第6話そうなるのは当然だ

 後日、マーサの妹を引き取りにいくと、苦渋の顔をした子爵と婚約者であるマーサ、そして、その妹がいた。


「勢ぞろいしてどうした」


「娘をよろしくおねがいします」 心労か、さらにやつれた顔で下げたくもない頭を下げる子爵に心の中で謝罪する。


「妹をどうか、マリーエッタに無体をなさらないでください」

 婚約者のマーサが言う。


「よろしくおねがいします」マリーエッタだけは、どうしようもないことを悟っているかのように、快活に挨拶をして頭を下げた。


「約束はしかねる。使えるならば使う。それだけだ」

 馬車へと歩き出し、乗り込む。

「そうだ、貴様に最初の仕事をやろう、これを父親に渡してやれ」

 懐からとりだしたのは回復薬に似せた中回復薬。


「これは?」ときく妹君に、

 さも愉快だというような表情で、

「クックック、これが貴様の価値だ。ついでに、そいつでさらに子爵から搾り取れる時間を伸ばせるか、試してみようかとおもってな」といい、さらに、

「今日が今生の別れになるかもなぁ」と告げ、

 いかにも逆なでしそうな表情を必死で作った。


 別れの風景を直視できず、馬車のなかで目を閉じ、考える素振りで待った。

 すすり泣く声が聴こえて、視線をむけると抱擁している父子がいた。


「行くぞ」居た堪れない。 

「はい」別れを惜しみながら、こちらに歩き出し、時折振り返り、涙を見せる姿が心に痛い。



 姉妹を売らせる行為を強いた子爵への罪悪感でおかしくなりそうだ。


 それでも、後ろ髪をひかれる思いでその場を去り、屋敷へと戻った。

 屋敷に戻り次第、使用人頭をよび、使用人を集めさせた。

「今日からここで奉公することになったマリーエッタだ。オレの婚約者の妹だが扱いは平民と同じだ。こいつもそば仕えとする。ようく叩きこめ」


 まるでデジャブだ。

 使用人たちの冷たい目がどこまでも、冷たい。


 1人だけ後輩ができてうれしそうな猫人族の娘がいるが、それだけだ。


「マリーエッタ。貴様はもう貴族ではないと心得よ。平民として働くがいい」

 尊大につげて、その場を離れた。


 叔父については、

「あれはどうした?」と聞かれたので、「いまのうちに、教育をたたき込み、高く売れるようにしたい。あるいは妾にする」とクズ丸出しの発言をすれば、

「好きにしなさい」

 と自身を棚に上げて、なんてクズだ。という表情を一瞬してその場を去っていった。


 バカの演技よりクズの演技のほうが板についてくるのは、なかなかに心に来る。オレはひとでなしだ・・・。



 それから月日がまた流れた。

 冬を越し春を迎えるころ。

 暖かくなると、婚約者であるマーサが折を見ては、訪れるようになったのはちょっとした変化だ。妹のマリーエッタが心配なのだろう。訪れては目で探し、どんなに邪険に扱おうと、なかなかに帰ろうとしなかった。あまりに粘り強いので、一度根負けして、マリーエッタを呼び、対面させた。


「マリーっ」うれしそうに駆け寄るマーサ

「姉さまっ」抱き合う姉妹。


「はぁ」大きなため息をつく。意外とマーサは強情だな。

 まぁ、姉妹の再開だ。今日だけは大目にみよう。


 しばらく、終わりそうにないと察して、

「アーミア。本をよこせ」 するとスッと読みかけの本を手渡してきた。

 ずいぶん側仕えが板についてきたな。

 感心しながら、感動の再会を果たした姉妹を

 放っておいて読みかけの本に視線をめぐらさせた。


「-イヌさま、ボーセイヌ様!」 「!、ん?」

「なんだ」


「そろそろお暇いたします」

「ん、そうか。それではな」 


「失礼します」頭を下げて退出した婚約者。


 どうやら眠ってしまっていたようだ。

「今は何時だ」


「今は3時を過ぎ4時に差し掛かるところです」答えたアーミアに

「ありがとう」とつげ、

「マリーエッタはすぐに職務に戻れ」と命令した。


 静かに頭を下げて、上げた顔には涙のあとがあった。


「めんどうなものだな」と独りごちると、

「ボーセイヌ様ほどではないとおもいますが?」とアーリア。

「ふん」


 尊大な態度はやめることはできない。どこに目が、耳があるかわからない。


 マーサはマリーエッタと対面してからはすこし頻度は落ちたが、それでも折を見ては訪ねてきた。


 マリーエッタは地頭が優れているのか、自然と屋敷になじみ、マナーを習得していった。

 優秀なら伸ばしてやるのもいいかとおもい、シャリーヌの授業の際は、給仕をさせるかたちで控えさせた。

 そういえば、シャリーヌだが、マリーエッタを連れ帰ったあと、また諫言されるのかと若干憂鬱になっていたが、何も言ってこなかった。

 なんだ?なにかあるのか??としばらく疑心に取りつかれて、気疲れした。


 なにもいってこないのだ、気にしても仕方がないと開き直ることにした。


 逆にアリフールとは、ひと悶着があった。


 屋敷の人間との関係は冷えたままで、一向に改善はしなかった。いや、しようとはしなかった、が正しいな。

 そのためか、使用人から漏れているのだろう。

 ボーセイヌは脅しては、女を連れ帰るクズだ、と巷でさらに頻繁に囁かれるようになった。反面、商人関係からはそういった話はあまりでてこないようで、おそらくは、チップの影響だろうとは推測している。



 今年で12歳だ。来年の春には貴族学園に通わなくてはならない。

 正直行きたくない。


「学問に貴賎なし」という建前は輝いているが、実際は貴族連中による媚取り合戦だろう。下位貴族や、上位貴族の次男以降は将来の伝手をつくりたい。嫡男は領地を継いでからの付き合いのため、そのなかに、成績優秀な庶民を混ぜるというのだ。碌なことにならないのは目に見えている。


 ちなみにだが、この学園と主人公はまったく関わらない。なぜなら、主人公は世界を旅しなくてはいけないのだ、学園編なんてものはない。


 だが、オレは通わなければならない。国の貴族はかならずここにきて、学び、卒業をしなければ、蔑みの対象とされる。過去にも問題を起こし、放校された嫡子を廃嫡した。なんてケースもあった。直系に優秀な弟がいれば、嫡子にこだわる必要はないのだろう。



 そうだ、主人公だ。

 主人公が住むのは、かなり古くからある村で、

「禍ある時、光差し、闇を払うだろう」というありふれたフレーズが受け継がれている。

 また、いつごろからか流行り始めた、「勇者物語」という王道物の演劇があるのだが、それをこの村の伝承から作った。とされている。

 勇者物語。簡単に要約すると、「もしも禍が起きたときは、伝承の地に赴き、伝説の武具を集めて立ち向かえ」という物語だ。


 件の伝承は、いつから伝わるものなのか、なぜそんな伝承があるのかも誰も知らない。ただただ伝わっているので伝えている。



 そんな村で生まれた主人公は、特別な力を持っていたなんてことはなく、狩人の子だ。むしろ、幼馴染には触れると癒しを与える不思議な力が発現していた。

「またけがをしたの?」

「ころんだんだ」

「なおしてあげる」

「ありがとう」

 なんて、やさしかった幼馴染は、お転婆な、街にあこがれる少女へと成長していく。


 あるとき、村の近くで大きな地震が起き、建物が倒れるなどの被害がでる。

 地震により崩れた山肌に横穴が現れ、なかには文明的な遺跡のようなものが発見されることで、事態は動いていく。

 判断に困った村長は領主に報告。領主も国へとお伺いを立てた。

 すると、異例とも思える早さで、国の調査団という一団が現れ、遺跡の周辺を封鎖して、中の調査を始めた。大人たちは素直に従って近づかなかったが、子供は違う。調査団が遺跡周辺を封鎖してから、3日目のことだった。

 好奇心が強い幼馴染が先行して遺跡にむかったのが見え、それを主人公は追いかけて、必死に止めようとしたが、幼馴染の女の子は止まらない。放ってはおけずについていってしまう。


 遺跡周辺は封鎖されているはずなのに、すんなりと入れてしまう。

 誰もいなかったのだ。

 遺跡の中まで入っていくと、荘厳な祭壇が設置されていて、謎の輝く剣が刺さっていた。

「あった!ねぇ剣を抜いてみましょう!」

「やだよ。なんか抜いちゃいけない気がするんだ」

「なによ意気地なし、いいわ、わたしが抜いてみせるんだから」

 と近づき、抜こうと頑張った微動だにしない。

「動かないんだから、もう帰ろうよ」

「いやよ。これを持って帰ったらいっぱいお金を・・・」 

「あ、いまのは秘密よ、誰かに言ったら絶交なんだからっ」と慌ただしく少女は言う。

「お金ってなに?どういうこと?」

「あんたには関係ないんだから」とそっぽを向く。



 定番だが、主人公は結局その剣を抜いてしまう。

 故意ではない。後ろから押されながら、いやいやと首を横に振って抵抗している所を今度はドンっと突き飛ばしてきたため、咄嗟に体を支えようと剣を掴んでしまい、そのまま抜けてしまう。

 すると、途端に剣は輝きを失い、ズンツと遺跡全体が動いたような振動が起こる。

「な、なにいまのっ」

「わ、わからないよ」

 さすがに怖くなった2人は剣を放り出し、走って逃げだす。


 2人の姿が見えなくなると、どこからともなく表れ、

「あちらの少年のほうだったか、まあいい」

「フッフッフ、古の勇者もさぞ嘆いていような。あとはあれが・・・」意味深なことを喋りすっと消える。


 逃げ帰った翌日、村に国の調査団だという一団が到着する。

 当然村長は「調査団のかたなら4日前にすでに来られ、周辺を封鎖して調査をされていますよ?」という。「?調査団は我々だけで、これでも、迅速にここまで来ました。そもそも、王都からここまで、どんなに急いでも5日はかかります」

 そうなると先にきた調査団は何だったのかと、お互いに顔を見合わせて??となる。

 そのとき、ズンっと地震が起こる。

「またか」と呟く村長に、「また?ですか」と問うと、「昨日から頻繁に揺れて、だんだんと周期が短くなっていて気味が悪い」という。

 しかし、昨日はすでにこの付近まで来ていたが、地震など起きていなったはずだ。

 疑問をおぼえながらも、とりあえずは、遺跡に向かう。

 遺跡にむかうが、先に来た調査団とやらはどこにもおらず、もぬけの殻だ。

 遺跡だけでもと、詳しく調査開始する。すると祭壇のそばに、古びた剣と刺さっていたであろう跡を発見する。徐に剣を拾い挙げると、なぜか持ち帰るべきだと、持ち帰らなければいけない。そうださらに調べるべきだと持ち帰ることにした。

 ズンっ 「!?」 たしかに何度も起こるようだ。

 崩れはしないだろうが、念のためだ。剣を持って外に出よう。

 外に出るとすぐに、


 ドゥグンっ   ひと際大きな揺れとともになにかが脈動するかのような音がした。

 ドゥグンっ  ドゥグン  ドゥグン。

 大きくなる揺れとともに、脈動は規則的になりはじめ、

 大きな地響きとともに、周辺の山肌が崩れ、巨大な何かが、空へと。


 なんだあれはっ!?と大騒ぎになる村人に、調査団。

「フハハハハハーーーっ」

 高らかに聴こえる笑い声のさきには、狂気に満ちた魔族がいた。

「ついに、ついに復活なされたのだ!魔王様がっ 魔王城がっ!!」

「よくやった人間どもよっ!いずれ完全に復活なさるまで首を洗って待っていろ!!」

「フハハハハハっフハハハハハーーーーー」

 と魔族は消えていく。


 空にあった巨大な禍々しい城もスウっと見えなくなった。


 騒ぎは一気に王都まで駆け抜けて、騎士団の派遣をしたが、空に浮かぶ城はどこにもなく、その姿を確認できない。村人と調査団だけが、たしかに見たと証言するのみだ。


 空飛ぶ城という物証も差し迫る脅威もない。

 嘘だとまではいわないが、懐疑的な意見が多数をしめて、記録のみが残されることとなった。


 同じ頃から、各地で魔物の凶暴化がはじまり、その対策に追われたことも、ありもしない魔王?などという存在にかける時間はない。という事情もあったのはいうまでもない。


 その昔、猛威を振るった魔王という存在もそれを打倒して封印した古の勇者という存在も、すでに忘れ去られていた。



 自分たちが抜いた剣は魔王なるものを封印するための要である。そして復活してしまった魔王を倒すには、各地に眠る武具が必要になる。と夢の中に現れた『光の精霊』に告げられる。

『光の精霊』に従い、主人公たちはそれらをすべてを集めるために旅立つ。


 というありきたりだが、こうなのだから仕方がない。

 ちなみにだが、

 主人公は光属性を持ち、火、水、風、地、雷、木の強い補助属性を持ち、物理攻撃から魔法まで扱えるオールラウンダーだ。

 幼馴染も光属性を持つが、補助はなし。回復から攻撃まで可能だが物理は弱め、魔法寄りの巫女タイプだ。


 話を学園に戻そう。

 本編に関係ないが、貴族学園というのは別称だ。

 正式な名は「ルーライル魔法学院」だ。

 初代校長の名がそのまま学院の名となった。魔法を愛し、発展を願って開設された。

 崇高な理念も、時とともに、学院ではなく、貴族のお茶会の園だと揶揄されるようになる。


 開設当時は、貴族も庶民も垣根なく、優秀な魔法使いが在籍して切磋琢磨していたのは間違いない。


 だが考えてもみてほしい。

 貴族は優秀なものを求める。その優秀なものが同じ学び舎にいるのだ。当然内側に取り込むようになる。

 そうなると、優秀な魔法使いの遺伝子は貴族に多く受け継がれるようになる。


 それが顕著になりだせば、庶民はしょせん庶民だ。

 という概念が生まれ始める。

 概念は傲慢へと姿に変えて、

 貴族こそ選ばれたものである。という認識が生まれ固着されていった。


 貴族の戯れる園。

「学問に貴賎なし」から「賎に学問なし」とまで言わしめるほどに貴族が幅を利かせた時代があり、名残を今も残している。

 学園に通うすべての貴族がそうではないが、高位貴族に多く、下位貴族にもその傾向は根強い。下位貴族など、継承が途切れればすぐにその立場から落ちるというのに、頭から抜け落ちているようで、大概の没落家の家族は悲惨な目にあう。同じ土俵に降りてくるのだ。むしろそうならないほうがおかしかった。そんな話が挙がるたびに、貴族は、庶民は卑しい者ばかりだと罵り、庶民はくそみたいな貴族め、と反感を深める悪循環だ。


 この悪循環の一環にオレも含まれるのだから笑えない。



 ストーリーの開始は主人公が16歳になった時だ。

 正確なタイミングはわからないが、記憶が生える少し前にはすでに、魔物が活性化しはじめた兆しはあったと聞く。。

 旅を始めて、世界を知り始めた主人公はその旅路の途中でボウセイ領に立ち寄る。

 そこで、ボーセイヌとの初対面となるが、タイミングがわからない。


 自己保身を第一に、魔物の活発化にもむけて、ひそかに鍛錬は続けているが、状態はいまひとつだ。

 現状、魔力で身体強化をして、常人の兵士とトントンくらいだ。

 1度、アリフールと軽く手合わせをしてみたが、瞬殺だった。叩かれたわけではないが、距離を取ろうと強化して動いたのだが、止まった瞬間には木刀が首に添えてあった。ゲームより強くないか、あれ。


 雷魔法を制御できなかったときのリスクが頭をよぎり、まだ試してはいない。

 本来は学園で学ぶはずの魔法の実践をするべくシャリーヌを説得して、やっと解禁したところだ。


 顔には出せないが、正直楽しみでしかたがない。









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