない声でアミーアが報せてきた。



「そうか、通せ」


ガキに呼び出された不満を隠しきれていないぞ。

「よくきた。誘拐をそそのかしたものよ」


苦い顔を隠せない所を見ると下っ端だな。

「これはボーセイヌ様は手厳しいですね。それで私をここに呼んだのはなんのようです」

「くくくツそう、慌てることはないぞ。時期にあいつらは捕まる」

どうだ?

「!それはどういうことです?」

そうだろう喰いつくだろう。あとは聞き出すだけだ。

「オレに立てついたのだ、当然だろう。そこで聞きたいのだ。あの女たちの処遇についてお前たちの考えを、な」

「処遇ですか?」

「そうだ。叔父に聴いたが、取引をしていたそうだな?」

納得したか?顔に出すぎだぞ。

「そうですか。そこまで、ご存じなら、お話します。彼女たちは商家の跡取りでしてね、依頼主は明かせませんが、彼女たちを浚って亡き者にしてほしい、身柄は表にでないなら好きにしてもよい。と」

「なるほど、そうかそうか。それは僥倖だ」

なかなかに容赦がない。実の妹にする所業じゃないな。

「金はどうなっている」

「彼女たちをどうにかしていただけるなら、そのために用意したこちらをお渡しします」

懐から金貨が詰まった袋を取り出した。

「うん?すくないのではないか?確実に始末をつけたいのだろう?」

一応カマをかけておく。基準がわからん。

「・・・わかりました。それではこれも。」

さっきより小ぶりの袋を取り出した。

すごい額だな。金貨100枚の袋とその半分は入っていそうな袋か。

「クックック、  いいぞ」

口止め料に内密に処理するためにここまで積むか。

「それではお願いします。わたしはこれで」

「おっとまて、これをやろう。これはオレからの贈り物だ。もっていけ」

「これは・・・ありがとうございます」

恭しく男は頭を下げてでていった。


男が退出してから、袋に入った大金を眺めて考えていた。

これは、これからもお付き合いをよろしくという金もはいっていたのかもしれないな。クズっても嫡男だ。これからもなんらかの付き合いのために、先取りするのも商人の知恵か。


さて、仕上げに入るか。


「兵長に追加で仕事をさせる。今出ていった男を捕えさせろ。罪状は窃盗罪だ」

返事をしないので、振り返ると驚いた表情のアミーアがいた。


「おい、アミーア。聞いているのか?」

「えっ、あ、はい。手配します」

慌てて出て行った



あいつに渡したのは、ただのハンコだ。

なんの効果もない。

さらにいうと、名目上は重要なものだが、どうでもいいものだ。

あれは露天商で見つけたアイテムのひとつで、いわゆる、シャチハタだ。

日本語で山田。と書かれている謎のアイテムだ。


なつかしくて、つい買ってしまった。


まぁこの世界では日本語の表記は使われていないから、なんて書いてあるかも読めんだろうな。



ジョゼはサリュウとアーシャが帰った後、やはり、体がつらいのか横になるサンニアになにか甘い果物でもとおもい、商店を目指していた。


「お嬢様の好きな果実があるといいのだけど」

なにが良いか考えながら歩いていると、

「そのお前、止まれ」

前から足早に駆け寄るのは多数の巡回兵。

「なんでしょうか?」

「あなたを連行しろと命令を受けている。我々におとなしく付いてきてもらおう」

「っ!いったいなぜっ」

「理由は把握していない。我々は命令に従うだけだ。抵抗するのならば、容赦はしないとだけいっておく」

「く、それではお嬢様に伝言だけでも、お願いできませんか?」

「それは許可できない」

「そんな、・・・」どうしたら。まさか昼間のことだろうか。

「それぐらいならいいのではないか?突然にいなくなってはそのお嬢様も困るだろう。」と見覚えのある顔がいう。

「ぬぅ。そうだな。それくらいならいいか。もともと連行の理由も聞いていないしな」

「なら、俺がいこう。そこの彼女とは少しだけ顔見知りだしな」

「わかった。それならセギーリンに任せる。あなたもそれでいいな?」

「わかりました。お嬢様はあそこの宿に泊まっておいでです。「今日は遅くなります、明日まで待ってください」と伝えてください」

「わかった。必ず伝えよう」

「ありがとうございます」

「それでは、我々についてきてください」



「ボーセイヌ様。巡回兵よりこちらに連行したと報告がありました。」

「そうか、客間で待たせておけ」

「あとアリフールを呼べ、アミーアはここで待機だ」

「ボーセイヌ様?」

「待機だ」






















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