第二章 騒動は主人公とともに

第10話面倒事は丸投げだ。

鉢合わせる可能性を避けて路地を歩けば別の面倒事に当たるとは、ついてない。

女性がいたほうに足を向けている間にも、

「嫌っ!」 「おとなしくしろっ」 「離してっ」 

関わりたくないが、四六時中、罪悪感にも襲われたくない。


建物を迂回して入った路地のさきは、T字路になっていて、溜まり場のようにすこしだけひらけている。


「さっさと連れ帰るぞ、気絶させろ!」 「うおっ、くそがっ」鈍い音が聞こえると「こいつ噛みつきやがった」「おいおい大丈夫かよ」なんて聴こえる。


男が3人か。やるしかない。


「んん?なんだ貴様らは、ここでなにをやっている。」 

 殴った拍子に壁に頭をうちつけでもしたのか、女性は気絶している。

「あんっ、んんだてめーは、おれらがだれかしらねーのか!」


「薄汚いねずみじゃないのか?」 オレに気付かないのか?ここの人間じゃないのかもしれない。


「殺されてぇようだな」 青筋すごい、どうしよう。

「お控えください」とアリフールがスッと前に出る。 

なんという安心感だ。

すかさず殴り掛かる暴漢Aの拳を受け止め握り潰しにかかるアリフール。


いけるいけるぞ。尊大だ、尊大な雰囲気を口調に乗せる。

「オレを知らんのか、減らず口がだせんように潰せ」

なるべく低い声を意識した。


描写もいらない早さで、暴漢A、B、Cはぶっ飛ばされて、沈んだ。

アリフールしゅごい。


「ボーセイヌ様。あちらでこちらうかがっている者が逃げたようです」とアミーア。

そうなのか?ぜんぜんわからなかったけど、アミーアは勘が鋭い?獣人だしな。

「追えるか?」 だれかはわからないが、情報はほしい。

「はいっ」

「捕まえなくていい、どこのだれかでも、目的でもなんでもいい、探ってこい」

「はい」 返事とともにアミーアは走り出した。


「アリフールはゴミをそこの脇に放り込んでおけ」

これですぐには、こいつらの仲間が探そうとしても、気づかんだろう。


はぁ。この女性をどうしよう。年頃の女性をこのまま放置すれば、さっきの二の舞だ。かといって、無償でオレが助けるのもさすがに不自然だ。


倒れた拍子に、黒い髪が覆い隠すように顔にかかっているため確認はできない。

肌も色黒のようだ、着ている服は上質なもの。そして、スタイルのいいきれいな女性であるのは間違いない。

のだが、これは厄介ごとの種そのものだ。

ここで、通りすがりのイケメンなら、やだステキ好き。展開でなんだけどなぁ。


あぁもうとりあえず、怪我の有無は確認しておくか。徐に近づくと、


「そこまでだっ!」 という男の声とともに、「お嬢様っ」と駆け寄る侍女風の女性。


なんだ?


ふりむくと「!?」そこには、主人公がいた。

なんでここで来る。どういうことだ。


「女性に乱暴をするなど、男の風上にもおけない!」


?あん??こいつはなにをいって・・・これは男ども、が・・・。

視線を巡らせてから気づいた。


ゴミ、もとい男どもはここから見えない通りに放り込ませた。

アリフールは放り投げたあとは、後ろに控えている。


この場にいるのは主人公とその幼馴染、倒れているお嬢様なる人物に侍女。

そして、こちら側にオレとアリフールのみ。状況だけをみれば、オレがアリフールに命じて乱暴した。という現場がきれいに出来上がっている。


これはだめだ。誤解をとかないと、戦闘になるかもしれん。

「ちょっ・、」 説明しようとした瞬間、

「あんたは前領主の息子ボーセイヌでしょ!」と敵意むき出しの表情で幼馴染さん。

「ボーセイヌ?というと女性を脅しては浚うというあのボーセイヌかっ!!」とオレの正体に気付き、さらに表情が硬くなる主人公。


侍女はお嬢様を庇うように座り込み、仇のようにこっちを睨み上げている。


なんだこの誤解の嵐はっ。日頃の行いなのかっ!?

誤解だという間がない。なんもいえねぇ。


さらにそこに、主人公たちを挟むように悪党どもが現れた。

なんでだよ!!


「あん?もめごとか」と少し顔が曇る先頭の男。オレに気付くと、

「ん?坊ちゃんも?ならいいか、どうしたんです?」やら「んんだこいつらは?」とか「そこのおまえ今晩オレと一晩どうだ?」とか「また浚うんですかい?」とか。


「また」!?。きさまらに頼んだ覚えなどないぞ。


お前ら、おれをどうしたいんだっ。


場は乱入者により、さらに混沌としていく。


「くっ、仲間を呼んでいたのか」だとか「お嬢様にはふれさせないわ」という悲壮やら、「悪党になんかにまけないわっ」だとか叫びながらこちらを睨んでいる。


まだ何も言ってないのに、悪党を手足のようにつかうクズだという認識が、主人公たちの記憶に自動的に補完されてく。


加速する悪夢に眩暈がしそうだ。


人数が増えたことで、さらに警戒感が増し、主人公の視線はオレを射抜くように鋭い。


関わるつもりもなくて、さっさと帰るはずだったのに、運命か、それともシナリオ力か。いずれにしても、

どうやって収拾をつければ・・・。


強引にでも場を整えて時間を稼ぐ。


鋭い視線を意識して、「貴様らは黙っていろ」 

まずは悪党どもに向かって言う。

「あぁん?クソガキが」という認識はあれど、取引先の子だ。悪党は黙った。

次は、

「そういえば、貴様ら、見たことがないところをみるとよそ者か?」

視線を主人公に向けながら、問うと、

なぜかさらに険しい顔する主人公がいた。

「ッ、旅のものだ。そこの女性が人を探しているいうので一緒に探したら、騒ぎがあると聞きつけてここに来た。」


「あれだけ抵抗されてたらそうなるわなー」とは内心でおもう。



いや、というか彼女は誰なんだ?


聴いてみるかと、問いかけようとしたそのとき、


「ここでなにをやっている!!」 と多数の巡回兵が姿を現した。

「あぁあああん?」 と途端に凄む悪党ども。

「待て」 これ以上混沌とされてたまるか。逃げるならここだ。


オレに気付くと途端に巡回兵はオロオロとしだした。


巡回兵くらいなら、オレの一声でその首が飛ぶ。もちろん物理的にではない。職を失うほうだ。ただ、ゲームでは物理的な内容も含まれていた。


早々に退散してもらおう、これ以上ややこしくしたくない。

「諸君、巡回ご苦労だ。ここでのことは何も見ていない。それでいいな?」と高圧的に迫る。


「いや、しかし、・・・」 悪党をみて、倒れている女性をみて、庇うように立つ男女をみながら、言いよどむ。このまま立ち去れない雰囲気を感じる。


なかなかに正義心があるようだ。一応は名を聞いておくか。

「貴様、名は?」たずねると、ビクッ!と肩が揺れた。?なんでだと一瞬おもったが、向こうからしたら目をつけられた。という認識か。


「セギーリンです」 と覚悟を決めた顔で名を告げてきた。

するとすかさず、

「そのひとをどうするつもりだっ!」と声をあげる主人公。

いやなんもせんよ!?好感度の果てしないマイナス感に憂鬱になりそうだ。


「あぁ、めんどうだ、めんどうだな。そうだとおもわんか?アリフール」


「薙ぎ払いますか?」と殺気とともに、真顔で言ってきた。

えっ、こわいっ。


場が一気に張り詰める。

強さを感じるものほど、アリフールから目を離せなくなっているようだ。


「クククツ、面白そうではあるなぁ」 と愉快そうに笑う。


「!?」 戦闘かっ!と、あるものはすばやく鞘から剣を抜きだせる姿勢をとり。あるものはじりじりと距離を詰めて一足でとびかかれる距離を測る。あるものは懐に忍ばせているものを確認するように握る。


その緊張が最高潮に達して、はじけようとした瞬間、


「ああ、もういい。今のはいい余興だったぞ、アリフール。帰るぞ」

とすばやく踵を返す。

もう彼女はだれでもいい。放置して主人公にまかせよう。


この場の権力者が解散を促したのだ、「チッ」舌打ち、「ペッ」唾を吐き、「お前ら帰るぞ」と悪党どもも撤収しはじめた。


巡回兵もこれ以上はここにとどまっても良いことがないのは目に見えている。

「我々もここを離れますが、そちらの倒れているお嬢さんはどうしますか?」

「大丈夫です。僕たちが付き添いますので」

と2、3話してその場をはなれていった。




あぁ、終わった。気疲れがすごい。なんだ、やっぱりシナリオ力でも働いて、オレと邂逅しないといけない呪いにでもかかっているのか?

主人公とは最悪のタイミングでの対面を果たして、悪役ムーブどころか悪党ムーブまで強いられた。印象は最悪だろう。なんて日だ。


主人公はイケメンだった。行動もイケメン、さすがは主人公だ。幼馴染も表情のきつい系美人だ。あぁ


美人な幼馴染がほしかったなー。


いかん、現実逃避している場合じゃない。

屋敷に戻って部屋で考えていると、

「ボーセイヌ様。ただいま戻りました」とアミーアが入ってきた。


「それで、どうだ?」

「はい、あとをつけましたところ、古びた民家に入っていきました。人が住んでいる風ではなかったので、空き家かと思います。周囲に気配がないことを確認して近づいのですが、どうやら依頼されて、彼女を浚う手筈だったようです。」

「あの女の素性は?」

「申し訳ありません」

「依頼か。」

「はい、中にいた仲間との会話を盗み聞いたかぎりでは。ですが。」

「そうか、よくやった」


陰謀ごとをボウセイ領でやるんじゃない。おかげで風評被害も甚だしい。なんでこうすべてが連なっておきるんだ。思わずひじ掛けを使い、頭を抱えた。











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