第34話 告白……

「やめてくださいよ。そんなの、嫌いになるに決まってるじゃないですか」


 俺は予想外の返しに驚いたが、謎の緊張と共に静かに固唾を飲んだ。


「それは、どうして」

「一番嫌いって言いましたよね」

「一番嫌いなのは綺麗事を言うやつじゃ」

「別に綺麗事を言う人が嫌いなわけじゃないです。私が嫌いな人は私がどれだけ羨ましく思って苦労しても分からなかった感情を当たり前のように簡単にひけらかす人です」

「もしかして、これまでも告白してきた人をそうやって拒絶……してきたのか?」

「告白はされたことないので」


 彼女よりも先に恋の感情を彼女に抱いてはいけないということは念頭に置いていた。しかし、彼女を恋に落とすのに自分が恋をしてはいけないというのは至難なことだった。つまり、俺は


「あのさ、俺なごみのこと好きになったみたい」


 彼女に恋をしてしまっていた。恋に落ちるのに期間は欠かせないものだと思っていた。出会って即恋に落ちるなんていうのはラブコメ小説の中でしか有り得ない事だと思っていた。しかし、俺の中で以外と恋というものは単純明快で分かりやすく薄いものだった。


「嫌われたいんですか?それとも私の事が嫌いなんですか?」

「どちらでもない、敢えて言うなら好きだ」


 俺は真面目な顔でそう答えた。嫌われるの覚悟でと言うよりは、なごみももしかしたら分かってくれるのではないかという淡い根拠の無い期待を込めて告白した。

 彼女は俺の感情に気づかないかも知れないが、俺はこのムズムズする感情を隠し殺せるほど器用ではなかった。なにふり構わず言いたいことを言えるような性格ではないが最後の希望だと信じて、もしかしたら本気の告白をすればそれが伝わってなごみも恋に芽生えてくれるのではないかと、安直な願いも込めて俺は告白をした。


「そうなんですね」

「やっぱり嫌いか?」

「そうですね、敢えて言うなら大大大っ嫌いですかね」


 分かりやすく怒っていた。なごみ自身も自分に恋ができないということ、というよりも俺に対して恋の感情が湧くことは無いとどこかで気づいていたのかもしれない。

 言われてもみれば、初っ端から遅刻はするし、ガキみたいに意地を張るわでうんざりするのも必然だ。


「一番嫌いアワードが更新されました」

「どういうことだよ」

「今までは私の知らない感情を易々とひけらかす人が嫌いでしたけど、これからは嫌いと言われても尚自分の感情を自己中に押し付けるマゾヒストが一番嫌いです。だから先輩のことは心底嫌いになりました」

「本気なん──」

「──そんなの、より最悪の気分ですよ」

「酷い……」

「先輩が言うなら多分酷いんでしょうね」


 そう淡々と言葉を並べると、ほんの少しの間を空けてから再び口を開く。


「実を言えば、先輩じゃなくても男の人なら誰でもよかったんですよね。勝手な私の都合で付き合って貰った訳ですから感謝はしてます。本当にありがとうございました」

「俺と似てるな。俺も誰でもよかったはずなのに、何も起こるはずのない小さなきっかけからこう、なんか分かんないけど、ぶわーって湧き上がってきてさ、気付いたら己ごと乗っ取られてんだもな。不思議だよな」

「先輩はきっと優しかったです。もしかしたら恋は優しさで芽生えるものかもしれませんが、私にはどれが優しさでどれが優しさじゃないのかが分かったところで『嬉しい』。そこまでなんです。それ以上もそれ以下もありません」

「任せなさい、手立てはある。時間はかかるかもしれないけど必ず──」

「──もういいんですよ先輩。これ以上はもう、……怖いです。不可能がどんどん証明されていくようで」

「それじゃあさ!例えば──」

「──はい!もうおしまいです!ほら、私ってスーパーウルトラ強いハートを持ってるんで、たかが恋の一つや二つできなかったところで何とも感じませんよ」


 そうニコニコと笑いながら、まるで感情を放ったかのように振る舞う。放ったように見えたのはあくまでも俺のイメージだが、恋に恋焦がれた女の子が恋を簡単に諦められるはずがない。余計なお世話なのは承知の上で、再度考え直すよう真剣に説得する。


「聞いてほしい。絶対に──」

「──しつこい!」

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