第38話 全然全部全く違う!

 んな、わけがないだろ!

 全然全部全く違う!


 朝は騒がしい教室で一人本を読み、授業中も本を読む。数学のハゲのおっさんによくひっぱたかれるが、あまりの無反応に先生すら困惑する。

 昼はパンやらジュースやらをパシってくれるような砕けた友達がいる訳もなく、一人教室で弁当を食べ終えたあと、図書館へ行き新入荷されたライトノベルの確認を済ませる。

 午後の授業は古典と現代文だった為、積極的に参加した。

 放課後は普通に荷物をまとめて普通に部室へと向かう。同じクラスの女子には『なんか分かんねぇーけどやべーやつ』みたいな印象を持たれているようだ。しかし、クラス内での俺の様子を知らない他クラスの女子はこの高身長ハイスペックな容姿に騒然となるのが日常。

 そして部活はもちろん文芸部だ!といっても所属して本を読んでいるだけであって特別詩を書いたり、小説を書いたりしている訳ではない。

 文芸部といえば文字に触れていれば取り敢えず文芸部員として成立するみたいなのだが、部員の九割は執筆を行い、コンテストに応募なんかもしたりしているらしい。


「先輩!これ読んでみてください!」


 無理やり部活内の役割を言えと言われたならば、こんな感じで部員の書いた詩や小説、時には随筆を読んだりしている。

 以前に何度か、詩かと思わせておいてよく読んだらラブレターだったみたいなこともある。


「凄くいいと思う。間宮の可愛い乙女心が綺麗でもってストレートに伝わってくる。でも──」


 日頃から的外れかどうかも分からないようなアドバイスをしている。作品のアドバイス係を俺に任せている時点でこの文芸部に未来はないと気付いてほしいものだ。


「ありがとうございます!」

「いえいえ」


 あー、こんな向上心溢れる後輩が、ヌボーっとただ文字列を眺めているような俺の手で汚れていくような気がして泣けてくる。


 こういうのはあまり良くないと思う。俺がアドバイスするのはいいが、言葉とは表現の仕方、単語の並べ方など様々な視点から作り上げることのできる言葉という世界におけた総合芸術だと思うのだ。しかし、俺が首を突っ込んでしまうことで、それはその人の芸術ではなく俺の芸術に寄ってしまう気がしてならない。


「あの、真宮」

「はい、なんでしょう?」

「それ、めっちゃいい」

「あ、ありがとうございます……。え?」

「だから、めっちゃいい」

「はぁ、ありがとうございます」

「そのままコンテストに出した方がいい」

「え、でも先輩がここのところを直した方がいいって」

「いや、確かにそうは言ったけど──」

「──私もこの詩にしっくりきてませんでしたし、何より先輩の意見でハッとさせられましたし」


 後輩の素晴らしい作品を壊してしまったようで根拠の無いアドバイスをしてしまったことに後悔していた。その時、部室の扉が力強く開く。文芸部部長直々のお出ましだ。部長と言えど、俺と同級生の高校二年生だ。


「二人ともどうした?」

「あのさ、部長。間宮の詩、読んでやってくれない?」

「それは一舞が見た方がいいだろ」

「確かに誰よりも文字は読んできたかもしんないけど、人の作品に口出すほど偉くなった訳じゃないし」

「一舞、よく聞けよ?意見ってのは人を変えるものじゃない。リサイクルなんだよ!いや、リユースかもしれないな」

「おい、何言ってんの?マジで」


 あー始まった。


「お前のことだから『間宮の作品が壊れていくのがいやだぁー!』みたいなこと考えてるんだろうけど、ウチの間宮はそんな薄っぺらい気持ちで書いてる訳じゃない!なっ!まーみゃー」


 お日様のような明るい笑顔でそう言いながら部長は間宮の髪をわしゃわしゃする。


「ちょっと、ホントやめてください。女子の髪ぐちゃぐちゃにするってどんな神経してるんですか!?」


 あー分かる!分かるぞー。部長は基本的に良い奴なんだけどな、なんかすげぇーイラッて来るよな。的確に苛立ちポイントを突いてくるよなぁー。良かった俺だけじゃなくて。


「間宮を変える意見、まあ、即ちパーツ?ってやつはそこら辺に落ちてるわけじゃん?」


 あの、『じゃん?』とか言われても『じゃん?』が語尾に付くだけで今までの言葉が帳消しされるほどにイラッとしちゃうじゃん?


「そもそも、態々お前に聞かなくたってSNSに投稿すればいい話じゃん?でも、間宮はお前の意見を一番に求めた訳じゃん?」


『守りたい、この笑顔』ではないが、『殴りたい、この部長』。じゃんじゃんうるせぇ!

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