第9話魔法は可能性の宝庫だ

シャリーヌの実践的な授業は有意義な時間だった。



まずファンタジー世界ならありがちな、属性を纏う、オレなら、

雷を纏って動くという夢はあえなく潰えたと報告しておく。


雷速だ。ちょっとあこがれていた。

説明によると、体内にある魔力を雷属性に変えた時点で、自分にも暴発する。簡単に説明すると魔力を全身に纏って属性に変化させた瞬間に感電する。

するとたぶん、しゅぬ。


どう考えても、試せない案件だ。


なぜ、わかったのかは、先人に同じような発想をした賢者がいた。

彼の主属性は「火」だ、の時点で分かると思うが、火だるまになった。

手先だけのはずが燃え上がった手に驚き服で消そうとした。けれど服が炎上。全身に火傷を負ったが、そこは賢者だ。高回復薬を用意していた。さらに、もしもの時のために、備えていた助手が消火もした。だから、後世に書き残した。

ダメ、ゼッタイ。と。


だが、賢者は同時に可能性も書き残していた。

魔力を2重に纏うことができればあるいは可能でないか?と。

体を保護する魔力膜を形成して、その上に属性変化をさせた火を纏えば、理論的に可能なはずだ、と。しかし彼はそれを実行はしなかった。なぜなら、さすがは賢者だ。二度とあんな痛くて死ぬかもしれないほどの恐怖を味わいたくはない。と実に賢明な判断を下したのだ。


ただ、これには例外があり、風属性のみは可能だ。精密な操作ができればだが、全身を風属性で覆うことで、ホバークラフトよろしく、浮く。纏った魔力の厚さ程度になるが。制御さえできれば、それこそ高速移動ができるはずだ。といわれてはいる。1番の問題は、制御さえできれば。という注釈だ。


まず前提として、手先から発動させた魔法しかほぼ制御ができない。人の体で最も繊細なことができる手先だからこそ、魔力を魔法へと効率よく変化させて発動させることができる。

つまり、魔力を属性変化させることだけなら体のどこからでもできる。

ただ暴発して、炎上したり、感電したり、水浸しになるだけだ。

さらに、効率がものすごく悪い。浮くという行為で魔力が加速度的に消費されて、ガス欠になる。これが2つ目の問題だ。


よく魔法を手にとどめて、燃え上がる炎を片手に、「覚悟は良いか?」みたいな描写があるが、この世界では、属性に変化させた時点で、ものすごい熱量が発生する。だから服が燃え上がったり、手が大火傷してもいい覚悟がなければ、実質不可能となる。

ではなぜ、留めない魔法は怪我もせずに放つことができるのか?という問いの答えが、さきの賢者の理論だ。指先から発生させた魔法は暴発しないのだから、全身も可能なはずだ。だから、試した。結果は炎上だった。でも指先は問題なくできるよね?と考えた賢者は、2重の膜があるらしいところまでは、突き止めたのだ。


先人賢者の理論を実際に試せる勇気さえあれば、実現も可能かもしれない。


命を天秤にかけたときに、試す価値に傾くのは狂人か強靭な飽くなき探求心の持ち主だろう。

・・・、つまり体全体を魔力で纏って属性変化をさせるメリットが、まったくもってデメリットを陵駕しない。


ロマンはロマンのままだから輝くのだろう。


特異な使い方よりも王道。あるいは小技を磨くほうが、役に立つのかも知れないと考えなおし、護身のためにも、足止めをする術を考えてみることにする。


アミーアは猫人族であり、身体能力はもともと常人よりも数段高い上に、風属性を絡ませることで、よりトリッキーな攻撃も可能だろう。


アリフールは身体能力のおばけのようで、魔力は低く、魔法の扱いはできない。

ちなみにだが、身体強化は魔力さえあれば鍛錬次第でだれにでも使えるようになる。魔力の動きをイメージするという発想がないこの世界では、日々の鍛錬によって気づきを得なくてはならない。そして効果は元の身体能力に上掛けする。

つまり、アリフールは実践においてはもっとも強い。なんせ、身体能力はでたらめに高い。そして、100のダメージを受けたとかじゃなくて、実際に切られるのだから防ぎようがない。

「シールド」という魔法があり、盾を形成できるが指向性のもので、燃費も悪い。脇からバッサリいかれると死ぬ。


問題のボーセイヌだが、身体能力は常人並み。魔力をイメージすることができるため身体強化も使えるようになったが、並み以上、強者未満と中途半端だ。

全キャラを含めても魔力は高めで、雷属性は火力になる。

だが、体に魔力を纏うものには魔法力は減衰する。

つまり強大な魔力を纏うものが魔法使いの天敵だ。魔力の強さが魔法に対する防御力の高さともいえる。が減衰するだけですべてが防げるわけでもない。強大な魔力の差があれば、無防備でも、大火傷する火力を服が焦げる程度まで落とせる。その差が、それだけの魔力を体から溢れさせているという証拠にもなる。


そんな相手には一点突破型の魔法でぶち抜くのが正解になる。

もちろん、シールドで防いでもくるので、厄介なことに変わりはない。

闇属性については今のところ、視界にモヤを提供できる性能だ。


アリフールタイプには魔法は特攻でもあるから距離さえあれば優位に立てる。

この辺は、一長一短だな。


しかし、シャリーヌには、なにがあったのだろうか。

魔法について聞かれたから、それらしく答えたが、

取り繕ったような普段とは違い、薄暗い感情が如実に表情にでていた。


ゲームにはそんな描写はなかった。


いや、この世界を現実に生きてきたのだ、何かがあってもおかしくはない。治安などくそだといわんばかりの現実が街を出ればすぐそこに転がっている。街の中でさえ特権者、貴族が白いえば、黒が白になる世界だ。なにがあっても、おこっていたとしても、受け入れなければならない。


意外な一面を垣間見たが、それ以後は普段と変わらない様子だった。


季節は夏を越え秋に差し掛かる。

マーメイヌ子爵も、大きく崩していた体調は持ち直したようだ。すぐにどうこうということはないだろう。姉にそう聞いて顔をほころばすマリーエッタをみて思った。


秋か、まだあたたかいな。

今日もなにか掘り出しものでも見に行ってみるか。

「街にでる。アリフールを呼べ。アミーアも付いてこい」

アリフールと最近はアミーアも連れるようになった。常人を上回る身体能力を見せはじめたのだ。これなら、オレの護衛にも役立つ、1人よりも2人のほうが安全性が高めるためだ。


いつもの露店の一角に赴く。

しかし、ここ。いつのまにかわけのわからないものが、大量に並び出したな。

なんでだろう?オレかせいか??

まあ商人なんだ、機微に聡いのだろう。

そのおかげで、本来手に入るはずのないものが見つかったりするのだから、チップの効果なのか、ありがたい。


最近で1番の発見は「身代わり人形」だ。名前の通り、ダメージを肩代わりしてくれる便利アイテムだ。分類がなになるのかは不明だ。呪いかな??

なにを基準に動き出す仕組みかなぁと漠然と考えているが答えは出ない。

ゲーム上ではどんな攻撃も一度だけ肩代わりする。とはあったが、現実的な効果は未知の世界だ。これ一つしかなかったから、試すのが惜しい。

あくまでも保険として、持ち歩いている。のだがビジュアルは藁人形のそれだ。ボーセイヌが不気味な人形を持ち歩いていると、さらなる噂になったのはいうまでもない。


そういえば、この世界では鑑定ありきで解決はできない。

鑑定できないのに、どうやって見分けているのか?

答えは「魔力を見る、感じる」だ。魔力を扱えるものは、それを手に取ると、それに宿る魔力を感じることができる。けれど、それがどのような効果をもたらすものなのかは、わからない。

鑑定士という、魔力の痕跡をさぐり、効果を推測できる店もあるが、なかなかにお金がかかるために、そうやすやすとは庶民は見せられない。

ボーセイヌなら難なく払える。けれど、ゲームの知識をもち、魔力もある。さらに形状をみればおおよその予想がつくのだから、ほとんど利用していない。

鑑定士に見せたからといって、完全に効果がわかるわけでもないのも理由だ。

「おそらく」という文言が抜けないのだ。


今日もいつもの一角に入り、露店を見回す。

なにかないかと物色を始めたオレを後ろに控える2人がまた始まった。と言わんばかりの顔だがこればかりはしかたがない。


いくつかを見て回ったが、残念ながら今日はなにもなかった。

ないならないで、顔見知りになった店主と2、3つ世間話をする。

「最近ですか。そうですね、商隊が魔物に襲われた。とか、それを助けた2人組の話とかなら聞きましたね」

「2人組?」

「ええ、年頃の男女2人で旅をしているそうで、その商隊の主はえらく気に入ったみたいですね。飲み屋で話してましたよ」

「そうか」と徐に銀貨を取り出し、店主に向かって、ビンっとコイントスの要領でと渡す。

すると「よろしいので?」と店主。

「かまわん、そのかわりまた面白い話があったら聞かせろ」


店主との話を切り上げて、歩き出す。

「まさかな」

「どうされました」

不意に呟いた言葉を拾ったアリフールが尋ねてきた。

「ん?いやなんでもない」 

聴かれていたか。気よつけるようにしよう。

「なにか難しい顔をされていましたよ」

どうやら顔にも出ていたようだ。

「そうか、少し気になることがあってな。まぁそれはいい、行くぞ」


男女2人組、確証はないが、主人公の姿がちらつく。この街にすでに来ているのか?

偶然に遭遇したとしても、悪評以外はなにもしていないのだ。戦闘になることはないだろう。けど、

念のために鉢合わせになる前にさっさと帰るとするか。


人通りを避け、屋敷に最短で帰るために路地を歩けば、

「離してくださいっ」

声が聞こえて、視線を向ければ、建物との隙間の先に男たちと女性の姿がみえた。


ぐっ、あの通りの先は悪党の住処だ。状況を鑑みればこのあとどうなるかは、目に見えている。なんでこのタイミングなんだっ。


「チッ」 くそが、気づかなければ帰れたのに。

護衛の2人に「ついてこい」と告げて女性のみえたほうへと足を向けた。













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