第39話 ダメー

「エ、SNSはほら、賛否両論もつくしさ、芸術って俺的には自分の感性が一番っていうか。取り敢えず人の意見に左右されるのはちょっと」


 すると俺の目の前で足を止め、デコピンをする。


 あー今殴ったな!俺のデコをぶったなコノヤロウ!俺の怒りオーラが間宮に伝わったのか間宮は俺の腕を引っ張る。何故かしたり顔なのがまたイライラさせる。


「言ったろー?意見はリユースだって。逆にお前が意見しなかったとしても間宮はネットに頼るだけだぞ?有名なポエマーからでも小説家からでもいいけど、落ちている意見を拾い集めてそれを好きなようにデコレーションしていく。要らなくなったら捨ててまた拾いの繰り返し。それが後に己のセンスって言うやつに繋がるんだよ。誰のどの意見を入れ込むか、そこで間宮がコレクトしたものがお前が吐き捨てた意見だったってだけで、お前のパーツが必要なくなった頃には間宮も他のパーツを集めに行くさ。自分が完璧だと感じた時に己のセンスは完成する!でもな、意見のパーツっていのは何億何兆とあるものだからな。どこまで完成に近づけたか、それを自身のセンスと競う」


 部長の話はいつも理解するのに時間がかかる。一気に話しきってしまうのが原因かもしれないが内容が一発で入ってこない。よく分からないまま話が終わり俺が不思議そうな顔をすると部長は我に返る。

 そして部長はいつもの如く顔を赤らめる。実を言うといつもこんな感じなのだ。確信を突いたような、突いていないような話をし、俺ら部員が微妙な反応を見せると恥ずかしさのあまり赤くなる。

 そして、可哀想というか哀れだと思った俺が慈悲で先輩を宥める。これが一連の流れであり恒例行事化しつつある。


「お、俺は部長のアドバイス、的確で納得だな!」

「そうですか?私は何言ってるのか全然分かりませんでしたけど」


 まみやぁー!そこは嘘でも『部長流石ですー、一生部長について行きます!』とか言っておけばいいんだよ!これ以上部長の傷を抉るのはやめてあげて。


「う、うわぁー!!」


 やはりいつも通り奇声を上げて全力で逃げ去ってしまった。こんなこんなで部長不在の部活ってのも決して珍しい訳ではない。


 なんて俺的にはまあまあ充実した学校生活を終え、帰宅に差し掛かる。


 基本的には以上に書いた生活を繰り返しているだけの毎日である。相当充実した学校生活を送っていない限りリズムが変わることはない。


 しかし、とあるこの日は特別変わったことがあった。それはただの告白だった。

 告白自体は特に珍しいことではなかった。自分で言うのは気が引けてしまうが、俺はまあまあモテる。文芸部でなかなか扱いづらい変人なのにモテる。つまり顔しか見ていない。まあ、俺みたいに見栄えが良いやつは最初にポーンと好感度が跳ね上がるだけで、後は内面やらなんやらで引き算されていく一方だ。

 しかし、今回の告白は最も印象に残るものとなった。


 文芸部の活動時間は意外と遅い。強豪の運動部や吹奏楽部などと比べたら早い方だが、六時までが活動時間とされている。その日は俺と先輩の二人で最後まで残っていた。執筆を終えた先輩は体を伸ばした。


「うーーん!終わったぁー」

「お疲れ様です。どんな感じになりました?」

「ダメー。一舞君には見せてあげなーい」


 そう可愛く言う先輩は上目遣いで、第一ボタンを開けていた。つまり、この時間帯のこの空間に置けるその振る舞いは罪だというかなんというか、控えめに言ってどえらいドエロいドスケベわっしょい。


「そういうことやってるとすぐ襲われますよ」

「そういうことって?」

「思わせぶりな態度は簡単にとるもんじゃーありません。これテストに出ます」

「襲われるぐらいなら襲うほうがいいかなー」

「冗談抜きで本当に気を付けてくださいよ」

「分かってる分かってるー」

「どこ行くんですか?」

「一緒にいく?トイレ」

「行くわけないですよねー」

「だよねー」


 そう言いながらご機嫌上々の先輩は扉を開けて部室を出る。どうしたらあんなご機嫌な先輩が出来上がるんだか。相当いい作品でもできたのか?そう思った俺は見てはいけないと言われていた先輩の原稿を覗き見ることにした。


「えーと、原稿もお花畑ってかー?」

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