第14話 キリマンジャロコーヒー
「なんだよ」
何とはなしに辺りを見回してみると、スーツを着たサラリーマンや買い物帰りの主婦など、皆していけないものを見てしまったかのような目でこちらをチラチラと見ては素通りしていく。シルバーカーを押しながら散歩をしていたおばあちゃんに限っては俺たちの目の前を満面の笑みで通り過ぎていった。
あーでも、あれだけは不思議だった。わざわざ俺たちの目の前で足を止め、ポケットから何かを取り出したと思えばケータイを耳にあてながらアワアワと静かにふためくお兄さん。いやー、不思議だったなー。
お兄さんもこちらをじっと見つめてくるので俺は首を傾げて突っ立ていた。
会議にでも遅刻したのかな?取引先とのトラブルかも。まあ、社会人には大変な苦労が沢山あるのかもなー。うーん……って違うだろ!
「なごみ!お前いつから気付いてた!?」
「言ったじゃないですか?先輩が立つからこうなったんですからね」
「え、なに。『こんな大きいのと一緒に歩いている姿見られたら子供って勘違いされちゃうー!』って思ってたんじゃないの……?」
「だーかーらー!先輩と一緒に歩いてたら先輩が犯罪者扱いされますよって言いましたよね!?個別でカフェに入ればこんなことにならなかったのに。あの人、多分通報してましたよ」
「よし、急ぐぞ」
個別でカフェに入ったとしてもこの事態を免れることはなかったと思うが、そんなことを言っている場合ではない!俺達は数歩先にある喫茶店に慌てて駆け込んだ。
「先輩のジャケットよりもいい匂い」
「絶対言わなくていいよそれ……一応聞くけど、冗談だよな?」
客席に着くとバイトのお姉さんが手馴れた客捌きで上品な接待をもてなしてくれた。何かの病気だろうか、純情な定員さんでさえも穢れた物を見る目付きで見られているように感じてしまう。
「犯罪者じゃないですよ!」
「……」
「犯罪者じゃないですよ!」
「あ、はい、そうですねー」
取り敢えず第一関門を突破した。
まるでいいとこのレストランに来ているかのような気持ちになった。「ご注文はお決まりでしょうか」と聞かれたので時差ゼロのタイミングで二人同時にキリマンジャロコーヒーを指差す。バイトのお姉さんは『仲がいいんですねー』もしくは『娘さんはもうコーヒーが飲めるんですか!?スゴいですね!』と言わんばかりに元気よく「かしこまりましたー」とオーダーを済ませた後、ニコニコしながらカウンターの奥へと立ち去っていった。
「デートの話なんだけど、いい考えがあって」
「男の人がエスコートしてくれるっていうのは本当だったんですね!都市伝説じゃなかった……」
「うんまあ、リクエストがあるなら遠慮なく言って欲しいんだけど、やっぱりどうせなら本場の五平餅を食べに行くのがいいのかなって思ったんだけどどう?」
「うわぁーー!行く、行きますっ!楽しみー!!」
ウンウンと頷く姿や、目を輝かせる姿を見ている限りこれは本当に楽しみに感じてくれているようだ。誰かとこんなふうに楽しくワイワイした事をしたのはいつぶりだろうか。とても新鮮に感じるということは、久しくなかったということだろう。いつも俺の目の前には本、本、本!だったからな。このテンションについていくのは多少厳しいかもしれないが、今はこの時間に浸っていたいと思う。
「あの、お客様当店での会話はもう少し声を落としてく──」
「「──すみません」」
「はい、良いですよー。お待たせ致しました。キリマンジャロコーヒーお二つですねー」
それぞれの前にコーヒーカップをそっと差し出す。
「こちら、当店特性の砂糖とミルクとなっております。ご自由にお使いください」
そう言うと、その秘伝とか言う砂糖とミルクをなごみのコーヒーカップの横に置く。なごみは小さいからな、子供と間違えられるのも仕方の無い話だ、当然だな。
かと思った矢先に続けて俺のコーヒーカップの横にも置く。
「えっと、僕は大丈夫ですよ?」
「ご自由にお使いして頂ければいいので、無理してお使いして頂く必要はございませんよ」
その優しく鋭い言の葉に思わず誤魔化しきれない引きつった笑顔をしてしまう。するとお姉さんが「はぁ」と軽いため息をつく。さっきまでの上品さはなんだったのか、すっかりプライベートの感覚で話しかけてきた。
「でも、お二人共コーヒー飲めないですよね?」
──なんでバレた……!──
「「べ、別に飲めないこともない!!」」
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