第11話ひとまず乗り切った


主人公はもういい。あぁなった以上、いまからどうにかなることもないだろう。


それよりも、あの運命力がすごいな。主人公の星に生まれたものは

ピンチには必ず駆けつけることができる呪いにでもかかっていそうだ。


浚われそうになった美女を颯爽と現れて、悪党をなぎ倒して解決する。そのあと、お礼をいわれて、どこぞのお偉いさんの娘だとわかって、その親御さんに気に入られて、なんかわからないうちに、婚約者になったりするんだろうな。


うん、大変だな、主人公も。

きっときつめ系美女の幼馴染との淡い三角関係にでもなるんだろうな。


ん?三角なお相手か。

そうだ。三角関係だ。


おそらくだが、彼女はサンニアだ。


南方の大商家の娘で3番目の子だ。実力主義の父の方針により、上にいる2人の兄とは跡取り争いをしている。争いに勝つために、各地を巡っているうちに行方不明になる。そのあと、旅路の途中の主人公と出会う。

「復讐のためにあなたを利用させてもらう」と仲間に加わるゲーム中盤くらいにいたキャラだ。旅をともにするうちに主人公に惹かれて、素直になれない幼馴染とサンニアでの三角関係になる。


結局、譲ってしまう損な役回りだ。


それに、ビジュアルは呪詛を吐きそうなほど薄暗いキャラだ。

中盤にかけて登場していて、唯一の闇属性を主属性にもち、攻撃も闇、というよりは呪いみたいな魔法だ。


倒れていた姿だけだが、雰囲気に暗さを感じさせない、どうみても良家のお嬢さんの恰好だったのが気になる。

あの感じから、闇魔法を使うRPG・・・はないな。だいたいが暗い過去とか重い設定とかを抱えているのが定番だ。実際そうだった。

そうなると、行方不明か。あれが原因かもしれない。


そう、例えばの話だ。

あのまま連中に浚われたとしよう。誘拐は、身代金目的か、あるいは売られるかが主だ。アミーアもそうだった。ちなみにだが、表に出せない育ちのいい女性はことさら高く取引される。出回ることがないからだ。おおっぴらには言えないが、腐ってる上位貴族家は地下にそういった部屋を用意してあったりする。

RPGでは直接的な描写はないが、地下牢の探索はできた。現実に生きるとあの部屋の目的も推察できよう。

ゲームではオブラートにきれいに包んであったんだな、と知りたくなかった知識ばかり増えていく。


話を戻そう。

ゲーム登場時には「もうだれも信頼しない。できるひとはもういないから」

とあったから、誰もそばにはいないはずだ。


そうだとすると、さきほどの侍女風の女性はどこにいった?


あの仇でも見るような眼は、どう控えに見ても彼女を大切に想うひとりのはずだ。

ストーリー上の彼女とのセリフがあわない。


ここからどうにかなって、そうなるのか・・・?


オレが介入したことで、流れが変わった?


ほかにも作中にあった、復讐ってだれにだ。

貴族を恨み憎んでいるとはあったが、対象は明らかにさせていなかった。


わからん。どうなんだ。


気絶していたのは、偶然なのか。あそこで巡回兵がきたのはどうなんだ。


どうにも主人公に思いかけず接触したことが、シナリオの流れを意識させる。


仮に、そう仮にだ。記憶の生えていないオレはあそこを通らない。

なぜなら、主人公との邂逅は、表通りでアミーアを無体に扱う姿に、我慢できずに止めに入ったことから始まるからだ。


オレが介入しないのなら、彼女はあの連中に浚われるだろう。そして、実際はどうかはわからないが、タイミングだけでいえば、侍女と悪党、それに巡回兵の順であそこに現れることになる。


見知らぬ誘拐犯と対峙する侍女のもとに、悪党が登場する。

そのあとはどうなる?そのまま乱戦か?おかしくはないが、決め手にはかけるような気がする。


まだ、なにかが足りない気がする。


起こったことが必然ならば、彼女の気絶にも意味があったはずだ。


気絶した意味、ん、そういえば悪党どもの顔がはじめは曇っていたな。そこにもなにかあるのか?

オレもいるからいいか?とはどういう意味だ。


悪党はなにをしに住処から出てきたんだ?


サンニアはあの悪党に渡される予定だったとしたら、どうだ。


オレがいる。ならいい?

取引が領主代理経由できたものだとしたら?


そう考えると、つながるのではないか?


オレがいなかったなら、

彼女は気絶させられたあと、悪党の手に渡る。

騒ぎに気付いた侍女がさきに対峙する。あの様子だと、自分を顧みることなく悪党に立ち向かおうとするだろう。

しかし、かなわない。彼女もおそらく捕まる。


そうなったあとのことは考えたくない。


そこへ巡回兵が現れたしても、彼らには何もできない。過去に領主、次に代理領主まで繋がっている公然の悪党だ。手を出せばどうなるかは想像にかたくない。

あの正義心溢れたセギーリンは、ゲーム時にみせしめのために物理的に首が飛んだ男だったのではないのか。


そして、考えたくもないが、悪党は我が領の子飼い、だ。


彼女の復讐は我が領。しいてはオレにも向かったのではないのか?



いやいや飛躍して考えすぎだな。特別な描写はなかった。はず。

嫌な流れを感じないわけではない。が、

それはそれとして、これ以上は関わらないほうが身のためだ。


もうすでに、悪党になるつもりもないのに、主人公に完全に悪党だと認識されてしまった現状は・・・。ままならないな。


ん?

んん??


うん。

ふーっ

落ち着こう。

オレは何も見ていないぞ。


主人公がこの街に立ち寄るのは、この街を経由して、魔王を倒すための各地に眠っているという武具を取りに行くためだ。

そう長くは滞在しないはずだ。

流れが同じなら、つぎは、火の精霊がいるとされるエクスプー山だ。


エクスプー山。

火の精霊が祭られていた場所だ。RPG上では『光の精霊』の導きに従い、各地に眠る、光、闇、火、水、風、地、雷、木、各々の精霊いるという伝承の地を巡り、そこに封印されている武具を解放していく。


光と闇が2つに割れた紋章、火と水が両手の手甲、風がマント、地が具足、雷が首飾り、木が胴鎧だ。

潜在能力を上乗せする装備で、すべてを揃えると主人公の最強装備になる。

特性はすべてを揃えてこそ発揮されるもので、RPG上では、解放当時にはもっとも強い装備となり、次の封印解放には有益な装備になるが、もっと強い武具がでてくるよくある設計だ。


『光の精霊』がいるように、すべての属性に精霊がいる。


光に精霊がいるように、闇の精霊がいる・・・。


それが、なぜか?目の前に???



いや、気のせいだろう。そう。目を閉じて、じっくり10秒数えたら、いつもとかわらない。


 ・・・・・・・・・・いるな。


なんだ?なぜここにいる??闇の精霊は一番最後のはずだ。一度は精霊がいるとされる場所にたどり着くが、そこにあったはずの武具はなくなっていたのだ。

旅路の果ての異空間での戦闘後に、導かれるように武具が発見できて、その時に登場する。そして、最終局面、魔王城編に突入する。まで、出番はなかったはずだ。


『いいかげんこちらをきしてもいいのじゃないのー?』


っ!?こいつ頭の中に直接語り掛けてきやがった!!


『?ねぇねぇ、きこえてるんでしょー』


考えてることがわかるわけでもなさそうだ。気づかないふりもありか?


『ほらほらぁー、みえてるんしょー?わたしとのあいしょうはちょっとはあるんだからさーぁ』


補助属性のことかっ。


『いまの私が見えるのはあいしょうがないとだめなんだからさぁーあいてしてよー』


事態がさっぱり呑み込めないが、相手をしたほうがいいか。

「なんだ?オレになんの用だ」

『やっぱりみえてたんじゃないかー、きみはひどいやつだなーぁ』

「しらんな、用がないならお引き取り願いたいのだが?」

『やだよー、せっかくそようのあるこがいたのに、きみがじゃまをするからーぁもうー』

「そよう?素養か。邪魔??とはなんだ、あのこなど心当たりはない」

『おんなのこたすけたでしょー』

「!?」

『ほらぁこころあたりあったでしょー?』

「貴様、まさか仕組んでいたのかっ!!」

『しくんでなんていないよー、わたしとあいしょうがいいことはなしやすくしているだけだよー』

「話しやすくとはどういう意味だ」 

『あのこはねー、すごいそようはあるからーおこしてあげようとしたのー』

「おこすとはどうやってだ」

『まっくらになるとねーわたしといっしょにいられやすくなるのー』

「まっくらになる??」

『ぐちゃぐちゃにしちゃうのーするとねーまっくらになるのー』

「!!」 

『もうちょっとだったにーきみがきちゃってがおかしくなったのー』

こいつ、いや、精霊に善悪はない。差はあるが、欲求には忠実だ。

一緒に居られるというのは宿すという意味だろう。宿すことにより、より強い魔法を扱えるようになる。


これで間違いない。

彼女はパーティの一員、サンニアだ。


そうなると、助けたことによって、サンニアは闇の精霊の素養はあるが、宿すことはできなくなったのか?


「おい、彼女に居られやすくなるというのはどういう意味だ」

『ずっとねーいられないだけー』

そうなると、大丈夫、か?

『でもねーわたしはみえないないのー』

「なぜだっ!?」

『うんとねーかのじょはねーまっくらなーところがねーぜんぜんないのー』

「まっくらなところがない?」

『そうなのーだからねーみえるよーにねーしたかったのー』

「まっくらなところはどういうところなんだ?」

『それはねーいかりーとかーかなしーとかがいいっぱいなところなのー』

感情の負の面という解釈でいいのか?

いやそうだとしたら、彼女が結果的にたすかったことによって、闇の精霊との邂逅はできなくなったことになる。

魔王の城にたどり着くには彼女の力は不可欠だ。光と闇、その2つを合わせることで道が拓ける。どちらが欠けても、城にたどりつけない。


復活した魔王は魔王城を媒体とした巨大な魔法つかって世界を滅ぼそうとする。

このままでは魔王のもとに主人公がたどり着けずに、世界が破滅してしまう。



どうすればいい。オレはどうするべきなんだ。






















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