第4話街の様子

 街を歩くと活気のある商店の並びもあり、思ったよりもまだ庶民の生活は成り立っているようだ。父もそうだったが叔父もまた、民の暮らしを良くしようとは考えておらず、どうやったら税をより効率的にとれるかだけを考えている。

 聡いものは、早々に店をたたみ他領へと移り、郷土愛ゆえに残った商人がなんとか経済を支えている段階だ。暮らしづらくなっていることは理解しているが、離れることはなく、商売を続ける商人にはいつか報いたい。

 現状は顔を見れば、嫌悪感を隠そうとする関係だ。

 それは、仕方がない。

 時折に街を歩けば、どこかのだれかに絡み、蔑み、ときに、奪い取る領主の息子だ。歓迎されるはずもない。


 気分が良い環境ではないが、この世界の現実を知るためには実際に行ってみる必要がある。だけど、どこもかしこも嫌悪感漂うムードには、もはや笑うしかない。


 そんな感じで、視察をしていると、並ぶ露店の一つが気になった。

 特別感のある店ではまったくない。若干周りより、古びているくらいか。


「少し寄ってみるか」

 気が向いたので近づき、品を眺めていく。

 どれも、どこにでもある代り映えのしない品添えのなかに、ひとつだけ違うものがあった。


『エルフの涙』だ!


 俗にいう激レアな回復アイテムだ。ストーリ上ではエルフの里にしか存在しない貴重なアイテムがなぜここに!?


 平静を装いながら、

「店主、この瓶に入ったものはなんだ?」と尋ねた。


「こちらでございますか?これは、たまたま助けた旅の者が、お金の代わりにこれで許してほしいと渡されたもので、そこらにある回復アイテムですよ」


 確かに瓶自体は、一般的な回復アイテムのそれだ。だが、色味が若干違う。

「手に取ってみてもいいか?」


「どうぞ」と手渡された瓶を徐に太陽に当て、その影を確認した。


 透ける虹色の輝き。


これは間違いなく『エルフの涙』だ。


 一般に出回ることがないこのアイテムは、鑑定にするか、色味の違いを見分けるか、こうやって陽にかざさなければ、判別することができない。


 なぜオレが見分けらるのは、いたって単純な話だ。ゲームでは、これをすばやく見分けるイベントをクリアしなくてはならず、大体のプレイヤーは一目見てわかるようになる。おれもクリアのために、覚えた。


 効果は回復薬の中では最上位に入る。ゲーム上では○リクサーとは言わないが、○クスポーション。といったところだった。

 それとそういえば、この世界の回復薬の効果については面白いことがあった。なんと回復薬は病気に効く。これは革新的な話だが、反面、HP1くらいの瀕死状態から回復薬を使ってもすぐに動けるようになる。なんてことはない。また切断された腕が生えることもない。だが、切断された直後の腕と元の傷口を繋ぎ、高回復薬を掛けると、傷口を覆うようにブクブクと泡立ち、傷口を塞ぎ、つなげることは可能だ。ただ動かせるようになるかは、完全に運だ。成功例はあるが、ほぼ動ない。付いただけの腕になる。どうも神経系は運だが、ほかは繋がる仕組みのようだ。

 ゲームよりもかなり高価になったのは病気に効くという凡庸性の高さだろう。外傷だけなら、ここまで高価にならなかったのではないかと推測している。


 さて、問題のエルフの涙の効果だが、こんな感じだ。(文献調べ)


 エルフの涙 

 ほぼすべての不調に効く。効果時間は不明。動かせる腕を繋げた実績あり。ほか、匙をなげられた病を完治させた実績100%。即死毒はその場になく、間に合わないため不明。


 完全にこの世界の○リクサー扱いだ。


 回復薬は効果が高くなるほど、さまざまな病気への対策としても使われており、エルフの涙にいたっては、即死毒以外なら効く。とされている。

 逆に、毒消し薬ももちろんあるが、こちらは安い。特定の毒だとわかれば、こちらのほうが効果が高く、解毒も早い。のだが、毒消しが大量にいるなんてことはほとんどないためだろう。


 遊んで暮らせるようになるほどの薬が、ただの回復薬として売られているのは異常なことなんだが、どうもこの感じだと、希少さゆえに見分け方は確立されていないようだ。


「これをもらおう。いくらだ?」


「銀貨3枚になります。」

 銀貨1枚は庶民には高価だ。この世界の薬は総じて高く、これが『エルフの涙』なら金貨300枚はする。時期を見極めて、オークションに出品すれば、2倍、いや3倍もありうる。

 エルフの里は、隠れ里とも呼ばれ、存在は確認されているが、たどり着けないといわれている。稀に迷い込んだ旅人が、持ち帰ってくることがあるくらいだ。

 そのため、希少価値と効果の高さから、破格の値で取引される。

 一般庶民の日当がだいたい銀貨1枚。騎士で銀貨3枚。といったところだ。

 銅貨10枚で1銀貨。銀貨100枚で1金貨。金貨1,000枚で白金貨になる。

 3日以上休むくらいなら、回復薬を頼りたい。回復薬はそんな値段なのだ。


 つまり安い。あまりに安すぎるということになる。


「そうか、それではこれと、あとそれをもらおう」


「へい、3銀貨と3銅貨になります」


「そうか、今日は気分がいい。釣りはいらん」

 と1金貨を手渡す。せめてもの情けだ。

「!よろしいのでっ、ありがとうございます」と店主は深く頭を下げた。

 威勢のいい返事を背中に店を離れた。

 

ありがとう見知らぬ露天商の男よ。


「よろしかったのですか、あのような大金を軽々しく渡しても」

 さすがに不審におもったのか、アリフールが訪ねてきた。

「よい。これにはそれ以上の価値がある」

見た目だけはどこにでもある回復薬に金貨を一枚出したのだ。当然のようにアリフールは疑問を口にした。

「これはただの回復薬ではないのですか?」

 アリフールも見たことはないようだ。

「そうみえるならば、そうなのだろう」

 ?アリフールは疑問に思いながらも、領主の息子がする気まぐれの散財かと流すことにしたようだ。


 これで、もしもの時に生き残ることができる。いい買い物だった。

 知識は力なりだ。

 そうだ。これは、いい方法かもしれないな。

定期的に視察をして、掘り出し物をさがすのもありかもしれない。


 この日を境に、ボーセイヌは折々に商人の屋台群を訪れては、稀によくわからない商品を購入しては、商人にチップを落としていく。存外に気前のいいコレクターなのか?と、ドラ息子の評判が少しだけ改善したことをボーセイヌは知る由もなった。


 ホクホクとした面持ちで買い物をすませたボーセイヌがふいに立ち止まる。後ろに控えていた護衛のアリフールも同時に立ち止まり、何事かと周囲を見渡しながら尋ねた。


「どうかなさいましたか」

「すこし思うことがあってな」


 ボーセイヌはなにかを思案するように腕を組むとその場に佇んだ。その様子をみたアリフールは邪魔にならぬように周囲を警戒しながら次の言葉を待った。


 街のことを知りたいのなら路地裏をみろ。


なにかがあったというわけではなく、このありふれたようでどこか聞いたことがある言葉が、ふと頭に浮かだのだ。


 そうだな。すこし路地のほうも見てみるか。


考えをまとめたのかボーセイヌが無言のまま向きを変えて歩き始めた。寄り道をするのだろうと当たりを付けて後をついていくアリフール。


通りを離れ路地にはいる。そしてさらに奥へ、奥へと進んでいくボーセイヌに行先を察した護衛であるアリフールは声を掛けた。


「このさきは危険があるやもしれません。おやめになりませんか?」

 とアリフールは懸念を口にした。


アリフールの言もわかるけれど、現状を知っているかいないかがもしもの時の対応を誤らせるかもしれない。なので強引にだが進むために口を開く。


「そのための護衛であろう、付いてこい」


 アリフールの実直なところはありがたいが、いまは未来のために見ておきたいのだ。


 1つ、2つ、と表通りから奥に入るにつれて、活気がなくなり、地べたに座ったやせ細ったものたちが目につくようになっていく。


 それもある地点を過ぎると、一気に荒廃した雰囲気を漂わせた区画に様変わりをした。いや、荒くれものがいかにもこの世を謳歌していそうな気配とでいうのだろうか。いやに危険な匂いを感じさせた。


「これ以上はおやめください」

 気配を察したのか明確に止めにはいったアリフールの声に顔を向けると、警戒感からか鋭さ増した視線をこちらに向けている。


「この辺りはどういった場所だ。雰囲気が変わったように感じる」

 気になり問うてみると、


「後ろ暗い仕事を生業としているものたちの拠点があります」


 後ろ暗いなら検挙して、壊滅させれば治安も良くなるのは明白だと考えるかもしれないがそうもいかない。

 口にはださないだけで、街のものは誰もが疎んでいる。

 だが、領主はなにもしないし、なにかを起こす予定もない。

 

 なぜなにもしないのか?

 拠点があるのは確実なのになぜ放置されているのか?

 という話なのだが、ことは単純で明白だ。前領主、そして叔父もつながっているのだから当たり前で、公然の秘密となっている。もちろん証拠はないがな。ここに変わることなくあるという事実だけ。知っているが手はだせない。そんな者たちの拠点があるのだ。


「そうか。ならば戻るとしよう」

 

さすがに領主の息子であるオレに危害は加えてはこないだろう。とりあえずは、あることは確認できたのだ。リスクをこれ以上はとる必要もない。


 来た道とは違うルートで表通りにもどることにした。

 とくに警戒もせずに表通りの入る一本前、ふいに横から飛び出してきた少年とぶつかった。


「ごめんよ」とすかさず去ろうとした少年をアリフールは見逃さない。

 ガシっと肩を掴んだ。「!?」驚く少年に一言。


「待て、盗ったものを置いていけ」


 あわてて、懐を確認すると財布がない。盗まれていたようだ。


「くっ、はなせっ はなせよーーっ」

 少し高い声を上げて手を振りまわして逃げ出そうとするものの、ビクともしないアリフールにあきらめたように、ボトっと財布をなげおとして、座り込んだ。


「返したんだ、もういいだろう!!」と声をあげる少年。

 少年?座り込んだ顔を覗いた時に、生えた記憶が反応した。


 こいつアミーアだ!


 アミーアはボーセイヌとの戦闘において、いつも登場する側近になる。

 側近といっても実情は奴隷のような扱いで、猫人族長の子だったかなにかで外に出ていたところを奴隷商に浚われたのだ。その後に隙をみて逃げ出して、路地裏で何とか食いつなぐものの、段々と衰弱しいくのだ。そうして満足に動けなくなったところを、探し出した奴隷商に再び捕まってしまう。奴隷として売られると散々に酷い扱いをうけて、ボロボロの状態で引きずれるように歩くアミーアをみたボーセイヌが、気まぐれに声を掛ける。


「薄汚いペットを飼うのも一興か」


 とアミーアを買い取り、治療して、体のいい小間使いとして使うようになる。

当初は助られた恩もありアミーアは必死に学び側近として仕えるようになるのだが、それ以上にこれまでの貴族への恨みは大きく、またボーセイヌの振る舞いにも失望して、領主館に向かう主人公の存在を知って招き入れ、戦闘を誘発させるのだ。

 戦闘では、一定値以上のダメージを一度に与える条件をクリアすると、行動を制限していた支配のブレスレットが壊れる。するとその時点で、

「この時をまっていた。報いをうけるがいい」 

 とこちらに目潰しの煙幕を投げつけ、逃走する。

「ペットの分際で、覚えていろ!!」がオレのセリフ。

 これ以後命中率が低下した状態で主人公との戦闘が続く。

 ちなみにだが、アリフールも常に登場する。

 オレ、アミーア、アリフールの3人一組だ。

 アリフールは最後まで戦い、倒れる。君主が愚かでも最後まで仕える忠義者だ。

 アリフールはどうやってもボーセイヌを庇うので、まずアリフールを倒す必要がある。そして、最後の戦いでもさきに倒さなくてはならないのだが、

「すまない、・・・フーシャ」

 といい残して死ぬ。フーシャは病弱な一人娘で、この治療のために好待遇なボーセイヌの護衛なったいきさつを、その後フーシャ本人と出会うので、明かされるのだ。


 後味が悪いのはいうまでもない。


 罪滅ぼしではないが、その病を治すために、情報を集めているうちに『エルフの涙』というアイテムの存在をしり、隠し里であるエルフの里を探すことになる。

 だいたいこんな感じだ。


 そんなことより、アミーアだ。

 出会い方は違うが、こうして出会ってしまったのだ。このまま逃がすよりも、ここで仲間にしたほうがいいかもしれないと逡巡する。


「まだ子ですが、どういたしますか」

というアリフールの言葉に保護することを決断する。


「そうだな、ペットして飼ってやるのも面白いかもしれないな」

言葉は悪いが、オレというもの叔父に疑わせないためにはこういう言葉使いしかない。

 「!?」するとアミーアは途端に怯えだし、ガタガタと震え出した。どうやら殴られたり蹴られたりして、飽きたらどこかに行くだろうと考えていたものが、どうも、オレのセリフで浚われらときの記憶が刺激されたようだ。

「見逃してください。許してください。」と泣きながら懇願しはじめたのだ。

 しかし、ここで見逃してもさらに悪い未来がアミーアには待っているからには許すわけにはいかない。

 心は痛むが、

「貴様に選択権はない」

 とばっさり却下した。そうして、うなだれるように呆然自失なアミーアを連れ帰ることにした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る