第16話 ……あっ♡

「あ、お前!」


 そう警官が発すると、俺の腕をガシッと掴む。あれれ、デジャブかな?とも思ったがあまりの唐突の出来事に戸惑っていた。もちろん抵抗はしなかった。警官は俺の腕を掴んだまま胸元の警察無線で現地への応援を伝える。


「五時五十二分、幼女を襲ったと思われる男を逮捕。男は幼女を連れ建物の中に匿っていた模様です。急遽○✕喫茶前まで応援願います。」


 幼女を襲った!?まあまあまあまあ、一旦幼女という事実と襲ったという無実は置いといてだな、建物の中に匿っていたはまずいだろ!確かに間違ってはないけどさ。匿ってないし、喫茶店とかいう人が入れ代わり立ち代わり出入りをする場所でどう匿うんだよ!あーもう意味わかんないし。


「動くな!」

「え?動いてな──」

「──喋るな!」


 あ、分かったぞ!これドッキリでしょ。頭の悪い警官に捕まったらどんな反応するのかみたいな。もしドッキリじゃなかった時は流石にキレてもいいと思わないかい?

 しかし、俺がキレる前に既にキレているやつがいた。


「お巡りさん。幼女ってまさか私の事ですか?」

「逃げて!せめて俺だけでも離して!絶対に戻ってくる、約束するから!」


 必死に逃げようとする俺の腕をガッチリと掴みながら中腰になり、迷子の子どもと話すかのような話し方でなごみに話しかける。


「今からお巡りさん達が来るから、そしたらお母さんの所に帰れるからね。ちゃんとおじさんがおじさんから守ってあげるからね」


 あ?この警官に情けをかけた俺がバカだった。やっぱり一発やられるがいいよ。誰がおじさんじゃ!どいつもこいつもどっからどう見たらおじさんになるんだよ!それよりなごみの顔が……ひぇぇー!!


「お巡りさん。私はこう見えても高校生なんですよ?」

「そっかそっかー。すごいなぁー」


 ──その後なごみがどんな言葉を発したのかはご想像におまかせするとして、取り敢えず警官が腰を抜かす程の言葉を吐いたらしい。


「すみませんでしたぁぁぁっ!!!」


 その後、なんやかんやてんやわんやあり結局二人とも署まで連行され、事情聴取を受けた後、無実と判明したにも関わらず俺は注意勧告を受けていた。勧告内容は『デカすぎるから誤解されないように気を付けなさい』という内容だった。この時、俺は突っ込むのをやめた。お互い家に着いたのは九時頃だった。一つ驚いたことといえば、通報したのが慌てていたお兄さんではなくシルバーカーのおばあちゃんであったことぐらいである。お兄さんは無事だろうか。リストラされていないだろうか。

 今日は最も感情の動きが活発な一日だった。ホント……いや、ホント疲れた。今日の俺は頑張った。おやすみなさい。


 この日の夜、彼は夢でも差し押さえられたという。

「う、うぅあ。……あっ♡」



 裏話はこのくらいにしておいて、積もる話と言いながらのほとんど旅行の打ち合わせをしていた。話し合いというよりもなごみの意見をうんうんと聞き入れていただけだが、取り敢えず行先は岐阜県に決まった。待ち合わせ場所や待ち合わせ時刻その他諸々を決め、予め何をするのかを軽くまとめた。


 あくまでも本来の目的を忘れてはいけない。もちろん、お互い楽しむことも大切な事かもしれないが、今回は俺がなごみの夢見る恋路をサポートする理想の男にならなければいけない。いかに好きになってもらうか。それを念頭に置いた上で楽しむことが出来れば最高のデートになるに違いない。


 無論、自ら女の子を落とすなんてキザなことをした覚えはない。周りからどう見られているかは知らないが、少なくとも俺には心当たりがない。なんだって?そろそろ認めろ?タチが悪い?うるさい。だからといってその場の成り行きの雰囲気に任せるようなそんな無責任なことはしたくない。彼女の力になると決めたんだ。その為には、多少勉強も必要となるだろう。


 俺はデートの基礎を学習する為にわざわざ書店を訪れ一冊の本を購入した。レジに本を持っていくのに羞恥心と五時間も葛藤したというのはここだけの秘密である。購入した本には『服装を褒める』、『基本的に話は聞き手に回るのが良いかも?』などざっくりとした基本的なことから『褒めるのと余計な気遣いは別』、『どうしても自分の意見を言いたい時は一度彼女の意見を肯定してから』などと具体的なことまでビッシリと書かれていた。一通り読んでみたが、結局は愛を持って接してあげることができればいいのでは?という結論に陥った。ただしなごみだけに限る話かもしれない。

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