第26話 もう我慢できません……
そのまま歩き続けやっとレンタル屋に戻ってきた。
「すみません、おじゃまし──」
「──何断りもなしに人の家の敷居またいでんのさ?あんたはそこで寝てな」
「あのー、それは俗に言う野宿というやつですか?」
おばちゃん、冗談がきついですよー。ただでさえ真冬の夜風で体が冷えきっているというのに野宿なんかしたら風邪引くの通り越して、明日にはただの置物になってますよ?
なんて正直冗談だと思っていた。しかし、店の入口で体操座りをすること約一時間が経っていた。本当に放置させられていることにも驚いているが、俺が今だに生きてる事の方が驚きというか不思議というか奇跡である。
少しウトウトしかけていた頃だった。
キィー……バタンッ!
「ねぇ、ねぇ……」
「ッ!?違いますよ!違うんです!少なくとも泥棒じゃないです!」
「違うって私、沙那」
「あ、……沙那さぁーん!死ぬかと思いました、どちらかといえば今ちょうど死にかけてました」
沙那さんの両脇には大きなコートと毛布が抱えられていた。
「これあげる」
「ありがとうございます。あの──」
「はいこれも」
「あ、ありがとうございます。あの部屋に──」
「あと、これもね」
「あ、ありがとうございます。部屋にぃー入れさせて……頂けませんでしょうか……」
「んー……そんで君」
お前もかぁ!お前もなのかぁ!どうやら異常にまで華麗なるスルースキル、もしくはノイズキャンセリング機能は子供にも遺伝するらしい。
「ここに戻ってくる時、恥ずかしいこと言ってたでしょ」
「恥ずかしい?恥ずかしい!?」
え!?冷静に思い出してみろ。何言ってた俺?そんな恥ずかしいこと言ってたか!?イタい男みたいになってたか!?でもそんな長ったらしくダラダラ語ってはないよな。
「『なごみ!お前が輝けるってこと証明してやる!』って言ってたじゃん。もう忘れたの?」
うわぁぁぁぁー!!!!!思い出した、思い出してしまった!場の勢いで何も考えずに発言するから超イタい奴になってんじゃん!
「お願いします。どうか、どうかお忘れください」
「じゃあ嘘だったてこと?」
「その、嘘ではないんですけど、それだけ聞いたらただの黒歴史でしかないんで……」
「お前が輝けるってこと証明してやる!」
「あー!!!もう、やめてくださいよぉー!!!」
「あはは、かわいいな」
そう言うと体育座りをする俺の目線に合わせて沙那さんもしゃがみ込む。
それにしても完全に面白がられてる、遊ばれてる、舐められてる。
だから小ギャルは嫌いなんだ。都心でギャルを突き通せる度胸もないくせに、弱そうな男を捕まえてはまるで使い捨てのオモチャみたいに扱いやがって。どうせ上っ面だけのギャルのくせして立派なギャルやってますみたいに大御所気取って生きがってるだけなんだろ!
いくら年上だろうと一切関係ない。男を舐めきっているこの年上ギャルには、少し男の本性を理解させる必要がありそうだ。
手始めにニヤついているその沙那さんの顔に俺の顔を近づけ、驚き体勢を崩した所を地面に押し倒す。沙那さんが完全に仰向けになったところを上から四つん這いで跨り手を抑える。
女の子と付き合ったことはないがこういう女子は少し分からせておいた方が後々沙那さんのためにもなるだろう。
「え!?ちょ、ちょっとどうしたの!?」
「ごめんなさい、もう我慢できません」
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