第28話 おはよう!
気づくと瞼の裏にうっすらオレンジ色の光が見える。その瞬間、無事生きて朝を迎えることができたという現状にありがたみを実感した。
清々しい朝、太陽の日照りよ!おはよう!
「眩しっ!」
朝日にしては眩しすぎた。
もしくは以前テレビで放送していた『太陽。地球に接近しすぎちゃった問題』かもしれない。太陽が地球にか地球が太陽にかは知らないが、徐々に近づいてるとかいないとか。
何はともあれ、目も開けられないほど眩しかったということが言いたいだけである。
目を顰めながら半開きで再び瞼を開けると、青色の作業着のような制服のような被服を身に付けた人間が二人しゃがんでいた。二人いる人間の内の一人が懐中電灯で俺の顔を照らしていた。やけに眩しかったのはそのせいか。
「あーごめんごめん。君、こんなところで何やってるの」
あ、職質ね。驚きを引き出すほど体力が残っていなかったというのもあるが、どうやら疑われるのに耐性が付いてきてしまったようだ。すっごく嬉しくない耐性を身につけてしまった。
「えっと、ここの家の人に追い出されてしまいまして野宿してました」
「うーんと、取り敢えず署に来て貰えるかな?」
何故どいつもこいつも警官という組織は署に連れて行きたがるんだ。あれか、テリトリー内だと素早さ特攻でも上がるとでも言うのか?バカバカしい。
なんて抗うのもめんどくさくなっていた俺は重い腰をゆっくりと上げる。すると肩にかかっていたコートがゆっくりとずり落ちる。
俺が沙那さんに貰ったのはコートと申し訳程度の茶菓子と湯たんぽだけだと思っていたが、ずり落ちたコートを拾おうとすると厚めの毛布と小さめのコートも一緒に落ちていた。いつの間に……。
それを拾い上げながら思ったが、身体が言うほどダルくなかったのはこのおかげかもしれない。
「こんな山中に署なんてあるんですか?」
「ありますよ。とっておきの署がね」
「ちょっと!あんたら何やってんの!」
朝日に向かって連行されて行く俺の背中を呼び止めたのはおばちゃんだった。静寂な町内に響き渡るそのパワフルな呼び声に身体が反応する。
警官がおばちゃんの方に体を向けると同時に舌打ちをする。
「チッ」
「え、舌打ち!?」
その舌打ちに驚いた俺は警官の方へ身体を向けると、俺をその場に置いたまま朝日に向かって走り去っていった。
「え、ちょっと。警官として一番大切なもの忘れてますけど」
するとおばちゃんがこちらへと駆け寄ってくる。
「逃げられたか。あれは警官じゃなくて、警官に扮して金品をくすね取る詐欺集団だ」
すると悲しい思い出に浸るように娘の過去を語り始めた。
「ほら、沙那って気が強いでしょ。昔に、あんなような集団に色々とやられてちゃって、強くならなきゃって言ってからあんなおちゃらけた子になっちゃってさ。着物屋の娘っていうくらいだから元々は凄く大人しい子だったんだけどねー」
「性格的にはお母様にそっくりですし、元からと言われても大して分かりませんけどね」と言いたいところではあったが、人の話に茶々を入れるなと理不尽に殴られそうなのでやめておくことにした。
「それって、言っちゃって大丈夫だったんですか?」
「ああ、もちろん忘れろ」
「そんな理不尽な!」
沙那さんへのイメージが少し変わった。沙那さんは俺の嫌うギャルそのものって訳でも無さそうだ。
これは余談になってしまうが、俺は今のような他人の苦労話を聞くのがあまり好きではない。人の苦労を知ってしまうだけで誰とかに限らず同情心が芽生えてしまうものだ。
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