第33話 告白?

「何ですか急に?特に気にしませんけど」


 あの、気にしないだとあたかも「臭いけど我慢してやってんだぞ」みたいに聞こえるから、言うなら気にならないにして。それとも本当に臭いの……!?


「それは臭いのか?」

「全然大丈夫ですけど、どうしたんですか?思い出の話をしてたはずなのに先輩の口内事情の話ですか?」

「いやいや、申し訳ない。俺はやっぱり、なごみの足湯の時かな」


 俺はふふっと息を漏らしながら答えた。


「それは忘れてくださいって言いましたよね!」

「俺は忘れてもカメラロールは忘れないからなー」

「消してください!」

「消すわけないだろ」

「消しなさい!じゃあ代わりに私が消します!」


 そう言いながら俺のカメラに手を伸ばす。もちろんそんな易々と消させるはずもなく俺は手に持つカメラを自分の鼻先ぐらいまで上げる。

 するとなごみはその小さな体で一生懸命飛んだり背伸びをしてカメラを掴もうとする。正直に言うとその姿が本当に愛らしくてたまらなかった。


 全国の可愛い系の女の子好きの男性が求める小動物感というものはこれなのかと深く共感した。小動物感だけは断固譲れないと皆が強く訴える理由がわかった気がした瞬間だった。

 ただしここまで身長差があるとだな……まあ。


「おじさんが子供虐めてるー」


 と、本物の子供に後ろ指を刺されてしまう。無論俺も「このクソガキ……埋めてやろうか」と思ったりもするが、その怒りを飲み込むようになごみがキレるのでイライラが冷めるというのがオチというよりか、寧ろそれが習わしとなっていた。

 彼女の方を恐る恐る見てみると怒りとは裏腹にニヤリとした企む目付きで俺を見つめていた。


「はぁ、ほら」


 そこはキレろよと思いながらも本当に調子が良い奴だとため息をつく。そう言って俺は仕方なくカメラを彼女に手渡した。


「よろしい」


 なんとも満足気な口調でそういうとカメラロールからお目当ての写真を探りだす。


「先輩見てください!この写真の私結構イケてませんか?」

「そうだな、文句一つとして付けられないな」


 たわいもない話をしていると、駅のホームに電車が入る。徐々に減速し、やがて停車する。人の少ない車両に乗り込み椅子に腰をかける。

 腰を下ろした途端に、ふと脳裏に蘇ってきた。


 一つだけ大事な事を忘れていた。

 確かに楽しかった。充実していた。間違いなく来て正解だった。これは俺もきっとなごみも同じことを思っている。しかし、今回のデートの目的はなごみに恋ができるということを証明させてあげること。

 ただ単に俺に魅力がなかったといえばそこまでだが、果たして希望の少しでも与えられていただろうか。大した自意識過剰っぷりではあると思うが、俺は着実に協力できていたのだろうか。


「先輩この写真──」

「──なごみさ」


 なごみと目が合う。目が合って離れない。見つめ合いながら俺はなごみが何を考えているのかを考えていた。恋ができない自分に幻滅していたなごみが、恋ができない結末に終わり、尚無邪気に話せるのはどうしてなのか分からなかった。


 なごみの無垢な瞳に纏った哀愁を見つめていると、本当に楽しかっただけに泣きそうになってしまう。


「どうしたんですか?」


 俺は慌てて彼女との目線を逸らした。見つめている間は気づかなかったが彼女との顔の距離は急ブレーキをかければキスしてしまうほどに近かった。さすがの俺も照れざるおえなかった。


「いや、あのさ。もしも俺がさ、もしもの話。なごみの事が、その、好きかもしれないって言ったらどうする?」

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