第3話オレにはできない

 生きるためだ。洗脳されないためだ。


 使用人に尊大な態度をとって、当たり前のように暴言を吐いて、婚約者をときに叩き、突き飛ばしたボーセイヌ・ボウセイはもういない。

 実行するために、何度も、なんども、心の中で理屈をならべても、オレには、もう同じことをすることはできなかった。


「ふんっ」 「チっ」 それくらいが限界だった。

 ムリなんだ。できない。

 まだ子供故の部分もあったはずだが、記憶が生えた今、その行為につよい罪悪感が湧き出てくる。


 おかしく思われていないないだろうか…


 心配をよそに、使用人たちにとっては、いつもより静かでよかったくらいの認識のようで、疑われているようなそぶりはなかった。


 …そうだ、そっちの方向に路線を変更しよう。

 口数を少なくして、偉そうな態度でごまかしていけば、なんとかいける。




「ボーセイヌ様、授業のお時間です」


「わかった」


 今日は家庭教師シャリーヌの魔法についての授業だ。記憶が生えてからは初めての顔合わせになる。ボロをださないようにしなければ。


「それでは今日は初の魔法の授業ということで、まずは魔力量と属性を調べていきます。こちらの水晶に手をかざしていただけますか」


 いわれるがままにかざすと、黄色に輝き、次に、黒く淀んだ。


「雷属性が得意で、弱いですが闇属性が補助の2属性をお持ちのようです。潜在的な魔力量は、並みよりは高いといった輝きかと思われます。」


 光、闇、火、水、地、風、雷、木の8つの属性が存在する。

 主属性に光や闇を持つものはほぼおらず、光と闇を抜いた6つの属性に、補助という形で光と闇が稀に入るのが基本となっている。

 そういう意味ではオレは稀なケースだ。がそれでも特別レアというレベルではなく、いるところにはいるよ?という程度だ。

 得意属性は伸びやすく、補助はほとんど、伸びない。

 ゲームでもボーセイヌは雷魔法で攻撃しながら、闇魔法でデバフをするスタイルだ。

 そうなると疑問が一つ浮かぶ。補助属性はほとんど、伸びないのだ。

 件の「マインドマイン」は上級に位置する魔法だ。

 対決でボーセイヌは使っていたことから覚えられるはずなのだが、補助程度の適正ではせいぜい初級まで、よくて、中級に届くか届かないかの適正であり、本来なら覚えることはできないはずだ。


 なにか方法があるのか?


 考え込んでいると、

「どうかなさいましたか?」と声を掛けらた。


「いやなんでもない、続けてくれ」

 疑問にはひとまず蓋をして、授業を続けさせた。


 種類などは、RPGと同じであることはわかったが、効果についてはどうやら差異がおきているようだ。

 具体的には、「ショック」という魔法があるのだが、これは相手を痺れさせるだけで、殺傷能力は皆無の魔法だった。しかし現実での解釈では、「痺れる電流」であって、弱っている相手にかけると死ぬ可能性がある。

 実例を挙げて丁寧に説明されたため、この差異に気付くことができたのは幸いだ。こういったことで、思わぬ失敗をしないように、知らない前提で確認していくべきだな。


 授業は非常に有益だった。

 シャリーヌはRPG同様にとても有能な人材だと知れた。


 まぁ、彼女は中央からの内偵なんだけどね。


 内偵は、中央から派遣される査察官でもあり、緊急時には執行官としての権限も持っっている。

 その彼女がいるいうことは。そういうことだ。

 この領を調べるために、ここにいる。

 後ろ暗いことは山ほどあるはずの領だが、厳重なガードに手をこまねいていた。という描写があったはずなので、まだまだ、かかるのだろう。


 昼を挟みつつ、続いた授業が終わり、今日の予定はおおむね終了だ。


 さて、どうしようか…

「すこし、外にでてみるか」

 なにがどうであれ、街の様子は確認しておいて損はない。


 屋敷を出ると告げ、

 護衛として雇われた元王宮騎士であるアリフールを呼んだ。

 護衛と言っても1日中張り付いているわけではなく、屋敷の外にでるためのものだ。普段は屋敷の警備をしている。


「お待たせ致しました」

 アリフールは180センチくらいで筋肉が盛り上がった男だ。

 強そうな見た目通りに普通に強い。悪政を引くこの領地だからこそ、金を積んで屈強な護衛を幾人も抱えていて、その中でも、1,2を争う強さだ。王宮騎士だったのは伊達ではない。

 そんな男がここにいる。

 王宮騎士は垂涎の出世街道。庶民なら夢を見て、軍に入り、そこでの功績によって任命されるしか道はない。

 運よく任命されても、王宮騎士は貴族子息が大半を占める組織であるがゆえに、その風当たりは強い。アリフールは、それでも任務を全うしていたが、

 病気を抱えた娘の高額な治療費、庶民からの出世とあっての妬み、それらに疲れていたアリフールという存在を聞きつけた叔父が、金で引っ張て来たのだ。こういった中央の情報を抜かりなく集めるあたりに、叔父は情報の大切さ理解している。


 ボーセイヌは屈強な護衛を従えて、街にでた。


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