第20話 一緒に着ましょう!
「先輩先輩!なんか着物きて観光できるらしいですよ!一緒に着ましょうよ」
「俺は似合わないから、着てきなよ」
「先輩……?私を落とすんじゃないんですか?大人しく聞いておくが吉だと思いますよ?」
「あぁー?分かったよ。でも、絶対にバカにしないと誓えよ」
服を脱ぎ、帯の色、着物の種類を決め、着合わせをする。
着物とか、いつぶりだろうか。着物ではないが小さい時から夏祭りに行くとなると毎年のように浴衣を着させられていたが、浴衣顔じゃないとかなんとか言われて、ほっとけや!と思ってはいたが内心とても傷ついた思い出がある。勝手に着せておいてそれは無いだろと思ってはいたが、生憎当時の俺は周りの目を気にするようなガキンチョではなかった。
こうして改めて鏡を見て思うが、いつまでたっても変わらないな俺は。
ガサゴソガサゴソ……あ、苦し……数分後……。
俺が試着室から出るとそこにはなごみが立っていた。それはそれはなんとも一言で言い表すのが勿体ないほどに美しく、現実とは異なり淑やかな落ち着きを身にまとっていた。
方やなごみは、俺の着物姿を一目見るや否や、ピクピクと肩を震わせる。そーだ、つまり大爆笑だな!
「笑うなって言ったろ!」
「……そ、そんな、笑うなって言う方が残酷ですよ」
と言いながら再びピクピクと肩を震わせる。
「先輩違いますよ。来てください」
すると帯の色、着物の種類を選び始めた。
「何してんだよ。もう笑い済んだだろ」
「先輩の場合は色の組み合わせが悪いんですよ」
なごみの選び直した着物に着直す。
「ほら、先輩はスタイルいいんですから似合わないわけがないんですよ。うん!かっこいいです!」
「ホントかよ」
「まあ、あの色の組み合わせで出てきた時は良くも悪くも先輩だなぁーって思いましたけど」
「上げるだけ上げてはたき落とすのやめてくれない」
俺達は着物を着ると草履に履き替え早速街並みの観光を始める。本格的に日が暮れてくると、道の脇に点々と置かれた灯篭に次々と人工の灯火が灯りはじめる。
さあ、いよいよデートが始まってしまったわけなのだが、心を踊らせているのか、緊張をしているのか、兎にも角にも俺の心臓が激しく脈を打っているのに間違いはなかった。この時間だと、えーとそろそろ夜ご飯の予定なんだけど……。
今回のデートは俺が完璧にエスコートをするつもりだった。しかし、俺の立てたプランは何時しか彼女の『楽しい』に揉み消しにされていた。ある程度時間をかけて組んできたプランのつもりだったが、なごみの中に元々組み込まれていたプランに勝るプランは存在しないようだ。せっかく立てたプランが少し勿体ない気もしたが、なごみの笑顔を見ていられるならそれが一番に決まっている。
「お腹空きませんか?」
結局、飲食店を探すことになった。ただし、立て続けに現れる風情溢れた店舗の中からただ一つお互い食べたいと思う物を選び抜かなければならなかった。既に夜だというのにどこもかしこも中々の人盛りで滅入ってしまう。まずどうにかして一旦人盛りから抜けようと裏路地へ向かった。
「せんぱーい、どこですかー?」
人混みの中でなごみが声を上げながら必死に手を上に伸ばして俺を探している。
「お、おい、こんな少女マンガど定番みたいなことやらせるなよ。わざとやってんのか!」
俺の事を探すなごみの腕を優しく掴む。
あぁ……あぁ!……うわぁぁぁ!!……知ってるかぁぁぁ!!??めっちゃ恥ずいからなコレ!ラブコメとか少女マンガだとあんなに堂々とドヤ顔で彼女の手を取って「おいおい、お前は俺の視界にだけ映ってればいいんだよ」とか言うけどな、あれ裏で絶対悶絶してるからな!現実世界では引かれることはあっても惹かれることは無い。不愉快だと目潰しされてもおかしくないレベルだ。
なんて考えながら顔を赤くしてなごみを路地裏まで引っ張る。
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