第13話主人公は旅に出た2
駆け出した女性をアーシャと2人で追いかけた。
少しの人だかりができている。
「ねぇ、巡回に報せたほうがいいんじゃない?」
「ばかこのさきはあいつらのねぐらだぞ、なにもできないって」
「でもさぁ」 「わかってるけどよー」
聴こえてきた声に「なにがあったのですか?」ときく。すると、
「女性がね、男に話し掛けれていたとおもったら、いきなりよこから別の2人組が現れて、無理やり連れ去っていったの」
「とめようとしたひともいたんだど・・・」と横に視線をむけると顔に痣をつくって鼻から血をながした男性が座った姿勢で壁に寄りかかっていた。
気絶しているようだ。
話をきいて、走り出そうとしたさきほどの彼女を慌てて止める。
振り切って走り出そうとする彼女はアーシャにまかせた。
今は少しでも情報がほしい。
「このさきにはなにが?」
「あんたよそものかい?このさきは悪党どもが住処にしてるんだ。」
「悪党の住処?」
苦り切った顔の目撃者はいう。
「そうさ、犯罪をやっても捕まらない悪党のね」
暗い噂を思い出す。後ろ暗いものたちを囲っている話を。
安易に突っ込んでいい話じゃないかもしれない。
けれど、彼女は振り切ってでもさがしにいくだろうな。
「このさきは悪党の住処があるそうです。それでも探しに?」
「もちろんです」 迷いのない目をしている。
ぼくも覚悟をきめよう。
「行きましょう」 僕を先頭に彼女、アーシャの順で路地に入っていた。
路地は狭く、ひとが横に二人分歩けるかどうかだ。表通りとは違い、入り組んでおり、日差しも建物の影が多く、すこし薄暗い。
どこにいるのかもわからないけれど、とりあえず奥を目指す。
幾度目かの角を曲がり、「またか?」と行き止まりにうんざりしそうになったとき
「離してッ」
遠くで女性の声が聞こえた。
「お嬢様ッ」
アーシャを跳ねのけ、路地を駆け出した彼女を慌てて追いかける。
彼女は駆ける。
「はやいっ」ただの女性かと思っていたが何らかの訓練を受けた女性のようだ。それでも、何とか追いつき、声の聴こえるほうへ、騒ぎの聴こえるほうへと駆けていく。
騒ぎが収まるころ、路地が少しだけ広場のように広がったところに倒れる女性の姿が見えた。そこに近づく影も。
ここは一気にいくっ。
「そこまでだっ!」 「お嬢様っ」
倒れている女性が彼女がさがしていた人のようだ。
視線を影のほうへと向ける。
男、の子、か?幼さがある。すこし驚いたような顔をしている。
その後ろに目をやると、護衛であろう男がいる。強い、な。
一目見てただものじゃないとわかる。
この場にはこの2人しかいない。
倒れている女性に声を掛ける彼女をみて確信した。
許せない。
「女性に乱暴するとは、男の風上にもおけないっ!」
少年は一瞬首をもたげ、視線を巡らせる。
「ちょっ」
「あんた前領主の息子ボーセイヌでしょ」 アーシャが叫ぶ。
どこかできいた名だ。どこだ。
「ボーセイヌ?というと女性を脅しては浚うというあのボーセイヌかっ!!」
あの噂は本当だったのかっ。まだ少年のようなのに、こんなことをっ!!
どうする?後ろの護衛はかなりの強さだとわかる。彼女たちを守りながら戦うことはむずかしい。ここは逃げることを考えたほうがいいかもしれない。いまなら、いくら護衛が強くても、ボーセイヌを放って無茶はできないはずだ。
内心の焦りとは裏腹に状況は悪化していく。
「あん?もめごとか」
声のほうを見れば、人相の悪い屈強な男たちがいた。
新手か!?
「ん?坊ちゃんも?ならいいか、どうしたんです?」
「んんだこいつらは?」
「そこのおまえ今晩オレと一晩どうだ?」
「また浚うんですかい?」
ボーセイヌの仲間!!
「くっ、仲間を呼んでいたのか」
まずい、この数に襲われたら一溜りもない。
「お嬢様にはふれさせないわ」
そうだ、彼女を放ってはいけない。
「悪党になんかにまけないわっ」
僕には見過ごして逃げることなどできない。
心を奮い立たせる。
僕は負けない。
ボーセイヌを油断なく観察して、いつでも動けるように腰をおとす。
その間にも悪態をつくように騒然とする男たち。
鋭い視線をこちらにむけるボーセイヌ。
「貴様らは黙っていろ」
ボーセイヌの一言で柄の悪い屈強な男が押し黙る
こいつらを完全に従わせているのか!?
僕が考えていた以上にやっかいなのかもしれない。
自然と表情が堅くなる。
「そういえば、貴様ら、見たことがないところをみるとよそ者か?」
ここは名乗らないほうがいいかもしれない。
「ッ、旅のものだ。そこの女性が人を探しているいうので一緒に探したら、騒ぎがあると聞きつけてここに来た。」
情報はなるべく隠したほうがいい。どうする?いまはまだ、対話をする素振りを感じる。なにか打開できる手段はないのか。
そのとき僕たちが来た路地の後ろから声が聞こえた。
「ここでなにをやっている!!」
あれは巡回兵だ。これで助かるかもしれない。
「あぁあああん?」
すごむ男たち。途端に騒がしくなる。
「待て」
とボーセイヌが言葉を発するまでは。
彼の姿に気付くと巡回兵はすぐに顔色が悪くなり、はた目から見てもおろおろとしだした。男たちも静かになる。
「諸君、巡回ご苦労だ。ここでのことは何も見ていない。それでいいな?」
やつは何を言っている?巡回兵は街の治安を守る役目を負っている。女性が暴行をうけた現場から、そう簡単には引き下がらないはず。
「いや、しかし、・・・」
言い淀む兵の姿に、最悪の状況が浮かぶ。
彼らでは、ボーセイヌは止められない。
くっ、どうすれば。
「貴様、名は?」
ボーセイヌは先頭にたつ兵の名を尋ねた。
悲壮な表情に決意をにじませた兵は応えた。
「セギーリンです」
やりとりに不穏を感じた。
「そのひとをどうするつもりだっ!」
理不尽な目に合うかもしれないひとを見過ごせない。
僕の言葉を不快におもったのか、
「あぁ、めんどうだ、めんどうだな。そうだとおもわんか?アリフール」
「薙ぎ払いますか?」
抑揚のない言葉とは裏腹に、濃密な殺気。
僕を含めたその場にいた全員が、その殺気に当てられて一瞬体がすくむ。
「クククツ、面白そうではあるなぁ」 と愉快そうに笑うボーセイヌを除けば。
後ろから殺気を放つ護衛の強さが抜きんでている。
それを表すように、ほとんどの視線は護衛の一挙手一投足に視線が集中していく。
張り詰めた空気に、それぞれが獲物に手をかけ、飛び込む間合いを量っていく。
まさに、動き出そうとしたそのとき、
「ああ、もういい。今のはいい余興だったぞ、アリフール。帰るぞ」
いっそ陽気なほどあっけなく背を向けて帰っていくボーセイヌの姿に驚く。
楽しんでいたのかっ、この状況を!!
ボーセイヌが背をむけると、屈強な男たちも悪態をつきながらその場を離れていった。残ったのは巡回兵と僕たちだけだ。
セギーリンと名乗った彼も、倒れている彼女を気遣いどうするか訪ねてきたが、
「大丈夫です。僕たちが付き添いますので」
といって帰ってもらった。彼らに保護を頼むも難しそうだとわかったからだ。
あれだけの殺気が漂う中で余興と楽しめるボーセイヌの姿に、恐ろしさを感じる。
あまり関わらないほうがよさそうだ。
だけどもし、立ちふさがるのなら戦うしかない。
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