第12話主人公は旅にでた
封印されている魔王を復活させてしまった。
僕も幼馴染のアーシャもそんなことになるなんて夢にもおもわなかったんだ。
けれど、剣を抜いてしまったあの日の夜、アーシャもまた同じ夢を見たという。
『光の精霊』という存在が現れて、魔王が復活してしまったこと。そして魔王を倒すためには古の勇者が装備していた武具を集めなくてはならないことを告げられた。
起こしてしまったことの大きさ、その恐ろしさに震えて朝を迎えた。
けれど、僕たちは僕たちが復活させてしまった魔王を倒す決意を固めて、生まれ育った村とびだして、旅にでた。
淡い正義感だったのかもしれないけれど、このままにしておくことなんてできなかったんだ。
旅立ちは戸惑いの連続だった。そんな、旅なんてしたことのなかった僕たちに助言をくれたのも『光の精霊』だった。
戸惑い、揺れ動く僕たちに精霊は、「古の勇者もまた、同じように旅立ち、苦難を乗り越えながら仲間を集めて、魔王に立ち向かった」と教えてくれた。
僕たちも負けてはいられない。必ず魔王を倒して、この旅を終わらせる。
決意を新たにして、一つ一つをこなしていく。
アーシェは、旅立ちの日から、「自分が剣を抜きにいかなければ・・・」とずっと後悔に苛まれていた。剣を抜いたは僕だからと、なんど説得しても彼女の顔が晴れることはなかった。
いまは時間が必要なのかもしれいないとおもう。
旅立てば魔物と戦うことが日常になっていく。
初めての魔物との戦いも幾度もこなし、闘うたびに、強くなる。村で過ごしていたときとには、到底できそうもなかったことが容易になることに、恐ろしさすら感じた。
そんな困惑する僕たちに、
「君たちは古の勇者の子孫であり、素質を受け継いている」
と精霊はいった。強くなっていくのはその表れであると。
古の勇者の強さ。その強さがなければ魔王を倒せない。
僕たちにできるだろうか?
精霊に導かれて、1つ目の武具が封印されている地にたどり着いた。
かつては、闇の精霊が祭られていた墓所だ。
現れる魔物は外よりも強靭だった。それでも中へと歩を進めた。墓所の魔物は奥に進むほどに強い。進んでは戻り、進んでは戻り、容易に対処できるようになってから、墓所の奥にある荘厳な扉を開いた。
開いた先の広間の中央には強大な敵がいた。
精霊曰く、あれはミノタウロスという魔物で、墓所の番人だという。
すさまじいパワーで振るわれる武器に圧倒された。
それでも僕もアーシェも死力をつくして戦いつづけた。
躱しきれずにアーシャとともに吹き飛ばされ、僕は立ち上がれずにいた。
ミノタウロスがアーシャに近づいていく。
アーシェを助ける!!僕がまもるんだっ!!!
決死の覚悟で立ち上がったとき、
聴こえたんだ。
「その心を忘れるな」
声とともに、魔法が頭の中に浮かんだ。
浮かんだままに、唱える
「ノヴァース」
ミノタウロスのまわりが光輝き、中心に収束して、弾けた。
光の粒子の残滓が舞う光景を最後に僕の意識はなくなった。
アーシャの泣き顔がある。
魔法を放った後に意識をなくしてから、半日は過ぎていると知った。体がいうことをきかなくて、僕が動けるようになるまで、そこで過ごした。
話をしていて、アーシェの癒しの力も使うたびに効果が伸びていると知った。
悠然と流れる時間のなかで考えていた。
あの声はなんだったのだろうか。なにもわからないが力強い声だった。
十分に休みをとったあと、この部屋の先にある扉を開ける。
扉の先にあったのは、村近くの遺跡でみた祭壇とよくにたものだった。違いがあるのは、封印されている武具があるはずが、なにもなかった。
見つからないことに驚き『光の精霊』を呼んでみたが、現れなかった。
精霊が姿を見せたのは、荘厳な扉をでたあとだった。
「気になることがあってね、すこし離れていたんだ」
封印された武具がなかったことを告げた。
「わからない。封印が綻びを見せていることでなにかがおきたのかもしれない」
いくら考えても、僕たちにできることはないと気づいた。
僕たちは一つ一つを巡っていくしかないんだ。
ぼくたちは次の封印へとむかった。
封印の地を巡る旅は容易ではなかった。『光の精霊』にも、古の時代とは変わってしまった土地ばかりで、正確な場所はわからないという。大まかな地方や場所にむかい、都市を、街を、村を、目的の地にたどり着くために手がかりを求めて、話を聴いて回った。忘れ去られた伝承の地をさがして、各地を巡り旅をした。
急ぐ旅だとはわかってはいても、困っているひとを僕には放っておくことはできなかった。
旅のさきではさまざまな問題を抱えた人が、村が、街があった。そのたびに僕たちにできることをした。
精霊は幾度となく、「君は選ばれた人間なんだ。魔王を倒すことのできる唯一の人間なんだ」と告げては、「世界のために小さなことに煩っている場合じゃない」
と。世界を救う旅なんだと教えようとしてくれた。でも、
僕は、僕が特別な人間だなんて思わない。ただ、なにかを受け継いだだけの男。
それが僕だ。
訪れる街や村では人を人と思わないような扱いの世界があった。
助けたいと思ったわけじゃない。見過ごせなかっただけだ。僕は僕のために彼や彼女たちを助けた。アーシャもわかってくれた。
世界を救う旅なんて、きっとすごく素晴らしくて、尊いことだ。
そのために僕たちは旅にでた。責任がある。
わかってる。僕たちが封印を解いたことも、魔王を復活させてしまったことも。
それでも、そこにあるものを見過ごして進むことなんてできない。
僕たちは、僕たちができることをしていくしかないとおもうんだ。
ときには、魔物の被害に苦しむ村のために、討伐に向かった。
またあるときには、野盗にくるしむ集落のために、人を斬ったこともある。
人間を斬った感触は、きっと消えることはない。
それでも、斬らなくてはならなかった。
野盗は10人未満と規模は大きくはなかった。だけど、ひとの行いとはおもえない。コレクションしていたのだ。自分が殺した人たちの何かをはぎ取り、装飾品のように身に着けていた。
対峙したときに見た瞳には、人のそれとはかけ離れた何かだった。
もう彼らが戻ることはない。なぜか確信できた。
すべてを斬り捨てた。
死に際に、「やっと眠れる」と呟いた言葉が今も頭に残る。
同情はしない。
それ以上のことを彼らは行ってきたのだ。
僕が斬り捨てた。それを背負っていく。
そして切ることで悲しみの連鎖が止まるなら、
僕は、斬る選択を何度でもするだろう。
正しいかなんてわからない。
それでも覚悟は常にしていなくてはならないことを知った。
野盗を斬ることに躊躇した隙をついて、隠していたナイフを僕に突き立てようとした。咄嗟に庇ったアーシャが刺された。腕に刺さるナイフから流れる血をみた瞬間「殺せ」 目の前が真っ黒になった。
刺した男を即座に斬り殺した。
さらに、死体に向かって剣を突き立てようとした。
そんな僕を止めたのもアーシャだった。
「やめてッ、サリュっ!!」 「!?」アーシャをみると、彼女の周りに光の粒が集まっていた。
なぜかはわからないが、光に包まれたアーシャをみて、心が落ち着いた。
いまでもわからない。あの時に聞こえた声はいったい・・・。
封印の地を探すため、いくつかの街を抜け、ボウセイ領に立ち寄った。
近づくにつれて聞くのは、ボーセイヌという前領主の子の噂だ。
僕よりは歳は下のようだが、旅をして聞いた中でも、とにかく悪い噂が絶えない。
ボウセイの街は良い街ではないといい。そして、そのあとには決まって、ボーセイヌは非道な人物で、脅しては女を奪っていく。と聞いた。
なぜそんな子が野放しなのか?ときくと、あそこは後ろ暗い人間を囲っている。権力者側だから、なにもできない。と。
警戒したほうがよさそうだ。
噂がすべてではないのはわかっている。
けれど、心に隙を残したままでは、思いもよらない危険があるかもしれない。
もしもはどこにあるのかもわからないのだから。
ボウセイの街に繋がる街の一つで、行先が一緒の商人と偶然に知り合いになった。
気のいい太めの商人だ。
彼は、摩訶不思議な商品ばかりを積んでいた。
だから気になり、「これは何に使う商品なのですか?」と聞いてみたのがきっかけだ。
商人は笑いながら、「わっしもなんにつかうのかは、わからんのです」と。
「ただ最近こういうなんに使うんだか、わからんものが高額で売れると商人のルート聞きつけましてな。持っていったらけっこう買い取ってくれるというもんで、通行するついでに集めたんでさぁ」 と教えてくれた。
不思議な話だが、そういうこともあるのだろうな。
途中で魔物に襲われたもしたけれど、何とか撃退。無事にボウセイの街に着いて、商人と別れた。
街を眺め情報をあつめながら、しばらくは散策した。ほかと大差はない様子がある一方で、露店の一角だけ、骨董市のように謎の商品が並べられている。あの商人が言っていた場所はここだと確信する程度には、摩訶不思議な品ぞろえの店ばかりだ。こうして実際にきてみると異様な光景のはずなのに、この街と不思議とマッチしているようだ。
変なものばかりに好奇心がおさえられない。
せっかくだから、見て回ることにした。
赤い人ご用達の謎の仮面や、風車?のついたベルトに、靡くかたちの赤いマフラー、
ボウセイと焼き印された木刀。(世間話に戯れにしゃべったら以外に売れた)
くしゃみ顔のランプに、かえるのシャツ。あぶない水着はあぶなそうだ。
ボウセイの街の形をした置物。(以下同文)
☆柄が一つはいるボールに、魔物亀の甲羅、目の部分の黒い眼鏡。
ボウセイ印のお札(以下同文)
とにかく、だれが買うのか謎の商品ばかりが陳列している。
あの木刀はちょっとほしい気がした。けれどアーシャに反対されたのであきらめた。
すこし、露店の主に話を聴いてみると、金払いのいい坊ちゃんがたまに買っていくうちに誰もかれもが持ち寄るようになって、意外と盛況になったらしい。
たまにはこういうところを巡るのもたのしいな。
露店の一角を抜け、表通りを歩く。
そうして今日の宿を探していると、慌ただしく走りながら、「お嬢様をみかけませんでしたか」と次々と声を掛けている女性がいた。
血相を変えて探す姿に、
特徴だけでも聞いておこうかと、話し掛けた。
「すいません、特徴だけでも教えてもらえませんか?協力できるかもしれませんから」
「あ、ありがとうございます。少し離れて戻るともういなくなっていて。お嬢様は黒い長い髪で、肌の色もかm」
「おいッあっちでなんか騒ぎがあったみたいだぞ」
不意に聴こえた声に女性は、
「おじょうさまッ!!」と血相変えて走り出した。
「ま、まってッ」心配になり同じようにアーシャと駆け出した。
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