第17話 デート開始!
そしてデート当日。
少し早いが十五分前には待ち合わせの場所に到着していた。流石にまだなごみは来ていないようだ。
「さて、至福のお時間だぁー」
そう独り言をボヤきながら鞄からライトノベルを取り出す。いや、待てよ?一様おさらいをしておくべきか?
実を言えばシナリオの続きが気になってしょうがないのだが、今回のデートに強い責任を感じているのだろうか。読みたい衝動をグッと堪えてカバンの中にしまう。代わりに、これさえあれば恋愛で泣かない圧倒的バイブル本を取り出し付箋を付けたところを読み返す。
ふむふむ、そうだった、第一ミッションはあれだな、「今来たところ!」ってやつだ。これは予備知識として知っていたが、いざ当日になると緊張で忘れてしまいそうになる。
すると、前方の方から見るからに異彩の放った少女がコトコトと靴音を立てながらこちらに向かってくる。
そこには完璧に着飾ったなごみの姿があった。これなら予め準備しておく必要はなかったな。褒める準備をしていなくとも自然と出てしまっていただろう。それほど、なごみの姿は綺麗だった。その証拠に通りかかる人も彼女を一目見るやいなや早くも虜になったかのように見つめている。ただ、九割の人の頭の中は綺麗というよりもかわいいの言葉で埋まっていそうだ。
「よく似合ってるぞ。どストレートどストライクだ!」
「ありがとうございます」
ニコッと照れる姿もまた可愛らしい。そうだそうだ!
「あ!えっとえっとい、今来たところだから!全然待ってないし、気にしなくていいからな」
よし、とりあえず第一ミッションはクリアだ。なごみの容姿に気を取られて忘れるところだったが、これで早速好感度ゲットだ!
「私は結構待ちましたけどねー」
「え?」
「一時間ぐらい?せっかくレモンティー買ったのに、もう冷めちゃってます」
そう言うと冬の寒さで冷えきってしまったレモンティーを俺の手のひらに置く。ふとなごみの手の甲を見てみるととても赤く痛そうだった。
「えーと、ごめん。早めに来たつもりだったんだけどな……。十五分前じゃ遅かったな」
反省しながら分かりやすくしょげる俺を見てふふっと息を吐くように笑うなごみ。
「正直帰ろうかなって思いましたけど」
「え、そこまで!?」
「だって今十時ですよ?待ち合わせは八時半なのに」
「ウソだろ?そうだったけ……。てことは、八時半から一時間半も待ってたのか……?」
「そうですよ?あまりにも遅いし、連絡先も知らないし、忘れてるのかなって」
「本当にごめん!でも、忘れることは絶対にない!俺だってすげぇー楽しみにしてたんだから!」
「楽しみにしてくれていたんですか?」
「当たり前だ。あ、ちょっとまってて」
着ていたコートをなごみに渡すと自販機に走る。なごみの体は完全に冷えきっていた。触って確かめたとかいう訳では無いが見れば瞬時に分かった。手の甲だけでなく鼻頭も同様に赤くしていた。さぞ寒い思いをさせてしまったであろう。
それというのに俺はなごみからの印象ばかり気にして、見れば瞬時に気付くような体の容態ですら気付くことができなかった。俺が待ち合わせ時刻を間違えたがばっかりに……。何が恋路のサポートだ!どうしたら彼氏が憧れの初デートに遅刻するんだよ。楽しみにしていたというのも事実であり、楽しませたかったのも本当だ。
だからこそこんな俺に幻滅する。
「これ、良かったらカイロ代わりにしてほしい」
俺は自販機で買ったホットミルクティーをなごみに手渡した。
「もし良ければこの手袋も」
俺は両手に付けた手袋をはずしなごみに手渡す。
彼女の信頼を取り戻したい、幻滅されたくない、嫌われたくない。そんな靦然たる身勝手な思いが次から次へと溢れ出てくる。こんな事を考えている間も自分の失態を叫び出してしまいたいし、何もかも無かったことにしてしまいたいほど悔しい。
しかし、この時俺がとった行動は彼女からの評価や何よりも彼女を大切にすることだけを考えて行動していた。俺のやっている事は筋道どころか論点すらもろくに定まっていないかもしれないが、俺の中ではこれが彼女にしてあげられる限界値だった。
「ミルクティーせっかく暖かいのに手袋したら分からなくなりますよ」
「そっか、じゃあ片手だけとか?」
「そこまで言うなら」
そう言うと右手の手袋だけ取って付ける。
「はぁ、俺ダメダメだな」
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