第15話 へっ!チョロいわ!
「『かっこ悪ぃところは見せれないぜぇー』ていう彼氏さんの気持ちも、『大人らしいところも見せたいわー』ていう彼女さんの気持ちもどちらも分かりますけど、やるならもっと平然としなきゃダメですよ。二人とも初々しすぎてニヤニヤを堪えるのに必死でした」
確かにバレてはいたが、敢えて飲めるという嘘をついてまでキリマンジャロコーヒーを頼んだのには別の理由がある。決して俺は定員さんが想像しているようなカップルチックな理由で強がっていた訳では無い。それは
『『だって喫茶店でオレンジジュースとか頼んじゃったら秒でバカにすんだろコイツ!』』
なごみが強がる理由はよく分からないが、そんなこんなでお互い睨み合っては「へっ!ブラックなんてチョロいわ!」と目で訴え続けていた。そんなしょうもない意地の張り合いを定員さんの前で繰り広げていたのだ。考えてもみればそんな二人の睨み合いを見ていたのだから勘違いされない方がおかしいのかもしれない。まだ、定員さんの言うように可愛らしい意地を張り合っていた方がマシだった。
「で、お二人共使わないんですか?持っていっちゃいますよ?」
「こ、こいつが使ったら同じだけ使ってやりますよ」
「何言ってるんですか先輩。そこは男が先陣を切るのが筋ってものなんじゃないんですか?」
「あーそうだな。物は言いようってよく言ったものだよなー。それじゃあなごみ、レディーファーストって言葉知ってるか?知らないとは──」
「──いい加減にしないと訴えるぞロリコン」
あの時の「はぁ?」もそうだったけど、たまに出るその「そろそろ本気出すけど準備しといてな?」みたいな顔やめない?スゲェ怖いから。だったら砂糖もミルクも入れずに流し込んだ方がマシかもしれないと思ってしまう。ともいかないので……。
「そうだ!お姉さんが平等に入れてくれればいいじゃないですか!」
「ッチ。逃げた」
「か、勘違しないでよねっ!お前から逃げただけだからな?」
「お前って私の事?なんで」
「へーあれ素なんだ。思ってた以上に怖いのなお前って」
そんな言葉のキャッチボールを通り越してドッジボールをしているうちに定員さんはいなくなっていた。
早速なごみがコーヒーカップを持ち上げて片手をカップの底に添えながら口元に運ぶ。その手は面白いぐらいに震えている。
「うーん。ちょっと甘いくらい?ちょうどいいけどね」
なごみの口にあう味とは如何なるものかと気になった俺もカチャッと音を立てながらコーヒーカップを持ち上げると口に運んだ。
「ま、まあ。まあまあ?……!ゲホッゲホッ!お、お前騙したな!」
「急に騒いでどうしたんですか」
「コレめちゃくちゃ苦いじゃんか!」
俺は涙目でそう言うと、朗らかかつ清々しい顔でなごみが言う。
「先輩はコーヒーなんか飲めなくても顔でプラマイゼロなので大丈夫ですよ」
意味は全く分からなかったが、それってもしかして慰めてくれてるの?褒めてくれてるの?あぁ嬉しいよなごみ……。でも、知ってるよ?それ、貶してるよね?どうせ嫌味なんだろぉ!?くそぉぉぉー!!!
「そのまんまを言っただけですよ?」
「まだ何も言ってないですよね?」
「平等に砂糖もミルクも入れたはずなのに私に飲めて先輩には飲めないだなんて、先輩はすごーく大切に育てられたんですね」
「もうやめてー」
これほどまでに罵倒されていた方がマシだと感じたのは生まれて初めてかもしれない。
──『喫茶店にて』裏話──
積もる話もあり二人で長々と話していた所、すっかり日が暮れてしまったので勘定を済ませて喫茶店を出たら……警察に捕まった。
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