第25話 こんなんじゃダメだ

「当たり前です!私の初デートどうしてくれるんですか!?せっかく楽しみにしてたのに遅刻するは逆ギレするは、挙句の果てにそこら辺にいるから探す必要ないみたいな!私は先輩の飼い犬でも飼い猫でもないですから!」


 聞かれていたか。

 そんなつもりで言ったわけではないが、確かに客観的に聞けばそうとしか捉えられない発言だった。


 今回のデートはお互いに初デートだった。

 俺だって分からないことだらけだ。何が違っていて正しかったのかも俺には全然分からない。遅刻したことも逆ギレしたことも本当に反省している。しかし、なごみが気持ちを理解して欲しかったように、俺だってなごみに気持ちを理解して欲しかった。

 言ってしまえば、俺が逆ギレする前になごみが手を引いておけばこんなことにならなかったんだ。


「でも、なごみだって俺の気持ち分かってないじゃん。確かに逆ギレしたことは悪いと思ってる。ごめん」


 そう言って深々と頭を下げた。こればっかりは百人に聞いて百人が俺を悪いと言うだろう。そのまま地面に顔を向けたまま話し始める。


「でも、なごみの『楽しみたい』ってのは『俺と楽しみたい』っていう意味なんだろ?一人で楽しめればそれでいいって言うなら……何も言えないけど」


 俺は再び体を上げてなごみの顔を見ながら話し始める。しかし、なごみは目を合わせようとはしてくれなかった。


「なごみはあの後も俺とデートを続けたかったから草履を直そうとしてくれたんじゃないのか?」

「そうです……けど」

「だったら、たまには俺の意見も汲んで欲しかったりするかも。確かに鼻につくような言い方をしたけど、ほら、やっぱり女子に助けて貰う男なんてダサいじゃん。それに、俺もなごみと一緒に楽しんでいたいってのは思ってたし。俺も自分のプライドがしょうもないってことは重々承知してる」


 自分がめちゃくちゃなことを言っているという自覚はあった。しかし、言いたいことをさらけ出したら恥ずかしくなってきた。

 何故俺は女の子相手にこんなに熱弁してるのだろうか。俺の些細な思いや意見は少しでもなごみの元に届いたのだろうか。

 因みに俺はなごみの思いを至極受けっとた。受けっとたと言うよりも『遅刻をするな』とか、『逆ギレするな』とか、当たり前のことを注意されただけだが……。


「はいはい、そこまでー」


 少しクールダウンした二人の間に入り込んできたのはレンタル屋のおばちゃんだった。後ろには沙那さんも腕を組みながら立っていた。


「二人とも泊まる場所はあるの?」

「えっと、あります」

「こんな時間にバスは出てないよ」

「……そうですよね」


 もちろんどこの宿に泊まろうかは予め決めていた。しかし、その宿に行くにはこの山を長い事下らなければ辿り着けない。流石にこの付近に宿屋はないし、かといってなごみを連れてこの暗い山道を月明かりだけで歩いて降りるのは危険だ。

 俺が遅刻してから全ての計画は狂ってしまった。しかしここまで大幅に狂うとは思ってもいなかった。実際俺の計画通りに進んだのはこの場所に辿り着く事ぐらいだ。


「今晩だけなら止めてあげるけど?」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

「ちょっとなごみ!そんなあからさまな」


 人の恩に躊躇いを示さないなごみを引き止める。別に引き止める必要はないが、なんかこう、元から縋る気でいたような態度がいやらしいというかなんと言うか。


「気にしなくていいよ」

「本当にすみま……ありがとうございます」


 灯篭の人工光がメラメラと輝く夜道を四人で歩き進める。女性三人組が前で楽しそうにはしゃいでいる後ろを俺が着いていく。今日一日の中で最も楽しそうにしているなごみを見たかもしれない。


 こんなんじゃダメだ。確かに今日を振り返ってもいい思い出はあまり作れなかった。悪い思い出の方が多いくらいだ。であれば、デート最終日で挽回するしかない!


「なごみ!……今日はごめん!お前が輝けるってこと、絶対に証明してやるから!」

「……」


 しかし、なごみは前を向いたままで、返事は返ってこなかった。別に返答を求めていたわけではない。これはただの決意表明にして悪く言えば自己満足だ。今日のことを全て忘れる程には楽しませてやる!


 なごみの顔を伺った後、なごみの代わりというわけではないが沙那さんが笑顔で振り向いて口を開いた。


「背水の陣だね」

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