第5話連れ帰ったら睨まれた

 アミーアを連れ帰ってから、数週間がすぎた。


 帰ってまず、「こやつをこれから飼うことにする」と宣言。

 俯いて、肩を落とすアミーアがいるのだ。

 最近静かになったとおもったら、案の定だといわんばかりの、使用人からの軽蔑の視線がすごい。

 叔父は、「好きにすると良い」 といかにも都合が良いといわんばかりに我関せずだった。


 アミーアが少年のような恰好をしていたのは、獣人族は差別の対象とされていて、見つかれば奴隷商につかまる。

 一般人からは軽蔑された扱いを受ける。変装は種族を隠す目的と、性別を隠すためだ。つまり、女、少女だ。

 年齢的には俺よりも2歳年上で、現在13歳。

 あとこの世界の獣人族は先祖返りしている者以外は、頭に上耳、尻にしっぽが付いたほぼ人間だ。ほかにも、爪が堅く、そして鋭く発達していたりもするが、その辺は切るなどの手入れをするとさらに、バレる確率が低くなる。

 また、動物の姿に近いものほど、その潜在能力は高いのだが、その分生存本能が働くためか、闘争心がむき出しになっていく欠点がある。欠点を克服するほどの知性を持つのは族長やそれに近いものたちだ。そうなると強さと賢さを両立してしまう。

 ただ、動物に近づくほど、魔法が扱えなくなっていく傾向が強く、全体としては苦手だ。個体差はもちろんあるのだがな。


「飼うにしてもオレの側に仕えさせるのだ、身ぎれいにして礼儀やマナーをおしえこめ」


 一段と屋敷での居心地が悪化したが、昔からそうだった記憶(自業自得)があるので、気にしない。気にしたら折れる。

 アミーアが万が一にも危害を加えないように、奴隷として一度登録してから支配のブレスレットを購入して、つけさせた。オレの所有物だという証明だ。差別の対象であろうが、街を平然と歩け、絡まれる心配もない。


 当たり前のように家庭教師を務めるシャリーヌからは、

「獣人族はペットでありません。同じように話すことができる対等な相手です」

 と諫言を受け、いやそうなんだけどとは内心思いながらも、


「それはオレが決めることだ」

 なんとか憮然とした態度でかえした。


 あまりこの話題をほじくり返して、誤って癇癪を起されるわけにもいかないシャリーヌは口惜しいとはおもいながらも、授業をはじめるのだった。


 さらに1か月が過ぎるころには

 若いせいか、アミーアは、ある程度のマナーを習得して、オレの側に仕えるようになった。顔からは不満さが溢れそうだ。


 シャリーヌはその後もアミーアを気遣っているのか、オレが見えない時間を見計らっては、話し掛けている。シャリーヌはどちらかというと冷たいというか冷静な印象を受けるキャラだとおもっていたが、なんだか面倒見がいいな。


 どうせなら、アミーアもここで学ばせれば強化できるこかもしれない、か?

 生存率があがるかもしれない。

「そうだ、アミーア、貴様もオレとともに学ぶ栄誉をやろう。シャリーヌ。かまわないな?」

 と唐突に発言すると、妙な視線をこちらに向け、少し考え込んだあと、

「1人でも2人でも変わりませんよ」と肯定するので、

「決まりだな」と同じように学ばせてみた。


 しばらく様子をみていたが、アミーアは座学が苦手のようだ。かわりに、特性としての身体能力は高いようだが、魔法への理解は今一つだな。


 属性は風、魔力量は低め。補助はなし。

 風魔法を使いトリッキーに動きに加え、身体強化を図っての近接戦闘タイプだ。

 投げナイフも操り、そば仕えの護衛としては最適といえる。

 忠誠心はまったくない。ないだろうなぁ・・・、はぁぁ。

 支配のブレスレットも高いんだよなぁ。おいそれと買える値段じゃない。アーミアを盾にするつもりは毛頭ないけど、身の安全には代えられない。


 授業を一緒に受けるようになって、若干距離が近づいたようにも感じる。野良猫が触らせないが、微妙に近づいてくる距離といった感じだ。


 アリフールは変わらずに、外を歩く際には連れ歩いている。護衛だから、しょうがないね。事件は起きないが、これまで積み上げたヘイトのおかげで、屋敷での腫物扱いもかわっていない。


 アミーアは逆に、オレのペットという立場に同情されているのか好意的に接せられているようだ。


 それからさらに、数か月。季節は秋を通り過ぎ、冬を迎えていた。


 さむい、そして、婚約者の父、マーメイヌ子爵のことを忘れていた。

 記憶が生えてからは、前よりはましな対応を心掛けていたが、子爵はマーサを差し出したことが心労となっていたのか、倒れたようだ。


 知らせを受けて、一応という形で、見舞いにいく。積極的に行くのはオレを疑われかねない。心優しいなんて心は、ない。面倒だ。ああひたすらに面倒だムーブをしながら、行く。

 使用人の目から「こいつはこんなやつだ」と以心伝心するかのように伝わってくる。負けぬ、めげないぞ。つらい。


「マーメイヌ子爵お加減はいかがか」


「これはボーセイヌ様。ようこそ、わが領に。わたしはこの通りですがまだまだ働けます。どうか、寛大にお待ちいただきたい」と深く頭を下げた。


 マーメイヌ子爵がボーセイヌというまだ11歳に対して、こうするのも無理はない。ボウセイには多額の借金があるうえ、マーメイヌ子爵には女性しかおらず、この国は男子のみが爵位を継げる。

 つまり、なにがいいたいかというと、子爵がこのまま亡くなると、爵位は中央から派遣されたものが継ぎ、子爵家の家族は平民相当の扱いとなるのだ。また、すぐにでも子爵家の屋敷から退去しなければならなず、割と厳しい。「直系を持って継ぐ資格とする」という文言があるは以上いないのならば、代わりのものを。という形だ。親族でも継ぐことができないわけではないが、それは影響のある大貴族のみの制度だ。具体的には、伯爵家以上となっている。そうでなければ、大貴族がなくなるたびに、大混乱となるが目に見えているからだ。

 木っ端貴族は継げるものがいないのなら、中央から優秀そうな代わりをあてがい、うまく働けば儲けもの。

 功績のあるものが優先されるが、余っているポストのない高位貴族の次男やら、三男やらの中から選ばれるのが通例だ。

 燻っているより、小さくても領主に付きたいものも多い。


 そういった事情があり、子爵は少しでも長生きして、娘たちだけでも貴族に嫁がせたいという親心をもっていた。

 そして、

 家と家を結ぶ政略結婚において、相手の家がそのうちに消滅するとわかっている時点で、その価値は一気に落ちることになる。

 なんとかそのままの婚姻関係を維持するために、消滅する側はお金があるのならお金を、特産物があるならその利権の一部を、そういったものを贈呈するのだ。

 だが、すべての利権を渡すことはできない。そこは法によって明確に記されている。途絶えた後は、別のものがその地を継ぐのだから、当然だ。

 確か、現宰相が若くしてその座に就いて、すぐに発案、国王にその必要性を説き、施行させたものだ。現宰相の優秀は巷では評判だ。


 それほどに、不当な利益を吸い上げる貴族が多く、腐敗していた。


 仮に途絶した場合は数年の契約が残っていたとしても、1年間のみ有効となる。年間に譲渡できる割合は、ここ数年の平均された利益の2割まで。当該貴族家が存続するうちは、5年までの契約が可能だ。マーメイヌ家とは多額の融資する条件として最大の5年で契約している。

 そして、それ以上は決して渡せない。やぶれば、お家取り潰しが待っている。

 過去に施行後にも裏で脅し、資料をかいざんして、搾り取っていた子爵家があったが、搾られた末に途絶した側の爵位を、中央から派遣されて継いだ領主が、過去の資料を確認していると、ある年から急に財政が悪化していた。天災も何もないはずなのにと不審に思い調査をした結果、発覚。搾り取っていた当主は斬首。一族は牢へ。お家は断絶である。


 この件を境に、この法の果断さが知れ渡り、破るもの、或いは破っていたものは早急にばれる前に処理をしたという。


 こういった理由があり、マーメイヌ子爵は娘マーサの嫁ぎ先である、ボーセイヌに頭を下げて懇願したのだ。

 マーメイヌ子爵に払えるものはもうない。度重なる天災により疲弊した領をなんとか持ち直そうと、奮闘しようとも、先立つものがない以上借りるしかない。

 貸したのはボウセイ家だ。これは正式な手続きでなされたもので、マーメイヌ子爵家が途絶えても、継いだものが返さなくてはならない借金だ。

 さらには、それだけでは到底足りずに、悪評ばらまくボーセイヌの婚約者というかたちで、娘は担保としてさしださせ、さらに借金を抱えている。

 正式な手続きによる子爵領としての借金があり、さらに娘を担保とした借金。

 それを返済するために、高い利子を含めた返済のために5年間の年間利益の2割の譲渡をすでにしている。

 だが、正式な手続き以外の借金は子爵家途絶の段階で消滅する。

 この消滅する借金は、仮に子爵がすぐに病死してもそこから1年の利権で、回収できるラインであり、子爵が長生きなら5年先までずっと入る副収入となる。

 さしだせるものはなく、子爵は娘を想い、頭を下げる以外に交渉する余地はもうなかった。

 重病というわけではないが、健康には程遠い状態だ。

 こちら側にはムリに婚約関係を続ける意味はもうない。


 地味だけどマーサは素直できれい子だ・・・。

 どうしたものか。


 叔父はもう搾りとりつづけられないとマーメイヌ子爵家から興味は失せている。

 言外に「もう金がないのだから、さっさと次をさがすぞ」とも言われている。


 ちなみにだが、ゲーム上にもこの展開は存在していて、ここで婚約破棄をすると、

 あと1年半後に子爵は病死。家族は屋敷を追い出され、平民相当となる。

 ふつうなら、子爵家時代の個人的な財産がある程度はあり、それを食いつぶしながら、ひっそりと生涯を終えるのだが、マーメイヌ家は借金がある。それも多額だ。そのため、満足な蓄えをつくることもできずに、子爵は病死。

 蓄えがない以上は働くしかない。

 マーサの母親は二人目の子供を産んですぐに体調を崩して、他界しており、長女であるマーサが家計を支えることになる。マーサと妹の2人暮らしだが、子爵家で育ったマーサに世間は甘くなく、1年もしないうちに、娼婦へと身を落とし、そこで病気をもらい正確な年齢はわからないが、若くしてこの世を去る。

 RPGの本編にかかわりがない彼女のことがなぜわかるのかというと、

 主人公は警備の堅い領主屋敷にいるボーセイヌを打倒する方法を探るために、街中を彷徨うことになる。そこで接触してきた謎の協力者(アーミア)が隠し通路の入り口を教え、「彼女に私は頼まれたの」(真偽は謎) といい、『女性の手記』というアイテムを渡してくる。


 別に読まなくてもストーリーは進むだが、貴重品アイテム欄を開き、選択すると手記の内容が確認できるのだ。割とボリュームがあり、どこに力を入れているんだとも思ったが、そういうところにハマってしまう人がいたのも事実だ。


 妹の消息については謎だ。名前も語られていなったはずだ。サイドストーリーながら、ボーセイヌ関連のものは、徹底とした悲壮感や憤りを覚える内容だったのはゲームを通じて、何かをつたえようとしたのでは?という憶測をよんだ。


 そう、ここで、婚約破棄を選択すると、高い確率でマーサがしゅぬ。

 だが、価値のない婚約を続けることは叔父に怪しまれる。


 嫌な板挟みだ。


「子爵の状態をみれば、いずれ旨味が消失するのは明白。このまま婚姻関係をつづけることはできない」


 苦しいがどうにもならない。自分の身には代えられない。


「そんな、・・・」がっくりと肩を落とす子爵に追い打ちするように、

「だが、待ってほしい。子爵にはもうひとり娘がいたはずだ」 「っ!?」


「マーサを婚約者のままにしたいのなら、差し出せ。いまは金にならずとも成長すれば使いようはあるだろう」


「きさまっ、くっ」怒声を浴びせそうになって何とか堪えた子爵は

 仇敵を見るような目でこちらをにらみ上げた。


「いいのか、そんな態度をとって?選択権が子爵にあると思っているのか。いや、そうだな、現実を教えてやろう。」めっちゃ怖い顔で睨まれいるが、2人をどうにか保護するにはこうするしかない。


「いいかよく聴け、子爵領はもうすでに火の車だ。調べたところによると満足に教育すらできていないそうじゃないか。子爵が死ねば、マーサと妹は平民となる。するとどうなる?残せる貯えをいまから作れるのか?姉妹二人を十分に養える貯えをだ」 少しためて、蔑むような視線をイメージする。

「不可能だっ!できるはずがない。できない以上姉妹は働くしかないぞ。働けるのか?子爵家の子供として育った姉妹に。どうだよく考えみろ」


 仇敵をにらみ上げていた顔は見る見るうちに、消沈して、目線は右に左にうろたえだした。その様子に、

 ここで畳みかけるしかない。と決意して、

「いいことを教えよう。元貴族の娘は娼館に高く売れるそうだぞ。市中に埋もれれば時間の問題だ。だがオレにさしだすのなら、それだけはしないと約束しよう」


「ぐっぅ」唇をかみしめるように、血の涙を流しそうな苦渋な顔だ。拳は握りすぎて血が出ている。

「ッ 、わか りました」 

 子爵はどうにもならないと肩を落とし、俯き加減に告げ、頭を下げた。


「ふん、さっさと言えばいいものを、手間を取らせるな」 すまない。こうするしかなかったんだ。


 交渉は終わった。

「3日後に引き取りに来る。それまでに用意をさせておけ」


 娘を差し出せるという方法は、割とこの世界では罷り通っている。飢餓があるたびに町々ではよく見かける光景で、男女とわず、奉公と名を変えて差し出させる。

 貴族社会でも下位貴族では作った子供を売りに出すことが当たり前の腐ったものすらいる。全年齢向けのRPGゆえにそのあたりはぼかして、オブラートに包んで提供されていたが、わかる人にはわかるので、なんてものを積んでいるんだと物議もかもした。その話題が気になり、背景の重さが世代を超えてさらに売れた。晩年にはダークファンジー系ゲームの要素でも評価されていた。


 顔には出せない。オレはオレでいたいんだ。


 帰り際に、護衛のアリフールが尋ねてきた。

「なぜ、そのような振る舞いをなさるのですか」と。


「なにをいっているのかわからんが、オレが俺を生きるためだ」

 非道な行いのことか?と思い、そう応えた。 












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